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ヴォージュヤンヌと白い犬

テーブルクロスを庭先で払うとき、
白、
緑、
白、
灰、
と視界の色が互い違いに変わる。

明るい灰色の霧に覆われた山間の村で、
年の瀬の気配を感じる冷たく湿気った週末。

昼食の後の気だるい体を霙を吐き出す冷気が纏い、背中に感じる部屋の暖気に思わず身震いする。

視界の端には、白く愛くるしい姿のミヌ、犬のことだが、が落ち着かなく縦に横に揺れるテーブルクロスの端を、興味深げに眺めていた。

---寒くないかい

本人が気にも留めないのを知っていながら、それでも聞いた。
ミヌはヴォージュで生まれヴォージュで育った生粋の田舎育ちだ。
人工的に生温くなった室内より、山から降りてくる冷たい霧の方がよっぽど好きなようだった。

声をかけられたのに反応してか偶然か、寸間身動ぐように前脚を足踏みする。

---きれいになった

二つ折りにしてしまいに上下に揺らすのを、
まだミヌはじっと見ている。

丸く見開かれた黒い目が、このひと時を満喫しているような色に見えて頰が思わず綻んだ。

硬く凍った地面を歩くときにチャッチャッチャッと鳴る黒い爪や、ソファに寛いでいると優しく乗せられる弾力のある肉球、少し脂っこい毛におおわれた暖かな体など、
家の、家族の温もりを身体中で伝えてくれるような小さなミヌ。
子供達と戯れたり夫と散歩に出かけるより、こうして大して面白くもない瞬間に付き合ってくれていることに、ミヌなりの意思というか愛情を感じずにはいられない。

だが、知っている。

その瞳が嬉しそうだとか笑っているだとか、ましてや自分のことを好いているのだとか、
そういう風に感じられるのは自分の頭の中のことでしかないということを。

山道で小獣の音でもしたら最後、こちらが連れ戻しにでも行かない限り、追いかけたまま戻ってこないであろうことを。

それでも。

きっと自分がミヌのことを殊の外愛しているから、だからそれだけの理由で、愛らしさとか嬉しさとかを見いだしているということで、
それはそれで十分な気がした。

花の色さえ見当たらない季節に、愛情を向ける先が逃げもせずテーブルクロスを払うなど見ていることだけで、
きっと上出来な人生という気がするのだ。

ミヌは隣の家の猫が横切ったところに、アン、と一声鳴いた。
喉の奥からの低い音と、口先で鳴らしたような甲高い音が混じったような鳴き声。
短い人参の先のような尻尾が揺れている。

テーブルクロスを畳んで腕にかけ、部屋に戻りがけにもう一度ミヌを見たが、その黒い目は猫の行く末に向いている。

と、一瞬舌を出した顔でこちらを向いて、

そして生垣の方に歩いて行った。

舌を出した顔がまた笑った顔のように見えて、

---困ったものだね

胸の奥でそうひとりごちた。

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