魔法の鏡
今日は「魔法の鏡」ってタイトルのエッセイじゃないです。エッセイも書けそうだな。
大学1年生の頃にモノローグとして書いた脚本をこそっと公開します。めちゃめちゃ変な時間(4時15分です)に……。今日朝からバイトなのに、別の脚本書いてたら眠れなくなっちゃった……。
モノローグとして書いたけどショート・ショートみたいな感じで楽しんでいただけたらさいわいです。
拙いですが、さくっと読めます!
声 「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」
それはもちろんあなたです、お后様
声 「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」
あなたです、お后様
声 「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」
…あなたです、お后様
声「鏡よ鏡、」
ううるさいなあぁぁぁ、毎朝毎朝飽きないの、それ。ボクはもう飽き飽きしてるんだけど。聞き飽きた!
そりゃ確かにお后様は美しいと思うよ、ボクだって役職が魔法の鏡だって知った時は嬉しかったさ。けど、毎日毎日おんなじ言葉しか掛けてくれないなんて! そんなこと聞いてない!
え? 物語に描かれてないだけじゃないかって? それが違うんだなぁ、もう毎朝あのお決まりの文句しか言わない。毎朝? いや、酷い時には一日に何十回も聞くんだ、「この世で1番美しいのはだあれ?」って。
たまにはさ、
「おはよう、魔法の鏡」
くらい言って欲しいよね、あの美貌でそう言われたら、まあ働いてやろうって、気にもなるけどさ。
え、なになに? あー白雪姫のことね、もちろんボクだって彼女のことは知ってるよ。とっても綺麗な人、もちろん、あのお后様よりもね。あっ、これはお后様には内緒だけど。だってバレたら絶対面倒臭いじゃん! 自己承認欲求の塊だよ、そんなこと教えたら気が狂っちゃうよ。白雪姫のことなんて知らないまま、自分が一番美しいと思い込んで過ごすのが彼女の為になるでしょ? ボクって頭いい。
なに? 君は文句が多いなぁ、え、物語が進まない、だって? 知らないよそんなこと、ボクは自分も相手も幸せに、ハッピーになれる最善策を選んでるだけだ。ほら白い嘘って言うじゃない。
ん、誰か来る、お后様じゃないみたい、って、おい何すんだ! どこに連れてくんだ!! おいオッサン!!! ちょっと鏡の部分指紋付いちゃうだろその持ち方! うえ気持ち悪い、おい離せよ!!
はあーー、見てここ指紋! 嫌だなあ、ボクのツルツルの鏡面が台無し! ま、助かったから良しとするけど。さっきのオッサン、腕に「物語治安維持委員会」って腕章つけてたな。そいつによると、ボクが「白雪姫がこの世で1番美しい」って言わないから取り替えられちゃったみたい。
……これってもしかすると、いやもしかしなくてもクビ!? 実質クビ!??
……ま、いっか。よくよく考えてみると願ったり叶ったりって訳だよね。あのお后様の相手をもうしなくたっていいんだ! やったね!! ボクは旅に出るよ、お后様。せいぜい新しくて正直な鏡、貴方が1番とは言ってくれない鏡と仲良くするんだな!
……ま、きっと鏡が入れ替わったことすら気付かないんだろうけど。
ふぅ、これからどうしよう。ここは多分、グリム童話のゴミ捨て場……。ほんとにあるんだなあ、わーみんな目が死んでる。あ、あれは毒の配合を間違えられた魔女のリンゴ達。白雪姫を殺さない程度のリンゴを作るのは難しいって、昔魔女がぼやいてたのを聞いたことがある。こっちは、サイズ違いのガラスの靴達!
「これじゃ意地悪なお姉様達がガラスの靴を履けてしまうわ!」ってシンデレラが笑ってた。あんな時でも笑えるなんてプリンセスは心が広いってみんなが感動したっていうのは有名な話だよね。
……そうじゃなくて! ボクこのままゴミ捨て場にいることになるの? そんなの勘弁だ、なんせボクはお后様の鏡! あ、いやまあ、元だけどさ。ここにいるはじめからゴミ捨て場行きの可哀想なヤツらとは違うんだから。
……ねえ、もしかしておしゃべりできるのボクだけ? ボクと一緒に語り合ってもいいんですよー? 誰かー? 話し相手募集中ですよー?
……暇だな。誰もボクに興味を持ってくれやしない。そりゃそうだよね、毒リンゴもガラスの靴も、鏡を覗く必要なんて無いんだもの。あーあー、つまんないなあ。
そうだ! お后様の所に帰ろう。なんたって、ボクは魔法の鏡だからね。本気出せば移動だってなんのその、新入りの鏡はなんとか追い出せるはず、だってボク先輩だもん、ん、なんか視界が悪いな、あ、絶対あのオッサンの指紋のせいだな、変な持ち方するから……。よいしょ、おいしょ、おっとっとっとっとっととと!!!
痛たたたた、転んじゃった…。
あれ、なんだろう、力が入んないな。え、割れてる、ボクの自慢の鏡が割れてる……!! そんな。ボクもう鏡として働けないの。ほんとのゴミになっちゃった。あーあ、こんなことになるなら、ちゃんと「白雪姫が1番美しいです」って言ったのになあ。お后様が怒ったとしてもちゃんとじっと耐えてたのになあ。毎日同じことしか聞いてくれなくても、文句だって、たまにしか言わなかったよ。ごめんなさい、お后様。ボクもうダメになっちゃった。多分思い出してもくれないよね、そんなこと知ってる。でも、ボクに毎朝話しかけてくれて、ほんとは嬉しかったみたい。今気づいても遅いよねえ。