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第11回 取り組みを元に戻す? 継続する? 紆余曲折の年度末反省――同僚の思いを大切に
今年度も残り約1ヵ月となりました。
この次期、どこの学校でも今年度の取り組みをふりかえり、次年度の取り組み内容を検討する「年度末反省」が行われているのではないでしょうか。
横浜市ではほとんどの学校で、「学校経営計画の反省」と銘打って、教育活動全般を全教職員で見直しています。
期間は、早ければ12月ごろ~2月下旬の間に行われている学校が多いようです。
本校でも、1月~2月下旬にかけて、学校経営計画全体を見直しています。
今回は、この学校経営計画を見直すなかで起きたエピソードを紹介したいと思います。
1.学校経営計画見直しのプロセス
本校では、学校経営計画の見直しを次のようなプロセスで行っています。
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①今年度の取り組みを見直し、改善点や改めて確認した方がよいことを探す
●各学年や校務分掌などの小グループで今年度の取り組みをふりかえり、改善が必要な内容はないか、改めて全教職員で確認した方がよいことはないか、などを出し合います。
②出し合った内容について、教務部を中心に「検討事項」と「確認事項」に振り分ける
●各グループから出されたすべての意見について教務部で確認します。グループの意向を尊重しながら、それらの意見を「検討事項」と「確認事項」に振り分けます。
●「検討事項」が多くなった場合は、検討の内容を踏まえて複数グループに振り分けて、検討部会を設定します。
③検討事項について、次年度への改善案を検討する
●教務が整理した各部会の「検討事項」を全教職員で確認します(今年度は3部会を設定)。
●各学年で、「どの部会で検討したいか」を確認し、参加部会を決めます。その際、すべての部会に学年1名以上が参加するように分担します。
●検討事項について、各部会で検討し、次年度の改善案を作成します。
④部会で考えた改善案について、全教職員で検討する
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このような流れで、今年度のふりかえりと次年度の方針検討が行われています。
進め方は一般的なものなのかと思いますが、そのなかでも考えをまとめていくむずかしさを毎年感じています。
今回は、今年度検討しながら、悩んだりモヤモヤしながらもうれしかったエピソードをお伝えします。
2.体操着をどこまで自由にする?
一つめは悩んだエピソードです。
最近、これまで当たり前のようにあったルールや慣例を見直す動きというのはどこの学校にもあるのではないでしょうか。
私たちの学校でも、益子照正校長先生を中心に、「本当にこのルールは必要なのか」ということを常に問い直そうする動きがあります。
ですが、ルールや慣例をただ無くしただけでは、「子どもたちのトラブルが増え、悲しい思いをする子どもが増えるのではないか」「指導しづらいことが増えるのではないか」という不安を感じることも多々あります。
その一つの例が、水泳学習の水着です。
2020年度はコロナ禍真っ只中で水泳学習を行わず、2021年度はプールに一度に入る人数を大幅に減らして実施していたため、例年ほどの水泳学習の回数を行うことができませんでした。
それ以降は、その時の状況に合わせて、できる範囲で水泳学習を行ってきています。
これまでは、ある程度形状を指定していたいわゆるスクール水着を各家庭でご用意いただいていたのですが、コロナ禍を経て水泳学習の実施回数がそれほど多くないのに新たな水着をご用意いただくのは負担が大きいのではと考え、スクール水着の指定をやめることにしました。家庭で使用している水着なら何でも大丈夫にしたのです。
またそれに伴い、ゴーグルやラッシュガード(日焼け防止の服)も、これまでは利用を希望する際には事前に担任に申請してもらっていましたが、各家庭の判断で自由に着用できるようにしました。
結果、保護者からも「学校用だけの水着を買う必要がなくなった」と好評で、教員からもとくにそのことで困り感があるような声は聞かれませんでした。
さらに、この流れに乗って、「体操着」もとくに指定せずに、運動しやすい半袖の服(白)とハーフパンツを推奨する、という内容にしました。
冬は、安全のためにフードやチャックがついていない上着と、長ズボンタイプのジャージ、タイツのようなアンダーウェアなども着用可としました。
ただ、体操着についてはこれまで指定されていた影響もあってか、ほとんどの子どもが一般的に体操着といわれる上下の服装をしているという状況でした。
この体操着について、今年度の学校経営計画反省で「シャツの色も指定する必要はないのではないか。シャツが白いと下着が透けることなどもあるのが心配」という意見が出されました。
教務部で、それぞれの意見を「検討事項」にするか「確認事項」にするか審議をしているとき、この意見についてさまざまな声があがりました。
「確かに色はなんでもいいよね」
「なぜ白でないといけないのかと言われると、説明しづらいよね……」
「運動しやすい服装ということであれば、何でも大丈夫だよね」
という前向きな意見もあれば、
「なんでもよいということにし過ぎてしまうと、危険な服装をする子どもも出てきてしまうのではないか」
「体操着と日常過ごす服をひとまとめにしてしまう子が出てくるのではないか。そして、そういう子どもに私たち教師も気づけないのではないか」
という不安な声もあがります。
最後は、「今日は決める場じゃなかったよね」(「検討事項」か「確認事項」かを審議する場)ということになりました(笑)。
このことに関する検討はまだ続いています。どのような結論が出るか、楽しみです。
私たちの学校には行動範囲、行動基準のようなものをあらかじめ指定しているルールのようなものがたくさんあります。
本校の場合は、大人が考えて示しているルールがほとんどです。
4年前に着任した益子照正校長の方針のもと、できる限りルールをなくして、子どもが困ったときに、子どもと大人が一緒につくっていけるようにしたいと日々検討を進めています。
ただ、教職員のなかには、
「それができれば一番いいけど、今示しているルールも守れていないのに、どうなってしまうんだろう」
「ルールをなくして、万が一、大きな事故が起きたら……」
などと葛藤を抱えている教職員もたくさんいます。
私は、教務主任という立場からも教員としての個人的な思いからも、益子照正校長の方針を実現できればと考えていますが、不安を感じる同僚の声も分かるので、みんなでモヤモヤしながら、ときにはこのモヤモヤを子どもたちにも伝え、相談しながら、子ども中心にルールをつくっていけるような学校になるといいなと思っています。
3.職員会議を以前の形に戻す?
二つめは、モヤモヤしながらも少しうれしかったエピソードです。
これまでの連載でもお話ししてきたように、今年度、本校は職員会議のあり方を見直しました。
職員会議の場を、できる限り職員の関係性を構築する機会にすることで、「校長の職務の円滑な執行に資する」という目的を達成できる職員会議にしようとなりました。
このあたりのくわしい経緯は、第4回、第5回の記事をご覧いただければと思います。
第4回 「職員会議」、どうしてますか?
第5回 職員会議、どうしていますか?(2)――勤務時間内にざっくばらんに話せる場へ
ですが、実際の職員会議の運用は、なかなか大変です……。
何が大変かというと、その月の職員会議で起案をする人は、資料を「職員会議の2週間前までに作成し、全教職員に電子掲示板で共有する」という締め切りがあります。
この起案資料を個人で作成するのであれば、締め切り直前に慌ててつくっても間に合うのですが、本校は、校務分掌の内容を踏まえて、全教職員を3チームに分けています。
これを3部会制と呼んでいます。
たとえば、健康・安全管理的な内容を中心に考えるチーム、児童指導的な内容を中心に考えるチームといった感じです。
担当者が起案したものを、この3部会のチームで検討してから全教職員に共有するので、起案資料の原案を職員会議のかなり前に作成しないと、チームで検討する時間がなくなってしまいます。
それでも、はじめの頃は、なんとかみんなで期限を守りながら進められていたのですが、秋口、冬と学校行事も増え、放課後の児童・保護者対応、校務の多忙など、とにかく忙しくなってくると、なかなか「職員会議の2週間前」という締め切りを守れないことが多くなってきました。
このような現状で、学校経営計画の反省の時期を迎えました。
そして、「職員会議の提出期限をみんなが守れないのであれば、以前の形に戻した方がよいのでは」という意見が出されました。ごもっともです。
この意見について検討するなかで、「以前の職員会議の形に戻しても有益な時間になるとは思えないから、何とかよい形はないか」という意見も出されました。
実際、12月の職員会議は、みんなが締め切りを守ることができず、依然と同じような形で起案について話し合うことになったのですが、約15分ですべての起案が承認されました。
(本校は、「提案者の思いを尊重して、まずやってみよう。その後にフィードバックをしっかりしてよりよい取り組みにしていこう」というあり方を共有していることもあり、反対意見を出しづらいという人もいるようではあるのですが。)
とにかく、「ただ以前の形に戻してもなぁ」という空気で検討が進んでいきました。
ここで、もう一つ学校経営計画の反省に出された職員会議に関する意見にも目を向けました。
その意見とは、「今の職員会議のあり方だと、起案をする人の思いが伝わりづらい。その人の思いを聞いたうえで、みんなで考えられる場にしたい」というものでした。
この意見が出されたのは、起案資料の締め切りが2週間前に設定されていることが大きく影響しています。
ですので、話が行ったり来たりして申しわけないのですが、職員会議の仕組みについて改めて説明させてください。
起案資料の締め切りが2週間前に設定されている理由は、電子掲示板に起案された内容を職員会議1週間前までに学年で内容確認と検討を行うためです。
ただ、学年で内容確認と検討をしようとしても、起案者に聞かないと分からないことも多いのでは?と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。
「起案者に聞かないと分からない」ということを解決するために、本校では3部会制を敷いて、起案者の提案についてチームで検討する時間を設けています。
このチームには、必ず各学年から1名ずつ入るようにメンバー構成をしています。
そこで、各学年で起案内容の確認と検討を行う際には、起案者と同じ3部会のチームメンバーが「メッセンジャー」となり、起案内容について口頭で説明するということになっています。
その場で細かな質問は解決し、メッセンジャーでも解決できなかった内容については、職員会議の1週間前までに電子掲示板で質問をします。
その質問内容についての回答も電子掲示板で全教職員に見える形で行い、職員会議当日までの1週間で解決してしまおうという仕組みです。
しかし、「提案者の思いについてもっと知りたい」という学校経営計画の反省に出された意見について話し合うなかで、このメッセンジャーの役割がうまく果たせていないということが分かりました。
具体的には、「こんな感じでやります」ということは伝わっていたのですが、「なぜ、このようなことをしたいと考えたのか」という思いは伝えられていなかったのです。
私が4月にこの職員会議の行い方について説明した際も、「メッセンジャーが伝えてください」ということは話していましたが、「どうやって伝えるか」までは共有していませんでした。
4.同僚の思いを知りたい、声を聞きたいと思い合いながら
これらのことを踏まえ、職員会議のあり方については、部会で次のような二つの内容でまとまりました。
●職員会議のこのシステムは今年度はじめたばかりだから、次年度も引き続き行う。ただ、起案の目安やチームでの検討開始時期をできる限り早めに示し、スケジュールを意識して取り組める支援は行い、このシステムにより慣れるようにがんばろう。
●メッセンジャーの伝え方を「何をするのか」だけでなく、「なぜ行うのか」まで伝えるように伝え方を明確に共有する。
みなさんは、この2つの改善案をどう捉えられるでしょうか。
結果、変わらないんじゃないの?と感じられる方もいるかもしれません。
ただ、私にとっては、この一連のやりとりは、むずかしさも感じていますが、うれしいものでもありました。
「職員会議をこれまでどおりに戻しても……」という声があがったこと。
これは、以前の職員会議にただ戻すよりは、教職員の関係性を構築する時間にも価値を感じてくれている人がいたんだなと実感することにつながりました。
そして、何よりうれしかったのは、仕組みの問題点だけでなく、「もっと起案する人の思いを聞きたい」という声があがったことでした。
何をやるかではなく、なぜ行うのか。
そして、起案者の思いをもっと大切にしたいという思いは、職員会議だけでなく、校内研究でも大切にしていることです。
職場の仕組みをいきなり変えてもうまくいかないことは山積みなのですが、このように同僚の思いを知りたい、声を聞きたいと思い合いながら、よりよい働き場をつくろうとする仲間がいることは、とてもうれしいことでした。
まだまだ課題だらけなのですが、こういう仲間とつくっていけるうれしさを噛みしめながら、明日からまたがんばろうと思える時間となりました。