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托卵 第3話

(16)狂怖
 とにもかくにも誠二を探さなくてはいけない。警察に駆け込まれたら終わりだ。いや、誠二は警察に行かないだろう。奴の目的は私を苦しめることだ。私が逮捕されること以上の苦しみを与えたいと思っているはずだ。
 何としても連れ戻さなくてはならない。いや、最悪殺してしまっても構わない。一番死ぬべきは誠二だ。ポケットには奴が以前渡したバタフライナイフがある。
 誠二はどこに行った?私はまず奴の実家のオンボロアパートに行った。もしいなかったら、奴の親父に居場所を吐かせればいい。
 部屋の前まで来た。だが、人の気配を感じられない。ドアノブに手を掛ける。鍵は掛かっていないようだ。ドアをゆっくり開けて中に入る。
 中は空き巣が入ったのかと思われるくらいゴミや家具が散乱していた。あの彩色されていない、目の部分だけ黒い不気味なコケシは全て破壊されているようだ。コケシの生首でいっぱいだ。
 だが、コケシのことなんてどうでもいい。肝心の誠二がいない。父親もいない。
 いや、父親はいた。より正確に言えば、「父親だったもの」があった。
 誠二の父親は和室で首を吊っていた。天井から垂れ下がるロープに首を巻きつけ、ユラユラと揺れていた。薄汚れたシャツ1枚を着て、下半身は裸だ。股間に汚らわしい棒がぶら下っている。その下の床には茶色い水溜まりが出来ている。とてつもない悪臭だ。しかし、身体からは腐臭を感じられない。まだ死んで間もないようだ。
 当然私は驚いた。腰が抜けてしまった。まさか自殺しているとは思わなかった。しかも、満面の笑みで。可笑しくて可笑しくてどうしようもないとばかりに口を大きく開けており、今にも笑い声が聞こえてきそうだ。なんと狂った死に様だろう。
 すぐここから逃げ出すべきだ。私の心はそう叫んだ。しかし、私の頭は拒絶した。何か誠二の行方がわかるものが見つかるかもしれない。とめどなく湧き出る恐怖を必死に抑えながら、私はあちらこちらを漁ってみた。
 すると、和室にある小棚の中に複数の写真を見つけた。裏にして重ねてある。
 上の一枚を手に取って見る。それは私が街中を歩いている写真だった。私に気付かれないよう、遠くから隠し撮りしたのだろう。私を囲むようにして、ある1文字がマジックペンで書き連ねられていた。それは「呪」と言う文字だった。
 私は短い悲鳴を上げて写真を落とした。強烈な殺意だ。一体私が何をしたと言うのか?確かに彼の妻と関係を持った挙句、轢き殺してしまったが、ここまで過剰な憎悪を向けられる謂れはない。
 自分に性的魅力がないのが悪い。不倫される方が悪いのだ。しかし、その言葉は間もなくブーメランとなって私に刺さることになる。
 次の写真を手に取って見る。その直後、私は素っ頓狂な声を出してしまった。
 その写真は2人の男女がこの和室で激しくセックスしているところを撮ったものだった。男女とも私が知っている者だ。男の方は誠二の父親、女の方は夏美だった。
 私は我が目を信じられなかった。不倫していると疑ってはいたが、まさか相手が若い青年ではなく、私より遥かに年上の薄汚い高齢者とは、想像だにしなかった。
 何故夏美はこんな汚物とセックスしたのか?しかも、気持ちよさそうに。あまりに非現実的且つ不可解な写真に、私は裏切りに対する怒りや不倫された屈辱を感じる余裕を持てず、ただひたすら困惑した。
 だが、次の写真はさらなる困惑を私にもたらした。取る前から嫌な予感がしていたが、その予感は果たして的中した。
 3枚目の写真もあのジジイが和室で女とセックスしている写真だった。女は春江だ。春江も私を裏切っていた。私の前では一度も見せたことがない恍惚とした表情をしている。
 私は眩暈を覚えた。私よりもこんな萎びた老いぼれとの性交渉の方が素晴らしいのか?理解不能だ。悪夢以外の何物でもない。
 だが、悪夢はさらにそのおぞましさを増殖させて、私を絶望の奈落へ突き落とす。
 4枚目の写真。触れることすら恐ろしいが、確認するしかない。「まさかそんなことはないはずだ」と強く思いながら、恐る恐る写真を手に取る。そして、意を決して見る。
 その瞬間、私は気を失いかけた。写真の中には「そんなこと」があった。
 秋奈だ。秋奈が誠二の父親とセックスしている。今私がいるこの和室で、まだ十代の娘の若々しい肉体と薄汚れた醜い老人の萎びた肉体がぶつかり合っている。「似た容貌の風俗嬢だろう」と思い込みたかったが、どう見ても明らかに私の娘だ。その証拠として腹のあたりに卵型のアザがある。それは父から遺伝したものだ。
 私は気を失いそうになった。「悪夢のようだ」ではない。これは悪夢だ。現実ではない。私は夢を見ているのだ。しかし、目の前の圧倒的な現実は私の願望を尽く叩き潰す。
 最早怒りも屈辱も困惑もない。純粋な恐怖だ。道理の通じない異常者どもに狙われていることを強く認識し、生命の危機を痛感した。
 一刻も早くここから逃げなければならない。しかし、写真はあと1枚残っている。私はそれをめくるのがとても怖かった。夏美、春江、秋奈と続けば、次が何の写真か容易に想像できる。冬子までジジイの性処理に使われているとは思いたくなかった。
 だが、好奇心は抑えきれない。私は最後の写真を手に取った。その写真には冬子は写っていなかった。
 とても古い写真だ。朽ち果てた神社らしき建物を背景に若い男女が写っている。男は裸の赤ん坊を抱きかかえ、女は男にベッタリくっついている。女は私の母だ。であれば、男は私の父?いや、違う。
 コイツは誠二の父親だ。今とは姿がだいぶ異なるが、あの男だ。今と変わらぬ、気味の悪い笑みをニタニタと浮かべている。何故母と奴が一緒になっている?奴が抱えている赤ん坊は何者だ?
 赤ん坊は性器が丸出しだ。男の子だ。腹にはアザがある。卵型のアザだ。私と同じ形のアザだ。
 私はとてつもなく嫌な予感がした。それは、秋奈がジジイとセックスしていること以上にあってはならないことだ。
 私は首を吊っている誠二の父親の前に行き、奴の汚れたシャツをめくってみた。奴の膨らんだ腹が見える。そこにはあってはならないものがあった。
 卵型のアザだ。私の父にも母にもなかったアザが何故この男にはあるのか?何故私にはこの男と同じアザがあるのか?その答えは既にわかっているが、認めたくはなかった。
 つまり、私と誠二は異母兄弟と言うことか?いや、誠二の父親は「本当の息子ではない」と言っていた。でも、私は少なくともあんな性欲ジジイと同じ血を持っている。遺伝子レベルであの異常者に絡みつかれている。自分の体内で汚らわしい病原菌がはびこっているような気持ち悪さを感じる。奴の血を一刻も早く排出したい欲求に駆られる。
 その一方で、奴の血を引いていることに納得している自分もいる。妻や娘達が汚いジジイと交尾している写真を見て、少なからぬ性的興奮を覚えている。私の一物が屹立している。私もジジイも性欲異常者だ。認めたくはないが、似た者親子だ。
 まさかこんな形で実父と再会するとは想像だにしなかった。まさか不倫で付き合った女の夫が自分の父だったとは、何と言う偶然だろう。
 いや、これは本当に偶然か?実は仕組まれたことなのか?あの女が私の車に轢かれることも計画の内なのか?自分の妻をあえて自殺させたのか?
 そもそもこの首吊りジジイは本当に自殺したのか?誠二が殺したのではないか?奴なら自分の父も平然と殺せるだろう。あのセックス写真もきっと誠二が撮影したのだろう。では、私と母とジジイの写真は誰が撮った?母の夫、つまり私が今まで父だと思っていた男か?もしそうであれば、妻と間男の仲睦まじいところを撮影するとは、まともな神経ではない。
 とにかく全てが意味不明だ。何もかもが謎すぎる。
 しかし、今最も大事なことはわかる。誠二だ。奴はどこにいる?

(17)決断
 結局私は家に戻ることにした。あちらこちら探し回ったところで、誠二は決して見つからないだろう。警察に行っても、私が監禁犯として逮捕されるだけでなく、妻達がジジイと関係を持ったこと、そのジジイが実は自分の実父だったことなどの恥ずべき事実が世間の目に晒されるリスクがある。
 私がまずやるべきことは大事な人達を守ることだ。
 春江、夏美、秋奈、そして冬子。冬子以外はあの汚物と性交渉した罪があるが、それを以て私の性欲解消装置としての価値を失った訳ではない。冬子も、何の性的魅力もないにもかかわらず、特に守るべき存在であると私に強く意識させる。奴を逃がした愚図な娘に対して、私は最愛の感情を抱いてしまっている。まっとうな繋がりを感じられるのは冬子だけだ。
 私は我が家に帰ると、いの一番に冬子の部屋へ入った。冬子は部屋の隅で体育座りをしていた。私が入ってきても、無視を決め込んで何の反応も示さない。存在を認識することすら拒絶するほど父を嫌ってしまっているようだ。
 けれど、私は気にしない。心からの謝罪の気持ちで、彼女に対して土下座した。
「殴ってすまなかった。誠二を逃したのは自分が助かりたいからじゃない。アイツが可哀想だったからだ。そうだろ?」
「違うけど」
 冬子は呟くように否定した。「違わない」と私は否定し返した。
「この中でまともなのはお前だけだ。みんなどうかしてる」
「そうなったのはアンタのせいだ」
 冬子は私を睨みつけた。嫌悪を通り越して殺意すら感じる視線だ。「今まで女を自分の性欲の捌け口としか見てこなかったツケが今回ってきたんだ」と彼女は毒づいたが、至極もっともだ。「そうだ。その通りだ」と私は素直に受け止めた。
「今になってようやく自覚した。全てオレのせいだ。オレがケリをつけなければならない」
「じゃあ、私を殺してよ。それで全て終わる」
 冬子は自分を指差した。相変わらず自分のことを大事にしていない。自分を無価値な人間だと思い込んでいる。だが、私はそれを認めない。
「お前は殺さない」
「なんで?私は『大事な人』じゃないから?」
「違う。大事な人だからだ」
 その直後、部屋の外から悲鳴が聞こえた。

(18)選択
 春江と秋奈は全身真っ赤になっていた。凄まじい高熱だ。彼女達はリビングの床の上で悶え苦しんでいた。まるで茹でたタコみたいだ。
「このままじゃみんな死んじゃうモチ!早くアイツを殺してモチ!」
 夏美が狂ったように叫んで春江を指差す。
「ダメ!私を殺して!」
 冬子は自分を指差して叫ぶ。
「黙れ!」
 私はあらん限りの声で怒鳴った。この中で一番動揺しているのは私だ。ようやく誠二の虚言が虚言でなかったことを悟った。この中の誰かを殺さない限り、事態が収束しないことを確信した。
 私は春江、夏美、秋奈、冬子をソファーに座らせた。そして、彼女達を結束バンドで拘束し、布で目隠しをした。
 彼女達の前に立ち、誠二から貰ったバタフライナイフを手に持つ。彼女達は何も言わない。押し黙っている。自分は殺されないと確信しているのか、それとも諦めているのか、私にはわからない。ただ私にできることはこの4人の女から生贄を選ぶことだけだ。
 しばらく逡巡した。誰を殺そうか迷っている訳ではない。実はもう決めている。彼女を殺すのを躊躇っているだけだ。彼女に対して愛情がない訳では当然ない。できれば殺したくはない。しかし、いかなる消去法を用いても、彼女が必ず残ってしまう。であれば、もう彼女を消去してしまうしかない。
 私は遂に決断した。ナイフで彼女の胸を突き刺した。抜き取ると、血が湧き水のように流れ出した。彼女はグウと呻き声を上げて、そのまま動かなくなった。
 私が殺したのは夏美だ。
 まず愛すべき娘である冬子を選択肢から外した。残る3人は性的魅力の観点から選択した。夏美も十分素晴らしい肉体を持っているが、春江・秋奈の若々しい肢体と比べると明らかに劣後する。ババアより女の子とセックスしたいと考えるのは日本男児として常識的且つ合理的である。
 私は生き残った女達の目隠しと拘束を解いた。女達は生贄の哀れな死体を目にして、複雑な表情をした。自分が生き残った喜びと自分以外の人間が殺されたやるせなさが相混じって、感情の処理がうまくできないのだろう。
 春江と秋奈は見るからに熱が下がっていた。額の「恥」の字も消失していた。ただの頭が禿げ上がった女になっていた。「熱が消えた」と春江は呟いたが、その言葉の語尾には「モチ」が付いていなかった。
 つまり、我々は誠二の呪いからようやく解放されたのだ。
 しかし、その喜びを私は微塵も感じなかった。人を殺すなんて生まれて初めてだし、ましてやその相手が自分の妻だ。春江と秋菜には劣るとは言え、二度とセックスができなくなるのは残念至極だ。
 こんなことになったのは全て誠二のせいだ。しかし、奴の言うがままに行動してしまった自分の無力さ・情けなさに心底腹が立つ。
「なんで?」
 と秋奈は不思議そうに尋ねた。
「黙れ」
 と私は静かに言った。
「なんで私じゃないの?」
 と冬子は問い詰めるように尋ねた。
「黙れ」
 と私は静かに言った。
「なんで怒ってるんですか?」
 と春江は冷静に尋ねた。
「黙れ!」
 と私は大声で怒鳴った。
「うるさいんだよ!どいつもこいつも!助けてやったんだ!喋るな!黙れ!」
 まるで頑是ない子供のように喚き散らす。そんな見苦しい中年男に対して、女達は哀れむような視線を送る。「哀れむ」は「見下す」と同義だ。誠二と同じく私を見下している。それが私をより激昂させる。
 私は彼女達の頬を引っ叩こうと思った。しかし、春江と秋奈の頬を叩くことは叶わなかった。何故なら、2人の顔がなくなったからだ。

(19)托卵
 春江と秋奈の顔がまるで風船のように膨らんでパンと音を立てて弾け飛んだ。2人の血と肉片が側にいた私と冬子の全身に満遍なく付着した。
 あまりに唐突な惨劇に私も冬子も言葉を失い、ただただ呆然とする他なかった。ようやく私が我に返ったのは、ある人物が目の前に現れてからだ。
 誠二だ。まるで自宅に帰ってきたかのように、堂々とリビングに入ってきた。うすら笑いをニタニタと浮かべている。この憎たらしい笑みに対して、私は何度も苛立ちを覚えたものだが、それらを全て足しても尚、今の感情を超えることはできないだろう。
「何故だ⁉︎」
 私は誠二に向かって咆哮した。
「テメエ!騙したな!クソ野郎!」
「僕は騙していません。これは先生が僕の言う通りにしなかった結果です」
 相変わらず気持ち悪いくらい冷静な態度だ。そして、私をあからさまに蔑んだ口調だ。私を宥める気も哀れむ気もない、純粋な悪意しか感じられない声だ。
「ちゃんと殺した!」
 私が夏美の死体を指差すと、「だから?」と誠二は首を傾げた。私の殺意はますます加速した。
「オレをおちょくってんのか⁉」
「まだわからないんですか?」
「何を⁉」
「僕は言ったはずです。『大事な人を1人殺さなければならない』と」
「だから殺したっつってんだろ!」
「殺してない」
 この誠二の言葉に私はハッとした。気付いてしまった、夏美が死んでも呪いが解けなかった理由を。しかし、その理由を認める訳にはいかない。私は夏美を愛していたはずだ。私とセックスする価値がある女と認定していたはずだ。
 だが、誠二は私が口にしたくない真実を平然と口に出す。
「奥さんはアナタにとって『大事な人』ではなかったんですよ」
「ウソだ!」
「ウソじゃない。アナタは奥さんを『どうでもよい存在』と見做したんですよ。だから、奥さんの症状は進行しなくなったし、先生は奥さんを選んだんです」
 さらに、奴は知りたくもない事実をベラベラと喋り出す。
「ちなみに僕を逃したのは冬子さんではありません。秋奈さんです。フェラしたのも彼女。あと、冬子さんは先生の子ではありません。托卵です。父親は僕の父じゃないですよ。別の男です。つまり、先生と冬子さんには何の血の繋がりもありません。よかったね」
 私はナイフの刃先を誠二に突きつけた。最早理性も倫理観もない。「やめて!」と冬子が叫んでも、奴を殺すことに何の躊躇いもなかった。
 誠二は全く動じなかった。いつも通りニヤニヤと笑っていた。そして、おもむろに服をめくり、自身の腹を見せた。
 そこには、卵型のアザがあった。私と同じアザだ。誠二の父親は誠二と血の繋がりがないと言っていたはずだ。つまり、私と何の血縁もないから、奴の腹にあのアザがあってはならないのだ。
 奴は私に言った。
「息子を殺す気ですか、お父さん?」

 夏美と結婚したばかりの頃、頭の悪そうな若い女と知り合った。深夜、彼女を近場のビルの12階にあるバーに連れて行き、酒をどんどん飲ませて泥酔させた。前後不覚の彼女を人通りのない11階の男子トイレまで連れていった。個室の便器の上に座らせた。そして、犯した。もちろんコンドームは付けなかった。
 彼女の顔は覚えていない。でも、今思い出した。

「やめてよ、お父さん」
 誠二がニタニタ笑いながら命乞いをする。命乞いをする人間の態度ではない。
 だが、私は誠二を殺す気はなかった。いや、殺せなくなった。妻を殺し、娘と愛人も死に追いやった今、息子まで失いたくなかった。
 でも、これは愛情ではない。誠二への憎悪は相変わらずだ。なのに、何だこの感情は?殺したいのに殺せない。得体の知れない想いが私の脳内を傍若無人に駆け巡り、私に大いなる混乱をもたらす。その混乱は私が状況を正常に理解することを困難にし、どん底までの絶望と限界を超えた狂気に陥れる。
 この耐えがたい精神的苦痛から解放されるために、私はある手段を取った。それはナイフで私の喉を掻き切ることだった。
 私の喉から血が間欠泉のように噴き出し、冬子が金切り声で絶叫した。私の意識は急速に薄れ、視界はぼやけ、身体は私の血で満たされた床に倒れ込んだ。
 血の臭いが私の鼻腔を生温く刺激する。冬子は相変わらず絶叫している。誠二がしゃがんで、私の顔を覗き込む。ニコニコしている。愉快そうに微笑んでいる。
 やはりコイツは殺すべきだった。しかし、それはもう叶わない。何故私は自死を選んでしまったのだろうか?気が動転しすぎていた。後悔がとめどなく湧き起こる。
 その一方で、解放感も覚えていた。ようやくこの狂った世界からオサラバできる。最早何も考えたくない。早く天国に行きたい。いや、私は地獄に行くのか?どちらでもいい。楽になりたい。
 死ぬ間際、何かが破裂する音が聞こえた。春江と秋奈の顔が爆散した時と同じ音だ。そう言えば、誠二は言っていた。私が死ねば、その瞬間大事な人も死ぬと。

第1話:https://note.com/kyufukin_portal/n/ne01e572a8e19
第2話:https://note.com/kyufukin_portal/n/n5f9d59ef715c

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