四月七日 輪廻よりの手紙

下敷きとしたもの:人形浄瑠璃『伊達娘恋緋鹿子』(1773年初演)菅専助、松田和吉、若竹笛躬。火の見櫓の段
台詞抜き出し:人形浄瑠璃『長町女腹切』(1712年初演)近松門左衛門


つむじの輪廻から脱する
恋し愛しの輪廻から脱する
持って生まれたこの身体で脱する。

カチン、
あれは。
拍子木の音。
筋が張る。
関節が震える。
呼吸が詰まり、
心臓が逆の方に跳ね上げる、
そんな心地がする。

震えて、息苦しくて、見苦しい
生きることは辛く、生活することは苦しい。
ひっくり返って生まれ変わる?
ーーー”そこを死なぬが心中ぞや。”

カチン、
火の見櫓をよじ登る
身体は軽く
炎の風に巻き上げられて
天にも昇る心地だ
沸き立つ思いが沸騰している
色のきれいな振り袖を、風が弄ぶ
思いが沸騰している
天にも昇るくらいに。

カチン、
火の見櫓をよじ登る
その半鐘に伸ばす腕は震えて、
それでも天にも昇る心地だ
生きている、
自分の心の奥から命が湧いてきて
どこにでも飛べるような、
どこにでも行けるような。

カチン、
火の見櫓をよじ登る
瓜実の白い顔
振り乱した長い髪
真っ赤な帯が天高く弄ばれて
振り袖はまるで翼のようだ

輪廻から脱する
この身体で脱する、
苦しさをそのままに
辛さを抱いたまま
ーーー”そこを死なぬが心中ぞや。”

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