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埼玉高校入試「北辰テスト」の功罪

埼玉県出身じゃないと馴染みがない「北辰テスト」

埼玉の高校入試のための模試だ。
中学2年以下でこれから高校入試する人や、北辰テストよくわからない人に特に向け北辰テストを受けるべきか、北辰テストの良し悪しについて書く。

教育関係者でも、埼玉県の高校入試に関係しないとピンと来ない人がほとんどだろう。(中学の先生もどれだけ知ってるのか)
逆に埼玉県出身者で知らない人はごくわずかだと思う。


北辰テスト

公式HPには「北辰テストは、1952年に埼玉県の中学生の「学力向上の道しるべになりたい」をモットーに誕生しました。そして、72年にわたり、埼玉の中学生の学力指針として活用されています。」と書かれてる。

北辰テストは、(株)北辰図書が年8回実施する会場テストであり、高校入試の模試は、どこの県にも存在する。
東京千葉の「進研Vもぎ」「新教研W合格もぎ」、神奈川だと「神奈川全県模試」。

北辰テストは特異なことに、県内の私立高校入試の事情のせいで、埼玉県の中学生の90%が受験する。(北辰テストが特別何かしているわけではない)

北辰テストの歴史に詳しいWikipediaから、そのまま引用する。

"1992年(平成4年)以前、埼玉県内の公立中学校では授業時間内に北辰テストを実施。中学校教員は算出された偏差値を参考に生徒に対して進路指導を行っていた。また私立高等学校の事前相談会に、中学校教員が受験生の北辰テストの成績を持ち込み、高校側の条件を満たせば入学試験前に合格を確約する仕組みが存在していた。

しかし1993年(平成5年)2月に、業者テストの結果による入試選抜禁止及び、中学校側に対し業者テストへの関与を厳に慎むよう文部省が通知を出した。以降、公立中学校教員は、進路指導は内申や定期テストや地域の公的テストの結果を参考とし、北辰テストを始め業者テストの偏差値を利用出来なくなった。"

こういった事情から東京のように、埼玉県以外では、「内申点」を重視した推薦入試と、当日の試験を重視した一般試験に分かれるようになり、今日に続いている。

「合格確約」

しかし、埼玉県内では事情が違う。

"埼玉県内では受験生及び保護者に向けた事前相談会において、持参された北辰テストの成績を参考にして、入学試験前に合格確約を通知する私立高等学校も存在し、入試の判断材料になるまでに定着している"

また、引用だけれども、埼玉県では北辰テストで入学試験前に「合格確約」をするシステムが今日まで脈々と続いている。
なので、埼玉県内の高校を受ける上では北辰テストは欠かせないものとなった。

文部省が出した通知は中学の先生の関与を慎むことなので、もちろん何にも違反してない。内申点で「合格確約」を出すこともあるので、内申点の重要度が低くなったわけでもない。

埼玉では、浦和実業や埼玉栄のようにスポーツで有名な高校に入るときも、県立志望の滑り止めで受けるときも、事前の相談会で、北辰テストの偏差値を確認される。

事前相談会は9月から実施していることが多く、中3の7月以降の偏差値を見ることが多い。(一部では4月の北辰も見てくれる)

実際は北辰テストではなくても良くて、Vもぎのような会場実施なら見てくれるし、市など自治体が実施してる実力テストでもよい。

この事前相談会で「合格確約」を出していない埼玉の私立高校は、10校ぐらいだと思う。中高一貫で高校編入がほどんどない浦和ルーテルのような高校と、それ以外だと早稲田本庄、秀明英光とかわずかなだ。

現状と未来

そんなわけで、埼玉ではこぞって皆、北辰テストを受ける。
もし学校の成績が悪くても、何回かの北辰テストでよい偏差値がでれば「合格確約」がでる。これほど中学生(とその保護者)に都合のいいシステムもない。

私立高校側も、その「合格確約」を出した人数で、どれだけ受験されて、入学されるかを事前に予想ことができる。例えばゆくゆく進学校になりたければ基準偏差値を高く設定すればよいし、たくさんの生徒集めたければ、低く設定すればよい。(実際は、低くするより内申書から読み取れる項目で加点制度を設けて、人数は調整していくようだ)

北辰テストは何もしなくても受験率が高いままなので、会場受験さえ続ければよい。

塾は、偏差値を高くするための講義をすればよいし、私立高校も分かっているので「合格確約」の基準偏差値を塾には教えてくれる。(なので、過去問の研究に余念がない)

中学校の先生は煩わしい進路指導の大半を、ご家庭(と塾)に任せて、どこの私立を受けるのか、もしくは県立高校を受けるか聞けばよい。決まってない時だけアドバイスする。

みんなにとって都合の良いこのシステムがなくなることはない。
少し露悪的に書いたのは、みんな助かっているように見える一方で、実際は問題点もあるからだ。


問題点

第一が私立高のレベルが高くなりすぎている点だ。
全国的に県立高校の倍率が低くなってきており、私立高校人気が高くなっている。デジタル化、国際化などの教育の質や、大学進学率…理由を挙げればきりがない。埼玉でも県立高校から私立高校への人気の移行は顕著だ。

そうなると、私立高校は、合格の基準偏差値を上げる。
今、埼玉では偏差値50で「合格確約」出す高校はほとんどない。
平均点とってない中学生の滑り止めは、定時制や通信制となっている。

偏差値が50以下の中学生が行ける全日制普通科私立高校は埼玉県内にはほとんどない。


最大のデメリット

そのうえ、北辰対策に力を入れていけば、1月におこなわれる私立高校の入試対策はしなくてもよくなった。1月22日ごろに受験し、名前書いて問題が起きなければ、合格する。

考えれば当たり前だけれども、私立を第一している生徒が「合格確約」をもらったあと、その生徒は勉強しなくなる。
10月で「合格確約」が出た中3がそのあと4月まで勉強するとお思いだろうか。
これは大学入試の「指定校推薦」で入学した生徒を想像してくれれば早い。

勉強習慣も失われ、二次関数、三平方の定理の応用問題をまったくやってない生徒が、高校1年で数学についていけないことは火を見るよりも明らかだ。大学入試の「指定校推薦」と違って、高校3年間、勉強しないと大学にはいけない。

これが一番のデメリットだと思うし、中学生にとって非常に不幸だと思う。

解決策は、塾に行くことだ。なるべく厳しい塾がいい。入試が終わっているにもかかわらずだ。
塾の人間としてのポジショントークなどではない。単純にそれ以外の解決策が、僕にはわからない。


終わり

僕は今、埼玉の高校入試から遠く離れて働いているので、あの光景が異様だと思うけれど、埼玉で働いたら当たり前のことになっていくだろう。

私立高校、北辰テスト、保護者、受験生。各自の合理性が極まった結果、埼玉の中高生にとって最終的には良い結果をもたらしてない。
と、僕は考えている。

誰もやめようがないので、どこかが崩壊するまで続くだろうけど。

注釈:「合格確約」と書いたけれど、現在のルール上「合格確約」「確約」と言ったらアウトなので、言い方は「推薦を出す」「大丈夫」というような表現になってる。そのため「」つきの「合格確約」と表した。本当の合格確約は受験会場に行かなくても合格するらしい。すごい。

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