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一時停止標識の本当の意味とは
免許が切れていた。気付いたのは春だった。
身分証明のために出した自分の免許証をよくよく見ると、1ヶ月前に有効期限が切れていた。
平成30年に切れることは知っていたけど、平成30年なんてまだまだ未来だと思っていたら、もう今年だったのだ。
調べると、免許が切れてから半年以内なら講習を受けるだけで再発行してもらえるらしい。もう一度試験を受ける必要もない。よかった。
普段車に乗らない私は、そこで安心してしまい、気付いたら5ヶ月が過ぎていた。
いよいよ来週で失効から半年という日に、さすがにヤバイなと思い、 再発行手続きのため運転免許試験場に行った。
免許試験場なんて、そう何度も来る場所じゃないので、みんな勝手が分からず、ここはいつも混乱している。
初めて免許を取る若者たちは、申請用紙を手にどこの窓口に行けばいいのか分からずウロウロ。
毎日こんなに大勢の人が免許を取ったり、更新したりしてるんだなと、毎度驚いてしまう。ここで働く職員の人は毎日、初めて来る人を相手にイチから手続きの方法を説明して、誘導して。大変な仕事だ。
失効組の私は、通常の免許更新に来た人たちと一緒に1時間の講習を受けるらしい。
教室には100人近い人たちが入った。みんな不機嫌そう。平日の朝だから、みんな仕事を休んだり、都合をつけて来てる。早く終わってくれって顔。
ここにいる人たちは、当たり前だけど運転歴も年齢も職業もバラバラで、乗ってる車の種類も多分バラバラ。
でも唯一の共通点は、みんな誕生日が近いってことだ。私を除いて。
講師のおじいちゃんは、とにかく声がデカくてハイテンションだった。
そして話がうまい。
眠そうだった受講生たちが、徐々におじいちゃんの話に引き込まれていく。
京都市では近年、毎年1000件ずつ交通事故が減ってきているらしい。事故の傾向、原因、対策、注意すべき点。おじいちゃんはテキパキと説明する。
冗談を交えたり、質問をして受講生を当てたりもする。
誰も寝ないし、誰もスマホをいじったりしない。いつの間にかみんな、ちゃんと前を向いておじいちゃんの話を聞いていた。
天職やな、と思った。おじいちゃんは、この講習が京都市の交通事故削減に繋がると確信していて、その自負を持ってしゃべってる。
「最後にいちばん大事な話をします」とおじいちゃんが言った。
"これだけ守れば事故を激減できるという秘訣を教えましょう。それは...
一時停止の標識で必ず止まるということです。
皆さん、あれは何のための停止だと思っていますか?
周囲に危険がないか、確認するため?
それにしては交差点に入るより随分手前にあるから、あんまり意味がないと思って、止まらずにジリジリ進んでしまっていませんか?
実は一時停止は、周囲の危険を確認するために止まれという標識じゃないんですよ。
一旦止まって、自分が平常心で運転できているか、自分の運転に焦りがないか、油断がないか、感情的になっていないか、それを自身に問うための停止なのです。
だから一時停止標識を見たら、必ず一時停止して、自分の運転を冷静に見つめてください。"
だって!知らんかった。
おじいちゃんが華麗に講習を締めくくると、受講生から自然に拍手が沸き起こった。
始まる前は、私含めほとんどの受講生が「1時間たるいな」、と思っていたと思うけど、最後にはみんなおじいちゃんに拍手を贈って終わった。
あっぱれ、おじいちゃん。あの教室にいた受講生の安全意識は1時間で確実に高まったと思う。
どんな仕事にも向き不向きがある。そしてどんな仕事でも、向いてる人がやると、やっぱり全然ちがう。生き生きと楽しそうに仕事している人を見ると元気になるなあ。
さて、新しい免許の有効期限は平成33年。来るはずのない平成33年。またうっかり失効しそう。