望郷
もし、許されるなら。
もう一度だけ、あの海岸沿いを君と歩きたい。
なんのしがらみもなく。
なんの恐れもなく。
なんの屈託もなく。
ただ、あの穏やかな海岸線を、君と歩いてみたいと思うのだ。
砂に引いた一本のお芝居の線、その向こう側
すべての来し方が霧散し
すべてのつじつまが溶けてなくなり
私と、私の夢とが現れる
夢だから
夢だからこそ
なんのしがらみもなく。
なんの恐れもなく。
なんの屈託もなく。
叶わなかった望みの中を歩くことができる。
夢だから。
夢だからこそ。
叶わなかった嘘のその切れ端を
いつも心の中にそっとしまって
瞼の裏に浮かべることができる。
そう、もし、できることなら。
なんのしがらみもなく。
なんの恐れもなく。
なんの心配もなく。
もう一度だけ。
あの穏やかに風の凪いだ海岸線を、君と歩いてみたいと思うのだ。