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【私小説27】葬式の歌

これが最後のお別れです。
どうぞお近くでお別れのございさつを。
どうぞ、皆様前の方へ。
 
道連れに棺桶に敷き詰められる花。
出棺のクラクション。火葬炉の閉まる音。お経。泣き声。焼き上がりを待ちながら食事をする苦行。骨を拾う時の温度。
 
うるせー、死体のそばなんかよりたくない。
骨なんか拾いたくない。
知りたくない、知りたくない。
見たくない。見たくない。
早く燃やせ。
 
実家を出て自分で育てていた愛猫が数年前死んだ。
実家では何匹も犬や猫を看取っていたし、家族が死ぬ苦しみは充分わかっていたけど、自分の手で育てていた家族の死はまた一段と心をえぐるものであった。
その時初めてあれだけ嫌だった葬式の一連の流れが少し重要なものだとわかった。
まだ燃さないで、今日も一緒に帰ろうって伝えようと思ったから。
今でも私は死んだ家族と別れたりはしていないよ。
見えなくなっただけ。

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