休職することにした話

この間の受診で休職したいと懇願した。すんなりと私の望みは叶えられ、8月いっぱい一ヶ月間休職することが決まった。

身体の重さで言ったら今よりもずっと悪い時はたくさんあった。今よりもずっと、仕事をするための思考回路がなくなってしまった時はたくさんあった。仕事に行けば、なんの変哲もなく働く私がいた。

それでも、もう限界だと思った。

これまで散々、波を乗り越え、なんとか動けるようにと錆びついた身体に油を注してメンテナンスをしてきたものの、肝心のバッテリーが全くないと言えばいいのだろうか。私の中のコンピューターがそもそも動かない。ウツウツも楽しいも悲しいも、全部まるっとなくなった。辛いかどうかも分からなかった。頑張って行けさえすれば仕事は出来ていたのだけど、それ以外は思考も行動も欲求も何もかも無だった。

ぽーんと死への欲求だけが浮かぶ。その欲求だけには忠実に動きそうな身体を理性で必死に押し込めた。何一つ自発的なことがない世界で、唯一自分から生まれる感情だった。

休職を懇願したのは、最後の私の理性だった。

「ぐーーっと気合い入れてずっとずっと突っ張ってはいるけど、『こっちの手だけなら離せるかな』『もう両方とも離しちゃおうかな』ってなってしまう状況なのかもねえ。」

両腕を真横に伸ばして崖と崖の間で体を支えるような真似をした主治医が言った。諦めて両手両足の力を抜いて、ひゅんっと谷底に吸い込まれる私の映像が浮かんだ。


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8月3日、課長と係長に直接休職の経緯を説明するために、そして休職中の引継書を作るために職場に行った。

休職することは朝礼で係に周知されることになった。課としては大々的な周知はされないことになったので、今まで私の支えになってくれた何人かには直接伝えることにした。結局ごめん、迷惑かけます、本当にありがとうごめんなさい、と伝えたかった。

迷惑かけてごめんごめんとばかり思っていたけど、皆が皆、快く送り出して、勇気付けてくれることにただただビックリした。

「大丈夫。まかせて。待ってるね。」とだけ言ってニカッと力強く笑いかけてくれた同じ係の後輩。

「気にするなって言っても難しいかもしれないけど、何も気にしないで、ゆっくり休みな。」と寄り添ってくれた、普段はふざけてばかりの先輩。

「えええさみしい〜。けどゆっくり休むのが一番。戻ってくる時は連絡ちょうだいね♡」といつもと変わらない態度でいてくれた同期。

引継を終えひっそりと職場を出た私を見つけて、「一ヶ月も会えないなんてしんどいから最後に一本一緒に吸おう!」と、息を切らして追いかけてきた、いつでも一番近くで私を支えてきてくれた後輩。近くのコンビニで煙草を吸いながらたわいも無い話をした。

そのあとも、係の大好きな先輩や、尊敬するお世話になりまくった他の係の上司がわざわざ連絡をくれた。「今は自分のためにゆっくり休んでね」「戻ってくるのを待ってるよ」。そんな優しすぎるメッセージで溢れてた。

もともと自己肯定感が低すぎるあまり疑心暗鬼な人間関係しか築けない私も、あ、みんな、こんなに心から向き合ってくれていたんだ、と衝撃を受けるくらい気づかされた。


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必死に作った引継書も、今までの仕事録もロクに読まないポンコツな係長から定期的に仕事の質問の電話がかかってきて「休職とは在宅勤務のことだったのか?」と思ってしまう以外は、今のところそこそこ落ち着いて過ごすことができている。

それもこれも、休職する時に職場の大切な仲間たちからもらった、私には勿体ないくらいの温かい心遣いのおかげだと思っている。

心から割り切って、しっかり休んで、ちゃんと元気になろうと思うことができた。

不幸中の幸いというか、ちょうど彼も体調が回復し切らず、休職期間が一ヶ月伸びた。二人で何も考えずにゆっくりできるのなんて何年ぶりだろう。彼も最初の一ヶ月は一人で家にいるうちにグルグル悪い方向に向かって休めなかった部分があるし、私もきっといま一人にされたら、ソファから身動きせずに食事もとらずに絶望的な無を過ごしていた危険性があるから、一緒にくだらない話ができる彼の存在が心底ありがたい。

二人とも、今のところこの状況にかなりホッとしていて、本当に久しぶりに、なんでもないことで彼と私で爆笑しあえるという奇跡のような時間を過ごしている。

お互いに精神不調の彼といることが療養のネックになるかもしれないと懸念する主治医に入院を勧められた程だったけど、予想を反して心の支えだ。

休職という環境のおかげで、常に何かから追われる気持ちも和らいだ。でもやっぱり、職場の皆からもらった愛情のおかげで自分の存在性を少し素直に認めることができたことが一番大きい。


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今日は病院だった。職場の人達とのやりとりの話をした。自分の存在性を認めることができたことの影響がとても大きいと伝えた。

「そこまで言われなきゃ分からないのか(笑)」と主治医に冷静に突っ込まれて、確かにそのとおりだなあと拍子抜けして笑ってしまった。


取り敢えず、自分に時間とお金を使って、「やらなければ」は考えないように過ごしている。大好きなあの人達に元気な姿でしっかり恩返しできるよう、今は思いっきり休むことに専念したい。



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