『改訂版 教師にできる自殺予防――子どものSOSを見逃さない』
いまだに進まない自殺予防教育
長年、自殺予防活動をするなかで、「子どもの自殺が増えている」そう感じ始めたのは2018年でした。翌年の2019年には児童生徒の自殺者数が過去最悪となり、本当に悔しい思いでした。
2016年の自殺対策基本法の改正時には、若年者層の自殺対策は重点課題とされ、自殺予防教育・SOSの出し方教育も努力義務化されました。しかし、「どんなふうにやればいいのか」「誰がどんな内容を何年生に」「そもそも自殺予防なんて教育で教えられるのか」という言葉も聞かれ、それから7年経った2023年現在も、自殺予防教育はまだまだ進んでいません。
子どもたちがSOSを出せるかは大人次第
私はいくつかの自治体・教育委員会と共に自殺予防教育を実践してきました。授業を重ねるなかでわかったことは、「子どもたちはSOSの出し方を教えると、私たちが思っている以上にSOSを出せるようになる」ということでした。
しかし、「弱音を吐くと親が心配する」「先生からの評価が下がる」などを理由に「弱音が吐けない」ということも、たくさんの子どもたちから聞きました。子どもたちがSOSを出せないのは、周りの大人の反応によるものなのです。
さらに、私たち大人は、子どもの自殺は、「いじめ」が理由だと思い込みがちですが、子どもの自殺の原因の詳細を見てみると、小学生の自殺の原因の第1位は「家族からのしつけ・叱責」、中学生は「学業問題」、高校生は「進路問題」となっており、すべて大人が関係していることです。
子どもの自殺を減らそうとするときに、子どもたちに変わることを求める前に、私たち大人が、子どもたちへの接し方を変え、身近にあるSOSを受け止めるスキルを身につけなければならないのだと思います。
コロナ禍で悪化した子どもたちのメンタルヘルス
この本の初版を出した頃から、世の中は新型コロナウイルス感染症対策の時代に突入し、子どもたちをめぐるメンタルヘルスの状況はますます悪化していきました。あれから3年が経ち、アフターコロナとはならず、私たちは新型コロナウイルスと共存する道を進むことになりました。
コロナ禍の3年の間、さまざまな学校行事が中止・縮小され、黙食を強いられ、子どもたちは楽しい時間や自分らしさを発揮する場面をことごとく奪われてきました。
本心を言えば、この本の初版を出した時は、少しでも子どもの自殺が減り、この本の世の中のニーズも減ってくれたほうがいいと思っていました。
改訂版を出すことが決まった2022年、児童生徒の自殺者数は過去最多の514人になってしまいました。奇しくもこのデータが発表されて間もなく、その年の出生者数が80万人を割り過去最少となったという発表もありました。少子化が深刻化するなかで、子どもの自殺も急増している。日本の社会はなぜ、こんなにも子どもたちが生きづらい社会になってしまったのでしょう。
疲弊する教職員への対応も急務
さらには、子どもたちを支える教職員のメンタルヘルスもこの数年、非常に悪い状態にあります。令和3年度の教育職員の精神疾患による病気休職者数は、5,897人(全教育職員数の0.64%)で、過去最多となりました。普段の業務に加え、コロナ感染予防、感染予防のためのカリキュラム変更、GIGAスクール構想の実践など、マルチタスクを強いられ、教職員もまた疲弊しています。
子どもに何かあったら「学校は何をしているのだ」とよく批判されますが、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置などを充実させ、業務を分担できるような対策は急務であると思っています。
大人が変われば、子どもの自殺を減らすことができる
本書では、学校でよく遭遇する子どものつまずきへの寄り添い方、「この子、死んじゃいたいと思っていないかな」と気がかりな子や、死にたいと訴えている子、リストカットを繰り返す子などとの会話例をあげ、実践につなげやすいように記しました。
また、私がこれまで行った自殺予防教育の実践を詳しく記し、教師のみなさんに応用してもらえるようにしました。
この本を手に取ってくださったみなさんが、この本から子どもの話を聞く方法や、自殺予防教育のヒントを得、その結果、1人でも多くの子どもの命と心が守られること、それから、日ごろの業務に追われるなか、子どもたちの話を一生懸命に聞いてくださっている教師のみなさんの力になれることを願っています。
大人たちが変わらなければ、子どもの自殺は減らない。逆に言うと、私たち大人が変われば子どもたちの自殺を減らすことができます。私たち支援する人たち・教師たちもつながり、SOSを出し合いながら、子どもの心を守れればと思います。
※本書掲載の自殺予防授業・ワーク用資料もダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
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