アラン・ドロン

 そうか…。アランドロンさん亡くなったんだ…。胸の奥がチクリと痛む。
 世紀の二枚目、ハンサムの代名詞。私が若い頃は誰もが普通に会話の中で彼の名前を使っていた。
「アランドロンみたいなハンサムじゃあるまいし」とか「アランドロンの十分の一でもハンサムだったら性格悪くてもいいけど」などと。
 高校時代、友人が「私、先輩のA君が好きなんだ。アラン・ドロンも真っ青になるくらいハンサムなのよ」と言ったことを覚えている。
 私は「バッカじゃなかろうか。この高校にアラン・ドロンみたいなハンサムがいたら大ニュースになるわ」と心の中で笑ったものである。
 アラン・ドロンのように世界中の女性を魅了した美貌の俳優は、後(あと)にも先にもいないのではなかろうか。
 『太陽がいっぱい』をテレビで観たのは、中学生か高校生の時だ。
 貧しい生まれの卑屈さと、神をも恐れぬ美しさを持った青年トム・リプリー役は、まさにアラン・ドロンの「はまり役」だった。おそらく彼を越えるトム・リプリーはこの先現れないだろう。そもそももう、ああいう完璧な正統派イケメンは流行らなくなってしまった。
 私はアラン・ドロンと岸恵子さんの対談を鮮明に覚えている。この美男美女の「おしゃれな関係」はなんとも素敵で、胸がときめいたものである。
岸さんはグリーンのロングスカーフを首に巻いていらした。どうでもいいけど、私のスカーフ好きは間違いなくこの番組がきっかけになった。
 アラン・ドロンの死後に知ったのであるが、彼は犬猫シェルターを五つ運営していたそうだ。
「何と素晴らしい人だろう!」と尊敬したのもつかの間、動物愛護団体「ブリジット・バルドー財団」の発表に、心底驚いた。
 なんとアラン・ドロンは「私の死後、愛犬のルポを安楽死させて一緒に埋葬してほしい」と遺言していたそうだ。
 「自分が死んだあと、ルポが悲しむのはかわいそうだから」という理由だったらしい。
 しかし幸いなことに、遺族はこの遺言の実行を拒否し、ルポちゃんは殉葬をまぬがれた。もしその遺言が実行されたなら立つ鳥跡(あと)を濁しまくるところだった。
 ブリジット・バルドーの名前を久しぶりに見たので、ネットで検索してみた。もう八十九歳になられたのか…。仏映画界のレジェンドは、優しげなお年寄りになっておられた。若い人はもちろん名前さえ知らないだろうが、グラマーで、セクシーでコケティッシュで可愛らしくて、それはそれは世界中で大人気の女優さんだった。あの素晴らしいスタイルに、生涯Aカップの私はどんなに憧れたことか。
 今の女優さんは皆歯磨きのCMに出られるくらい真っ白い綺麗な歯が当たり前だが、ブリジット・バルドーは歯並びがちょっと悪くて、そこもキュートな個性だった。そして最近の写真も、歯並びはそのままだった。
 時は流れる。ものすごい速さで…。何十年も昔のキラキラキラキラ輝いていたスター達を心に呼び寄せると、切なさと寂しさが胸に沈む。
 しかし、つい最近岸恵子さんをテレビで拝見したが、相変わらず美しくてとても素敵だった。
「私、老人だっていう自覚がないの」
 あっけらかんとおっしゃる岸さんに拍手を送りたい。あなたは私の希望の星です!

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