一瞬の長さ

この前見た夢の話。
気づくと私は黒いビルにおり、中はゲームでスタックした時のように壁が伸びた個所がありその中には動かない人たちがいた。どうやら世界が更新される際にその歪みに挟まったようで、所謂バグの中らしかった。
私のほかにも人はおり、各々生活していた。
地下にはニトリのような家具屋だったのか家具たちが散らばり、稀に外から買い付ける人がいるのだが外の世界は真っ暗で果てがないというよりも無が広がっているようで、どこからか古い車が現れて中から古めかしい恰好をした貴婦人が顔を出した。「あまり来るべき場所じゃないけどね、ここの家具は珍しいから人気があるの」と言っていた。
1,2階は吹き抜けており真ん中には最初に見た大きな伸びた壁、3階はゲームセンターや温泉などの娯楽施設、4階は通行止め、5階にはドードー鳥がたくさんいたのでそれを狩って生活をしていた。

そこでの生活はひどく静かで救いがなく、とても平和だった。
ただいつの間にか段々と人が消えていることに気が付いた。壁を見ると最近見ないと思っていたおばあさんがその向こうに動かぬ姿で止まっていたので「ああ、向こう側へ行ったんだ」と腑に落ちた。
「最近温泉が枯れたらしいよ」とどこからか噂が聞こえる。
ある日5階へ行くとドードー鳥がおらず、向こう側から女性が来た。
「向うにはいなかった。だからこっち側まで来たんだよ」
最近おかしいね、と話していると向う側から少女が自転車で走ってきて「これあげる」と飴をくれた。その少女は落書きのような顔をしておりここの世界の住人らしく、いつも赤い自転車に乗って階段でも廊下でも走り回りたまに飴をくれるのだが去り際に「飴はこれで最後、もうゲームセンターは空っぽ」と言った。

可能性からこぼれ落ちたそこでは減る事はあっても増える事はなく、緩やかな枯渇に希望はない。
吹き抜けの壁に「一瞬の長さって知ってる?ここはその長さが違うだけ」と彼女が呟き、顔を見ようと隣を振り向くところで目が覚めた。

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