見出し画像

「シーライオニング」と「ヌルヌルうなぎ論法」

シーライオニングとは何か

最近「シーライオニングって何」という話が話題になっていた。これについて本場アメリカでどのように定義されているかを確認するため、ハーバード大学バークマンセンター"Perspectives on Harmful Speech Online: a collection of essays" (2017)収録のAmy Johnson "The Multiple Harms of Sea Lions" からテンプレ会話例を見てみよう。

"Where is the evidence for that opinion?"
...
"But doesn’t [x] really mean [y]?"
...
"What about [other issue]—how do you explain that?"
...
"What’s wrong with a polite question?"
...
"I’m just trying to engage in civil debate."

こちらのシーライオニングのテンプレ会話例で示されているものは、国内で最近ニー仏さんが「ヌルヌルうなぎ論法」と名付けているそれと同じだろう。氏の定義はこうだ。

自身の主張の矛盾点や事実関係の認識の誤りを指摘された時に、そのことは完全にスルーして(つまり、訂正や謝罪や再検討などはいっさいせずに)、「じゃあこれはどうなんですか?」と、とにかく無限に新しい「論点」をひねり出して相手にいちゃもんをつけ続けること

シーライオニングのテンプレにある "What about [other issue]—how do you explain that?" という例文は、ニー仏さんの指摘する「じゃあこれはどうなんですか?」という例文に直訳に近い形で対応する。Johnsonはシーライオニングを"sealioning fuses persistent questioning"、永続的に質問を繰り出すこととしているが、これはニー仏さんの言う「とにかく無限に新しい「論点」をひねり出して相手にいちゃもんをつけ続ける」に対応する。

この「ヌルヌルうなぎ論法」については、めんたねさんがもう少し深堀りを試みている。

氏は「ヌルヌル話法」の特徴として、自分が回答すべき事項を無視することのほか、その手段として語の定義を不明瞭にしておいて事後的にちゃぶ台返しすることで結論を出すことを妨害する方法を挙げている。この指摘は、シーライオニングのテンプレにある "But doesn’t [x] really mean [y]?" という会話例と一致するだろう。

すなわち、シーライオニングが何かと問われたら、国内では「ヌルヌルうなぎ論法」「ヌルヌル話法」として定義されているものと同じだと答えればよい。それは、
1. 結論を出すという建設的な目的を持たず、自分が責める側で、相手が責められる(ディフェンスする義務がある)側であるというポジジョンを維持することを目的とした会話をしている。
2. そのため、自分がディフェンスを求められても一切回答しない。
3. そのため、無限に新しい論点を作り出していちゃもんをつけ続ける。
4. そのため、語義不明瞭な文を多用して結論を出す作業を妨害する。

シーライオニング・ヌルヌル話法の回避法

シーライオニング・ヌルヌル話法を撃退するには、あるいは自分の言説がシーライオニング・ヌルヌル話法でないと主張するためにはどうしたらよいか。それはヌルヌル話法の定義の逆をやればよい。

1. 結論を出すという建設的な目的を持ち、自分の仮説を提示してディフェンスする立場にあることを明示する(させる)。
2. 仮説に対する批判を受け入れ(させ)、ディフェンスする(させる)。
3. それで仮説の間違いが認められた場合、仮説を修正する(させる)。
4. 語義を明瞭にしてしゃべ(らせ)る。

シーライオニング・ヌルヌル話法を撃退するには、質問に対して「あなたが質問によってその存在を証明したい対立仮説を提示してください」という感じで、対立仮説の提示と言う形でしか質問を受け入れないのが良いだろう(良い質問者なら大抵の質問を質問者の仮説に対する対立仮説に変換できるはずである)。

ミイラ取り的パラドックス

国内ではシーライオニングで示したい内実が「シーライオニング」という言葉から直感的に想像できないために「シーライオニング」という言葉を使うこと自体が語義不明瞭論法の一種になってしまっている、というのはいささか皮肉なところである。

シーライオニングは「質問者が回答者の返答を無視して別の質問を出し続けること」なので、質問に対して初手で「それはシーライオニングだから答えない」と言って回答拒否してしまうと、その「相手をシーライオニング扱いする」行為自体がシーライオニング行為になる。

建設的な対処法は、「ではあなたが正しいと思っている仮説を示してくれ、今度は私がチャレンジするからあなたがディフェンスして」ないし「あなたは自分が何を考えているが自分でもわかっていない、ゆえに質問が不必要に増える。自分自身の仮説を提示できるまで頭をひねってみて」と返すことだろう。

とりあえず「シーライオニング」という言葉が出たら、このページを見せ、お互いの仮説を出し合い、ディフェンスしあうというムーブに持ち込めれば建設的であろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?