この前見た夢の話。 気づくと私は黒いビルにおり、中はゲームでスタックした時のように壁が伸びた個所がありその中には動かない人たちがいた。どうやら世界が更新される際にその歪みに挟まったようで、所謂バグの中らしかった。 私のほかにも人はおり、各々生活していた。 地下にはニトリのような家具屋だったのか家具たちが散らばり、稀に外から買い付ける人がいるのだが外の世界は真っ暗で果てがないというよりも無が広がっているようで、どこからか古い車が現れて中から古めかしい恰好をした貴婦人が顔を出した
カレンダーによると今日で地球が終わるらしいので私達は海へ行き、ベッドとお菓子とタブレットを広げて映画を観る事にした。「人工楽園だね」と寝転びながら君は微笑み、お気に入りだけを愛していって、零時丁度、波が凪ぐと共に世界中の光が一斉に消えてゆき異様な眠気が降り注いだ。微睡みの中の君の指先は暖かく、このままずっと月明かりに沈み続けたらいつか青い宝石になれそうだと思ったが、君はもう、眠っていた。
「レプリカたちの夜」一條次郎 深夜、レプリカ工場内にてシロクマが歩いていた。行方不明になった部長、噛み合わない記憶、絶滅した動物達。 私達はどこにも辿り着けない。 かなり面白かったです。徐々にわかるディストピア感は西瓜糖の日々や山の人魚と虚ろの王に似て、不条理と不穏が纏わりつく。哲学的ゾンビがわかれば読み易いかも…? 登場人物たちが受動的で違和感に鈍感すぎて、ずっと真夏の陽炎に眩んでる様な感じなんですけど、そんな主人公が最後であろう時に言う「つまらない」がとてもやり
コンビニの帰り道、葬儀場の前を通ると看板に君の名前が光っていた。中へ入ると熱量のない月光に照らされた棺には君が横たわっており、「死んだのかい」「ああ最近」と口も動かさずに随分と懐かしい声で言うので先程買った肉まんを食べながら私達は他愛ない話をしていたのだが「それじゃまた、天国か来世で」と言ったきりすっかり死体に戻ってしまった君は夏夜の中、随分と菊の香りが似合っていた。
「俺は人に見えていない時があるようなんだ」そういった男が友人である占い師に占ってもらったところ、彼は驚きとおそろしさで身を引きながら言った。「君は我々が今見ている現実世界の住人ではない──」 冒頭に「つまらんから読むな」という文句が書かれているが、なんとこの文句は8ページ程続いている。そんな昭和15年に作成されたSF小説とは思えないほどの奇想とユーモアのあるこの小説、次元における視点との関係性に対する説明が秀逸すぎる。物が見えなくなる説明に思わず「成る程!」となる事間違
人間椅子のアルバムのタイトルにもなっているこの小説「押絵と旅する男」。深夜、汽車の中で見ず知らずの男から打ち明けらたのは淡く奇妙なある男の恋煩いの結末だった。 この物語は「夜」「曇天」が背景にあるためか一貫して灰色のイメージが浮かぶ中、「風船」「凌雲閣」そしてキーワードである「押絵」だけが艶やかに浮かび上がっており、そのコントラストが物語の奇妙さを確かなものにしているのだろう。 今なおあの風船のシーンは私の中に留まって不穏 とときめきの象徴になっている。出会ってよかった
皆の殺意が叶い始めた。世界の人口は瞬く間に減って行き、カウンターの死によりもう的確な数字も不明で、例に漏れず私も今こうして屋上から落ちているのだが、いい子の君は未だ死にそうにもないな。君が掴んでくれていた右手が感触だけを残し、急激に冷えていく。君はこの街最後の一人、独りぼっちで、私が死んだ先にいない君。 遠くで待ってと声がして、空に飛んだ君が見えた。 しまった、これは殺意だったのか。 呟いた『寂しい』が、最高速度で叶っていく。
「その星には生物は居らず、ただ透明で虹を発する石が散らばっていた。調べた所それは全て21gであり破片ではないという事と、椅子や何かの上に置いてある場合が多く、以外には巨大なガラス越しに転々と、または同じく巨大な水槽の中に転々とある、という結果が出た。 進入したある建物の中では柔らかな家具──眠る為の家具だろう、その中に二つ、キラキラと瞬いていた。思わず見惚れていると突然けたたましい音が鳴り響いた。枕元の薄っぺらな機械が鳴っている。触ってみると時間らしい数字と文字が現れ、押すと
その冬国の海岸では、少年が薄荷水で作ったシャボンを膨らましていた。「上手く上がれば星になり、賢く飛べば風になる」と鈴のような声で歌っている。 『落ちてしまったら?』私が思わず問うと「愛しく落ちれば石になる。役に立たない物は、愛する他にないからね」と言って、緑色をした蛍石を一つ寄越した。 手に収まる程のそれはちっぽけで頼りなく、しかし暖かく、優しくて、溢れた涙と同じ温度だった。
991.過去の自分に丸付けをします。「間違っていない、間違っていない」呪文は重く、結果を見つめ、問題文の理解度からは目を逸らす。手が震えるので判子で花丸押さえます。答えの許容範囲は広く、花一匁の蚊帳の外。横断歩道のアスファルトにいるのが何かも知らず、とっくに迷子のなり方を忘れてしまった。 ・・・ 992.思えばそれはバグだった。とても軽い夢を見た夏の深夜26時過ぎ、目を覚ますと全てが満天の星空だった。足元には水没した様に揺らめく街灯が並んでいる。どうも僕だけ夜に浮かんでし
981.ずっと昔に売り飛ばした幸福を、君が僕にと持ってきた。それは一等美しく、何故手放したのかと思ったが、成る程僕が持つと嫌に燻んで一等無意味になってしまった。「一寸待って」僕はそれを見事なブローチに仕立て上げ、君の胸元へ付けた。 有難う、そう微笑む君を見て、やっと幸福の意味を知った。 ・・・ 982.壊れた方位磁石を持って僕は旅をする。穴の空いた水筒に、時期の逃した星図、空想ばかりの図鑑、割れたスノードーム、片方だけの靴下、角を無くしたユニコーン、足跡だらけの地図、ほ
971.海の底へと逃避行。緑の陽が踊り、珊瑚礁の間にいつ落としたのか蛍石が座っていた。砂を掬うとお祭りで買った指輪やビー玉、届かなかった瓶詰めの恋文が転がっている。果てよりも続く廃線を辿り、影の冷たい処にある沈没電車へ乗り込んだ。ここは私だけの海。思い出から零れ落ちた、私の優しい停滞地。 ・・・ 972.星座早見盤の回転に合わせて命を巡る。死んだ人に印をつけて、地図を墓標で埋めてしまおう。季節は彼等を置き去り生命と時間を押し流す。地球の回転から足を浮かす方法を探す旅に出よ
961.部屋にスポットライトの様な月明かりが差し込んだ。それは金色の丸で床を踊り、輪郭がぶるぶると震えている。不思議に思い、ダーツの矢をその丸へ投げ込んだ。ぷすん、動きを止めたそれは丸でなく直角三角形で、それが高速に回っていたらしい。はっとして空を見上げると、月も同じ形で止まっていた。 ・・・ 962.「君に寂しさを教えよう」 夕暮れの図書館で教授が少年に授業を始めた。独りの宝石の話、砂漠の月の話、枯薔薇に住う蜥蜴の話、どれも悲しい話だったが少年はどの話も、話をしてくれ
951.処方された薬を開けると中からひよこが現れた。説明書には飼育法しか書かれておらず、狼狽る私を尻目にひよこは部屋を咲く様に走り回っている。そうして無邪気に私の手へ潜り込んで寝てしまった。 「君は信用しすぎだろう」久々に上がる口角に、"幸福は親しい者から齎される"そんな言葉を思い出した。 ・・・ 952.歌を忘れた科学者が、水面の光を詩だと呼ぶ 愛を忘れた踊り子が、花の温度を恋と呼ぶ 鍵を忘れた旅人が、古い星図を友と呼ぶ 月を忘れた夢人が、自分の影を夜と呼ぶ
941.はないちもんめで売られたあの子 あの子の愛した野花を摘んで 帰ってくるのを待っている ビー玉 貝殻 おもちゃの指輪 あの子は幾らで買えるかな ・・・ 942.聖戦前夜の逃亡劇、僕たちは非常ベルの音に髪を切り裂き、空へ伸びる梯子を登った。 黄金色の三日月は僕達を乗せて空を漕ぐ。「僕達だけの王国を探そう」誘い文句は心中によく似ていた。リュックに詰めた林檎を齧る僕達は、幸せと瞞しの違いも知らず、ただ僕は今こそ一番幸福なのだと予感していた。 ・・・ 943.
931.「星座を繋げたあの線が、骨格に見えるんだ」。放課後の理科室、プラネタリウムを前に君が言った。夏休み前の事だった。 その年の秋から、僕は望遠鏡を携え夜道を自転車で駆けている。あれ以来僕の夜空は骨格標本の部屋となった。 海に連れ去られた彼が、いつか僕の夜空で見つかる時を待っている。 ・・・ 932.ある夜、酔っ払いが月の入った水溜りに落っこちた ある夜、泣いた少女が海と思われ月に引き寄せられた ある夜、月明かりの中踊っていた少年が気付いた時には月面にいた あ