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読書拙想文 『シュメル――人類最古の文明』小林登志子

シュメル人の文明について書かれた本である。シュメル人の文明と聞いてピンとこない人(私もその一人)は、教科書にも出てきた古代メソポタミア文明と認識してもらっても間違ってないのだと思う。チグリス・ユーフラテス流域に栄えた古代文明である。

古代オリエント史に属する歴史で、私にとって全く守備範囲外であった。では何故この本ょ手に取ったかというと、友人から薦められたからなのだが、友人の推薦文句は「壮大な古代史の世界に身を委ねれば、日々の生活が小さいものだと認識出来て、肩の力を抜いて人生を楽しめるよ!」というものであった。

自分の人生を客観視する為に壮大な世界に思いを馳せる時、その題材としてよく選ばれるのは宇宙の話であるように思う。宇宙の話は確かに面白いが、壮大すぎて逆にピンと来ないという方もいるのではないか。なるほど、古代の人類史というのはその点、適度な壮大さである。シュメール人の文明は紀元前8000年にはその萌芽があり、この本でも大体紀元前3000年代頃からの時代を取り扱っている。

紀元前3000年代!だいたいこの括りも千年単位の括りという途方もないものだ。千年前の出来事というと、藤原道長が活躍していたのが大体この時代らしい。紀元前3000年代の日本は縄文時代である。貝塚の時代である。途方もない昔の話だ。

ではその途方もない昔、シュメール人がどう暮らしていたかというと、なんと現代社会の原点となる暮らしをしていたことが本書には書かれている。

文字があり、法律があり、行政を担当する官僚(役人)がいて、人々は弁当を持参して学校で文字を学んでいたというから驚いた。

例えば法律の出来はかなりのもので、有名なハンムラビ法典の「目には目を」的な考え方ではなく、罪に対してはそれに対応する罰を与えるという現代日本の法律に近い考え方で制定されていたらしい。身分制社会であり、自由身分と奴隷、男性と女性、と平等な社会ではなかったようだが、自由身分の人間と奴隷の結婚が可能であったり、女性も財産の所有権や独自に事業を契約する権利を有していたらしいので、同時代ないしその後の時代と比べても相対的には進歩的な法律だったのではないかと思う。

とくに感銘を受けたのは既に文字があり、当時の文学作品が今も残っていたり、王が自分の考えなどを文字にして記録に残していることだ。五千年も昔から、人は言葉を使いこなしていたという事だ。

文字にして、言葉にして、自分の内なる世界を発信する、というのは遥か古代から続く人類の原始的欲求なのだと思うと、noteを利用している私としてもなんだか楽しくなってくる。

本書は門外漢にとっては決して読みやすい本ではなかった。私もちまちまと読み進めて、結局読むのに半年近く要した。ページ数はせいぜい300頁弱なんだけどね……。

だけどもたまには、読む本の選択を他人に委ね、普段の自分なら決して手に取ることのない新しい本との出会いに挑戦するのも良いのかもしれないと思った。

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