魂が先か身体が先か
「この子達はみんな、私が作ったのよ」
僕は今、とある蒐集家の家に来ている。
その建物は山奥にあり、なんとも無機質な家だった。
研究室のような部屋に犇めき合っているのは、ネズミから大きいものならライオンまで、生前の姿そのままに固まっている動物たちだった。
「私は動物学者なの。亡くなった動物を解剖して死因を調べて解明し、次に生かす。・・・で、手術の練習の一環で解剖した動物を再び縫合していたら、なんとなく、愛おしくなっちゃって。私のエゴではあるけど、新しい命の形として剥製にしているの」
魂の抜けた永遠の身体。身体の朽ちた永遠の魂。
永遠の命を求める人間は多いが、そのどれもが「魂」と「肉体」どちらもの永遠を求めているものであり、しかし実際には魂なんて目に見えない不確かなものを留める事は出来ず、今現在、長い間身体だけを維持できるのはこの『剥製、標本』という方法だけだろう。
「そうそう、この子達を見に来た訳じゃないのよね。」
彼女は奥の部屋へと僕を誘導し、
「驚いてね。」と言って軽快な音と共に灯りをつけた。
そこにいたのは、見たことの無い生き物だった。
足が6本ある猿のような馬のような小動物に、赤い大きな目と鋭い牙、そして背中にトゲをもった中型動物、毛のないゴリラの頭には立派なガゼルの角が生えていた。
「これは私が作ったの。もちろん全て人工物よ。内臓から骨、皮膚まで私が加工して作り上げたの。」
なるほど、部屋の奥には夥しい種類の布と、骨の元であろう粘土が置いてある。
どうやら彼女の想像した動物を、剥製として作り上げた様だ。
「勉強の一環でね。剥製にすると内臓取っちゃうから。
やっぱり解剖するなら全て戻す方法もしっかり学んだ方が安心でしょ。
それがなんだか楽しくなっちゃってね。」
彼女はワーカホリックのようだ。
「あぁそうそう!最近私が作った剥製が無くなってるのよ!」
話を聞くと、人気のない山奥にも関らず、この部屋の剥製が忽然と消えているというのだ。
「趣味だから別に盗まれたってその先で大事にしてくれていればいいんだけど、やっぱり製作者からすれば、何処が気に入ったのか聞きたいのよねぇ」
これは後日の話になるが、どうやら彼女のいた山はUMA(未確認動物)の目撃談が多いそうで、見せてもらった動画では、「幻のチュパカブラか!?」という題名で、何とも見たことのある真っ赤な目と背中のトゲが逃げていく様子が映っていた。