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リハビリにおける神経可塑性 CREB経路とBDNF経路の重要性 〜統合的神経認知運動療法®︎〜

こんにちは、理学療法士の大塚です。今回は、「神経可塑性」について、特に重要な2つの経路に焦点を当ててお伝えします。


1. 神経可塑性の主役:CREB経路とBDNF経路

CREB経路:記憶と学習の司令塔

CREB(cAMP response element-binding protein)は、神経可塑性、記憶形成、学習などに重要な役割を果たす転写因子です。CREB経路の活性化は、以下のようなプロセスを経て行われます:

  1. 神経伝達物質(例:グルタミン酸)が受容体に結合

  2. 細胞内カルシウム濃度の上昇

  3. cAMPの産生増加

  4. プロテインキナーゼA(PKA)の活性化

  5. CREBのリン酸化

リン酸化されたCREBは核内に移行し、CRE(cAMP response element)と呼ばれるDNA配列に結合します。これにより、即時初期遺伝子(c-fos, c-jun)、神経栄養因子(BDNF, NGF)、シナプスタンパク質(シナプシンI)などの標的遺伝子の転写が活性化されます。これにより、神経細胞の成長や新しいシナプス結合の形成が促進されます。

リハビリテーションの観点から重要なのは、運動学習や技能獲得時にCREB経路が活性化されることです。反復的な練習がCREBの持続的活性化を促進し、長期的な神経可塑性の基盤となる遺伝子発現の変化を誘導します。

BDNF経路:神経細胞の成長を支える

BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)は、神経細胞の生存、分化、シナプス可塑性に重要な役割を果たす神経栄養因子です。BDNF経路の活性化プロセスは以下の通りです:

  1. CREB経路などの活性化によりBDNF遺伝子の転写が促進

  2. 前駆体(pro-BDNF)として合成され、成熟BDNFに Processing

  3. 神経活動依存的に分泌

  4. 主要受容体であるTrkB(チロシンキナーゼ受容体B)に結合

  5. 受容体の二量体化とリン酸化が起こる

BDNF-TrkB結合後、下流の刺激伝達経路が活性化されます:

  • MAPK/ERK経路:神経突起の伸長、シナプス形成を促進

  • PI3K/AKT経路:細胞生存を促進、タンパク質合成を活性化

  • PLCγ経路:細胞内カルシウム濃度の上昇、シナプス可塑性の調節

これらの経路の活性化により、神経細胞の生存促進、シナプスの形成と強化、樹状突起の分枝と成長、長期増強(LTP)の誘導と維持などの生理学的効果がもたらされます。

2. CREB経路とBDNF経路の相互作用:神経可塑性の正のスパイラル

CREB経路とBDNF経路は、互いに密接に関連しています:

  1. CREB経路の活性化がBDNF遺伝子の転写を促進

  2. BDNFがTrkB受容体を介してCREBをリン酸化

  3. この正のフィードバックループが長期的な神経可塑性を支える

この相互作用を理解することで、より効果的なリハビリテーション戦略の立案が可能になります。

3. リハビリテーションへの応用

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