血の姿 -1- 君がすぐ傍に居て妙に平和な夜に
連載「血の姿」は、強い血の臭いがします。ご自身の状態とご相談の上、ご覧下さい。
特に、妊娠中は絶対読まないで下さいね。
そして、いつかお読み下さい。
*
仕事が終わり、港区の美しいビルを追い出されて辿り着いたのは、27平方メートルの誰もいない部屋で、その空間いっぱいに満ちている無音が頭を締め付けるから、突然目から涙が流れても何もおかしくはない。
ルームライトだけ灯した部屋で、14インチのTFTモニタに動画の再生ボタンが映し出されていた。
最近、ネットに出現したYouTubeというサービスは、無料で映像を観ることが出来る。
どうせ、版権モノの映像を野放しにして広告費で稼ぐんだろう。名前からして軽薄な海外サービスだ。すぐに著作権侵害やらなにやらで閉鎖されることだろう。
だけど、検索キーワードを入れれば動画が何でも出てくるから、魅惑的と言わざるを得ない。閉鎖される前に活用してもいいだろう。
水爆実験
そう変換してEnterを押すと、いくつもの動画が列を作る。
一番映像が綺麗そうな映像を選んで再生ボタンを押す。
--とてつもない。
人が作った、地球を完全破壊することができるもの。
遺伝子を破壊する放射能を永延と出し人と生き物を壊し続けるもの。
とてつもなく恐ろしい。
拍手をしている観客は大丈夫なのか。
カメラマンは大丈夫なのか。
カメラは放射性物質になっただろう。
水爆の映像を繰り返し再生していると、まるで、このモニタから放射能が発されているようで、目を細める。
モニタから放射能が?
バカげている。
バカげていない。
水爆実験の放射性物質が、日本でもきちんと検出されている。
違う惑星の映像ではない。
昨日食べた美味しい魚の海と、きちんと繋がっている。
この部屋の空気と繋がっている。
何本水爆実験の動画を見ても、良い答えは出てこない。
愛する人と子供をもつべきか?
-。
つい此間、欧州の国が、この実験を行った。
バカバカしい。
生物を傷付けなくなるようになるまで、何万年もかかる放射能を、大きな爆発で生み出しているというのに、同じ星で、どうして作れるのだろう。
瞳も、髪も、唇も、肌の細胞一つ一つ愛おしい。
ああ、とても可愛いだろうね。
一つになりたいと願った、貴方の遺伝子が、私の遺伝子まで連れて生まれてきたら、どんなに。
どんなに、幸せなことだろう。
そして、どんなに恐ろしいことだろう。
核実験が行われているだけではない。
もっとずっと高確率で、暴行があって、事故がある。
自動車事故なんて、毎日いくつ命が奪われても、鉄の塊を走らすことはやめようとしないのだから、暴行と同じだ。
大切なものが、それを受ける可能性が
ゼロじゃなくなる。
ゼロじゃなくなってしまう。
どうしたら、貴方との子に会うことが許されるだろう。
核シェルターを作れる程度を目指そう。次に、護衛を雇えるように。
次に、地球を脱出できるように?
私は何十回も、水爆を爆発させる。
私が押しているのは、再生ボタンだった?
私が押したら、水爆が爆発する。
これは、水爆のスイッチと、どう違う?
それにしても水爆実験は、とてつもなく、
とてつもなく--
美しい。
だから、また私はピルを取り出して、渇いたままの喉で飲み込んだ。
「君がすぐ傍に居て
君がすぐ傍に居て
妙に平和な夜
妙に平和な夜
核爆弾が堕ちました
核爆弾が堕ちました。」
'2006-01-30 23:56:00'
樫尾キリヱ 25才
*
※福島原発事故の8年前のモノローグです。原発の是非についてはここでは論じません。
「血の姿」第2回は、コラム形式の文体に戻ります。
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