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時時勤払拭|2020.5.28 日記
5月26日(火)
仕事に来たはいいものの、目の前のものを受動的にこなすばかりで、何を見ても言葉通りただの文字列としか認識できない。
他の職員の些細な仕草ひとつひとつが、私が至らないせいだと感じて、すみませんすみませんとばかり言った。
何も考えることができなくて、死にたいとタイピングした。無意識だったかもしれないし、意識的だったかもしれない。いずれにしてもすぐ消し、何食わぬ顔をして座っていた。不似合いに仕事のディスプレイに打ち込まれたその文字がなかなか頭から離れなかった。
精神的なダメージはいつも少し遅れてくる。
母と妹は家に帰り、母に暴力を振るってしまった旦那さんは暫くの間母宅を出ることになった。
私のもとには、母からも旦那さんからも、母の母である祖母からも連絡がくる。母は私をひとりの援助職として相談を持ちかけてくるし、旦那さんは私とのやりとりの中でそのぐちゃぐちゃな心情を吐露するし、祖母は自分が心配でいっぱいになっていることに無自覚に連日電話をしてくる。
気づくとそのひとつひとつを交通整理しようと介入している自分がいる。
いらぬお節介かもしれない。それでもこの最初のひとつの絡まりをほぐせば変わるかもしれないと感じ取っていながら何もせずにスルーすることはできず、余計かもと思いながらも悩んで紡ぎ出した言葉をやっぱり伝えている。伝えることを、間違いなく自分で選択している。
二人には子供がいる。いらぬゴタゴタに注力するせいで可愛い妹のことを蔑ろにされたくない。私が妹の味方でいるためにやれることはやりたい。
だからといって、それで私がこんなにダメージを負って、自分の仕事に支障をきたしているのを、正当化できるかと言われれば違うだろう。
でもやっぱり全部を抱えられるほどの力はないのだ。
そんなことを考えながら帰宅した。気が乗らなかったけど、夕飯を作らなければと思って、味噌汁に入れる茄子を切っていたら急に気持ちが和らいだ。
トントントントントン……
茄子が均等に切られて包丁から離れていく様を、それと連動した均一なリズムを、身体全部で味わった。
✳︎
5月27日(水)
調子がいいかと言われると即答はできないけれど、首を横に振るかといえばそうでもない。朝起きて会社に来たし、退勤時間まで働いた。仕事のいくつかは少し進んだ。
家に帰ったら「刺し子」のキットが届いていた。彼も夜は外に出るというし、ひとりではじめての刺し子をチクチクとすすめた。昔実家にあった七宝つなぎの模様をした藍色のランチョンマットみたいなものが欲しくて探してたけど、検索しているうちに自分で模様を刺せることを知った。
均一に縫い目を作ることだけに集中する時間は、後から振り返ってみてもただ均一に縫い目を作ることだけに集中した時間だった。それですっきりしたとかめっちゃハマったとかはないけど、悪いことは起きなかったし考えなかった。ただ針を刺した。
✳︎
5月28日(木)
起きたら、家を出なければいけない時間の5分後だった。一年前だったら飛び起きて走ってでも間に合う電車に乗ったかもしれないけど、ふつうに遅刻した。
午後は少し巻き返して一日を終えた。途中すごい雷のゲリラ雨がふって、退勤するときには昼の空気とまるきり入れ替わっていた。湿度が下がって酸素が多い。すうっと小さく息を吸ったら、空が目に入った。雲間が切れた青を見て、私の心もいつかはこんな青が見えるのかな、なんて思った。
帰って昨日の続きの刺し子をした。青海波の小さいのが完成した。既視感あると思ったらあれか、Wi-Fiのアンテナ。
今をこのいろんな気持ちを言葉でまとめるには頭も心も追いつかないけど、毎日少しの余白を作ってなんとかやっている。
「時時勤払拭」
ジジニツトメテフッシキセヨ。
塵も積もれば山となる。だけど塵の間に少しずつ少しずつ払ったり拭いたりしていけば、山にはならない。その日積もった分だけかもしれないし、それよりも少ないかもしれないけど、その少しが大事だと思って、少しだけ自分を整えてあげられたらそれでよし。それでいいよね。
今日もおつかれさまでした。