やっぱり春は苦手だ。
終わりで始まりみたいな風が今年もやってきた。最近は忙しく過ごしていたから今日まで見て見ぬ振りをできたけど、今年もちゃんと春だ。
日本の春という季節は美しくて不気味だ。通勤路が日増しに薄ピンクに色づいていることに気づいていないわけではなかったし、むしろどうしても目を奪われてしまうもので、そのたびに「桜みると気分下がるんだよね。なぜだか。」と話す先輩の言葉を思い出していた。
日本の春は綺麗だ。桜が咲き誇るのを、また今年も楽しんでいる知らない人達。言葉は交わさないけれど「きれいね〜!」と思い思いに今目の前を慈しむ通りすがりの人の声に、ああ、ほんとですね、と振り向いてしまう。桜を見る私達は、他人だけど知り合いみたいだ。多分同じ気持ちでこの景色を見ているから。
冬至を超えて、定時を過ぎてもまだ薄ら明るい夕空を見るたびに、心がきゅっとする。「日が長くなってきましたね。」「ほんとだね。」となんでもない会話をして歩いて帰ったあの日は、もう一ヶ月も前なのか。
毎年言ってるけど、春は苦手だ。綺麗で不気味で幸せで悲しい。卒業式終わりの昼下がり、何時間もかけて最後に歩く通学路の、顔ぶれが変わっても思ったよりもすぐに馴染んでしまう新年度の、気づいた頃には葉桜になって、今年も一瞬で世界が緑に変わっていくんだろう。
時間というのはあっという間に過ぎていく。だって去年の今頃なんて、もはや遠い昔のように思い出せない。
春はいつも私をモゾモゾさせるだけさせて、あっという間に過ぎ去っていく。そうして積み重なった何年もの春が、匂いと感触だけは毎年同じだなんて、酷い話だ。思い出せもしない感情だけが、春の嵐とやってくる。
春は苦手。嫌いだけど好きだし、好きになれないけど嫌いにもなれない。