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読書拙想文 『働く男』 星野源

 アーティスト、俳優、コラムニストと多彩な顔を持つ星野源さんが、自身の仕事の産物をこれでもかと詰め込んで、「仕事観」をエッセンスとして振りかけたのがこの本。雑誌に連載されたコラムあり、昔書いた短編小説あり、自身の楽曲紹介あり、巻末にはお笑い芸人のピース又吉さんとの対談も収録されている。

 実は、星野源さんのことはよく存じ上げていない。周りの女性にも星野さんのファンは何人かおり、名前は知っていたがそれ以上はよく分からないという感じだった。

 ただ、2015年に星野さんがリリースされた楽曲『SUN』に出会ってからは、星野さんに凄く興味を持つようになった。2015年度末に多忙さから心身のバランスを崩し駆けていた時に、たまたまこの曲がテレビで流れていたのだ。

『SUN』のなかで特に心惹かれた一節がある。

僕たちは いつか終わるから 踊る いま

という歌詞の部分だ。

 心身のバランスを崩して塞ぎがちになりながら、自分のこれまでの人生やこれからの人生を考えていた時から、強烈に意識をし始めたのは「人は必ず死ぬ、明日生きている保障もない」ということだ。将来のことに囚われて今を楽しまなければ意味がないという価値観が自分の中で芽生え始めていた時期だったので、『SUN』は凄く素直に自分の中に入ってくる曲だった。

 星野さんはくも膜下出血という大病を患った経験がある。その経験が、この歌詞に繋がっているのだろう。『働く男』は星野さんがくも膜下出血で倒れる前に完成させ、療養中に発売された本だ。

 本の中で、星野さんは自身の仕事観についてこう語っている。

 どれだけ忙しくても働いていたい。ハードすぎて過労死しようが、僕には関係ありません。

 まさにワーカーホリック極まれり、だ。だが、これだけ仕事を自分の人生の一部として受け入れて楽しんでいるのは羨ましくもある。

 ただ、『働く男』文庫版の発売にあたって、病気療養を経て復帰後の星野さんは文庫版書き下ろし部分冒頭を「働きたくない」と本の内容と矛盾する書き出しで始めたうえで、こう書いている。

昔のような依存感、中毒感、過剰な苦しみは一切感じない。(中略)すべてを自分中心に、平熱で感じることが出来る。

 この自然体な感じが最高にイカしていると思う。生きることは働くことという状態から、仕事と遊びは混然一体という状態にシフトしたのだろうかと思う。

 働くように遊ぶ、あるいは遊ぶように働くというのは、体調を崩してから意識するようになった人生の究極の目標だ。ただしそれは適当に遊んで暮らすということではない。

 仕事熱心な人は結構いる。仕事と遊びが一緒という人は殆どいない。まちづくりの仕事に関わるようになってから、稀にこのタイプの人に出会えるが、その生き方は本気そのものだ。本気で遊ぶように働いている。多分、そうじゃないと遊ぶように働いて生計を立てるのは難しいのだろう。自由に自分らしく生きるのにはそれなりの武器や覚悟がいるのだ。

 とはいえ、『働く男』を読んで浮かび上がってくる星野さんの素顔は、強烈なキャラクターやカリスマ性を持った成功者のそれではない。もにょもにょ(決してキラキラではない!)した青春時代を過ごした男子高校生が成長して大人になった姿がそこにある。ただ、ひたすら行動力の人だという印象は強く受けた。

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