リハビリにおける神経可塑性 CREB経路とBDNF経路の重要性 〜統合的神経認知運動療法®︎〜
こんにちは、理学療法士の大塚です。今回は、「神経可塑性」について、特に重要な2つの経路に焦点を当ててお伝えします。
1. 神経可塑性の主役:CREB経路とBDNF経路
CREB経路:記憶と学習の司令塔
CREB(cAMP response element-binding protein)は、神経可塑性、記憶形成、学習などに重要な役割を果たす転写因子です。CREB経路の活性化は、以下のようなプロセスを経て行われます:
神経伝達物質(例:グルタミン酸)が受容体に結合
細胞内カルシウム濃度の上昇
cAMPの産生増加
プロテインキナーゼA(PKA)の活性化
CREBのリン酸化
リン酸化されたCREBは核内に移行し、CRE(cAMP response element)と呼ばれるDNA配列に結合します。これにより、即時初期遺伝子(c-fos, c-jun)、神経栄養因子(BDNF, NGF)、シナプスタンパク質(シナプシンI)などの標的遺伝子の転写が活性化されます。これにより、神経細胞の成長や新しいシナプス結合の形成が促進されます。
リハビリテーションの観点から重要なのは、運動学習や技能獲得時にCREB経路が活性化されることです。反復的な練習がCREBの持続的活性化を促進し、長期的な神経可塑性の基盤となる遺伝子発現の変化を誘導します。
BDNF経路:神経細胞の成長を支える
BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)は、神経細胞の生存、分化、シナプス可塑性に重要な役割を果たす神経栄養因子です。BDNF経路の活性化プロセスは以下の通りです:
CREB経路などの活性化によりBDNF遺伝子の転写が促進
前駆体(pro-BDNF)として合成され、成熟BDNFに Processing
神経活動依存的に分泌
主要受容体であるTrkB(チロシンキナーゼ受容体B)に結合
受容体の二量体化とリン酸化が起こる
BDNF-TrkB結合後、下流の刺激伝達経路が活性化されます:
MAPK/ERK経路:神経突起の伸長、シナプス形成を促進
PI3K/AKT経路:細胞生存を促進、タンパク質合成を活性化
PLCγ経路:細胞内カルシウム濃度の上昇、シナプス可塑性の調節
これらの経路の活性化により、神経細胞の生存促進、シナプスの形成と強化、樹状突起の分枝と成長、長期増強(LTP)の誘導と維持などの生理学的効果がもたらされます。
2. CREB経路とBDNF経路の相互作用:神経可塑性の正のスパイラル
CREB経路とBDNF経路は、互いに密接に関連しています:
CREB経路の活性化がBDNF遺伝子の転写を促進
BDNFがTrkB受容体を介してCREBをリン酸化
この正のフィードバックループが長期的な神経可塑性を支える
この相互作用を理解することで、より効果的なリハビリテーション戦略の立案が可能になります。
3. リハビリテーションへの応用
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