クランチ文体でバイオハザードre4 その8
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chapter4ー1 悪夢
『選ばれし子羊よ、内に宿る我が聖体よ、目覚めの時は近い』
揺らめく蒼いローブが近づいてくる。
『夜明けには、その身は我らの同胞となる』
手に持つ身の丈より長い錫杖は先端が蠢いている。
『聖なる恩寵を分かち合わん…永久に!』
眼前に差し出された掌から無数の触手が伸びてきた。それに呼応するように腕の中で何かがのたうつ──ごぼごぼと膨らむ皮膚=まるで這いずる蛇が居るかの様。全身自由が奪われる/激痛が走る。
「うああああああああああああ」──レオンは絶叫した。
レオンが飛び起きる──自分の両腕を何度も確認=どこも異常無し。得たいの知れない悪夢のせいか酷く疲れてぐったり──だが直ぐに気を失う直前の事を思い出す=湖の主。
理由は不明だがあのまま去ったらしい。自分がまだ五体満足でボートに乗っていること安堵──波は穏やかだが早いところ湖を去りたかった。エンジンのプルスターターを引くとすんなり始動──南の洞窟を目指して船を走らせる。どれくらい気を失っていたのだろうか──辺りは薄暗くなっていた。
chapter4ー2 触手野郎
洞窟の近くまでくると船小屋の奥に扉が見えた──方向的に洞窟に繋がりそう/教会の時のように手懸かりがあるかも。ひとまず船小屋に乗り入れてボートを降りた。そういえば前回の通信から時間が経った筈だ──現状報告のために通信開始。
「コンドル1からHQ」
《コンドル1! 三時間も連絡が途絶えてたけど……無事なのね?》
かなりの時間、倒れていたこと知る。
「ああ……問題ない。心配させてすまない」
少し悩んで吐血の事は報告せず──手短にまだ鍵を探していると伝える。
《了解。本当に良かった。何もなくて》
ハニガンが安心した様子で通信を切った。レオンがフッと笑う=ボートよりでかい化け物と戦って吐血しただけ、何もなかったさ──報告したところで今すぐ好転するものでもないと。
扉の先は作業部屋だった──誰もおらず出入り口らしき扉と手枷の付いたテーブル。テーブルからは血が滴っており、警察帽が乗っていた──たぶん巡査はここで首を斬り落とされた=斬った奴がいるかも知れない。
作業部屋から外へ──暗闇=小屋を抜ける間に完全に日が沈んでいた──ライトを取り出す。周囲を照らすと雑木林、そして簡易的な柵と埋設された細い丸太で作られた通路があった。
少し風が出てきたな=慎重に進むレオン──木々の葉が擦れるざわめきが強くなる。通路の突き当たりにレオンの腰ほどの高さの人工的な穴があった──穴は角材で補強され向こう側に抜けられそうだった。
穴の中には火が点いた蝋燭がいくつも置かれている=日が落ちてから誰か通った形跡。穴に入ろうとすると風に乗って声が聞こえてきた──歌のような旋律=会話ではない。近くに敵が居る──風向き的に足音は届かないだろうが足音を抑える。
ゆっくりと穴に入る──向こう側に到着。穴から出ると壁に映されて揺れる村人の影が見えた=生い茂った草木の死角に村人。倒すか/やり過ごすか──そう悩むレオンの耳を襲う不快音=振ったソーダを開栓したような音+オートミールを掻き回したような音。
「なんだ……?」
そう呟きながらも音の原因をレオンはしっかりと見ていた──突如として壁に映る影の頭部が弾け飛ぶ/代わりにうねうね動く何かの影が躍り出す=頭を突き破って噴き出した何か。
村人だった影が小さくなる=壁に/こちらに近づいてくる──何かが木の影から姿を表した。首から生える触手の束──先端に爪。赤黒く滑りを帯びた表面=皮膚を剥がれた人体のようなグロテスクさ。長さ/太さがまばら──一際太い触手の爪は錨を思わせる形状=まるで鞭の様に撓い伸びる戟。
ヒュンヒュン=絶えず聞こえる風切り音──不規則に動き続ける。
ギャリギャリ=爪同士が当たる/擦れる──まるで金属音。
のそのそと不器用な歩き方で近づいてくる/一際太い触手が根本から螺旋を描く──レオンは背中に悪寒を感じた──根本の動きからほんの一瞬遅れて追随する先端=横薙ぎ。
すんでのところで身を屈めたレオン──近くの草木がレオンの首の高さで切り揃えられる。身を屈めたレオンと村人の目が合った=触手の束の根本に目玉──縦に割れた切れ目からジロリ──大小複数。
自身の経験則──ラクーンシティで戦ったバーキンが成れ果てたG生物=目玉への攻撃が有効。レオンが後ろに下がり距離をとる/触手野郎の目玉を狙う──素早く二連射──少し仰け反る程度──再び二連射=効果があったらしく突然弾ける触手の束。
水風船を割ったかのように内側から破裂──赤黒い体液が周囲に飛び散る/首無しの胴体から勢い良く吹き出す。糸が切れたように胴体が倒れ込む──さらに叫び声=村人が一人こちらに走ってくる。迎え撃つ──額に一発──少し間を置いて弾け飛ぶ頭部/吹き出る触手=触手野郎二人目登場。
太い触手が後方に倒れる/先端が地面に着く=まさに引き絞った投石器。錨状の爪が放たれる/地面に叩きつけられる=抉れる地面。
レオン=先んじて横に転がり回避済み──片ひざ立ちの体勢で目玉に向かって銃弾を撃ち込む──触手野郎を撃破。
地面に転がる死体を調査をしようとするも手が止まる──死体がゴボゴボと泡立ち始めたのだ。そして全体が溶けてどす黒い液体に変わる/地面に染み渡る──後には服だけが残った。
レオンは記憶を辿る──過去のバイオテロに現れた兵器/化物──その特徴と紐付け=活動終了による自己消滅型か擬態型か、もしくはその両方か。資料ではヒルが人間に擬態していたという報告もあった。だが明らかに命令系統が存在しそうな行動をとっていた例はない=未知のウイルスの可能性。レオンの顔に焦りが浮かぶ──大統領の娘の誘拐──助けたとして既にウイルスに感染していたら?
推測──治療法を盾になんらかの取引目的か
懐疑──そもそも治療法はあるのだろうか。
疑問──どの程度の命令を下すことができるのか。
もし、理性を失わず一定の命令に従う様な存在にできるなら──そんな存在が大統領の近くに居たら──コート野郎を思い出す=あいつは理性を持って行動していた。あの怪力と耐久力は常人ではないはず──耐性が関係するのだろうか。ひたすら悪い想像しか浮かばない。まずは救出を急がなければ──村に着いてからほぼ一日が経過していた。
触手野郎との戦闘を行った場所からさらに進むと洞窟に繋がっていた。レオンは明かりもない天然の洞窟をライトで照らす。ライトになにかが反射──突き当たりに台座に置かれた円盤状の装飾品──その両側に頭を乗せた腕の石像=悪趣味な祭壇。
装飾品をおそるおそる取るがなにも起こらず──ライトで照らしながら細部を確認。大きさは教会の門にあった窪みと同じくらい/なにやら回転しそうな機構が見える=恐らく教会の鍵──狼を助けた家にも仕掛けがあったことを考えるとあり得る話。カーゴパンツのポケットに無理矢理突っ込む──みっちり=円盤の形に布地が突っ張る。
なんだか嫌だったので結局は手で持っていくことに─道を戻り石切場の近くに着く頃には強めの雨が振り出し雷が夜空を走っていた。