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企業に勤めるLive2Dデザイナーのぼやき

こんにちは、はじめまして!
企業に勤めるデザイナーのキョウヘイと申します。
Live2Dアドカレ、12日目の記事となります。よろしくお願いいたします。

今回、僕がフォローしているナナメさんがアドカレを企画してくれて、
「そういえば、自分の意見をハッキリと言ったことって無かったなぁ」
と思い、できるだけさりげなく、参加表明をさせていただきました。

参加表明して10秒くらいでナナメさんにリツイートされたので超ビビりました。

このブログでは、企業に勤めるLive2Dデザイナーである僕が
Live2Dに出会った経緯と、その後Live2Dがどうなっていったか、
そしてLive2D業界に足を踏み入れた僕の今後…という
過去から未来の話を、自分語りを交えつつしていければと思います。

長文です。覚悟してください。

なお、本記事を執筆するにあたり、調べながら書き進めていますが、
勉強不足により、読んでくださっている方を不快にしてしまうかもしれません。
どうかその点についてはご容赦いただくとともに、
差し支えなければご指摘をいただけると、とてもありがたいです。
自分の言っていること、考えていることが絶対に正しいと思っていませんし、もし間違っているのなら、是正して学んでいきたいと思っています。

まずは自己紹介とLive2Dに出会った経緯

僕は現在、企業でLive2Dアニメーションのディレクション周りを行いつつ、
デザイナー全体のマネジメントという名の「雑用」に全力で取り組む、
しがない中間管理職の30代男性です。

もともと僕は、SAPで「イラスト進行管理」という
Excelのセルに色を塗るだけの簡単なお仕事をしていました。

「雨が降ったから会社を休みます」
「向かい風が強いので遅刻します」
「株を真剣にやっていたので進捗が遅れそうです」

こんな愉快なイラストレーターに囲まれていた日々は、
僕にとってはネタの宝庫でしかなかったので
本当に楽しい時間を過ごしていました。

この業界は終身雇用とは無縁で、
僕もつぶしのきかない仕事で転々と転職を繰り返していたのですが、
新しい会社に転職した入社初日、大きなおなかを揺らした部長が笑いながら
僕に言ってきたのです。

「セルに色塗れるならLive2Dもできるやろ! じゃああとお願い!」

あまりに無知。あまりに無謀。
Photoshopすらまともにさわっていなかった僕は途方にくれました。

「Live2Dって、アイマスで使われてるやつでしょ。。。
自分にできるのか……

これが当時、僕の脳内をぐるぐる回っていた言葉です。

とはいえ、僕のように人にいばれるようなスキルもセンスもお金ももっていない、
自分の自伝を書いたらA4用紙に1枚程度で終わってしまう、
そんな中年のおじさんには拒否する権利はありません。
入社初日に上司の無茶ぶりを跳ね返すだけの度胸も無く、

「得意です」

と一言伝えて、その日から会社と自宅で
一日中練習する日々が始まりました。

さらに私に追い風(突風)が吹きました。
なんと、年齢だけで入社初日からリーダーにされてしまい
私も含めて95%がLive2D未経験というチームを
引っ張っていかなければいけなかったのです。

Live2Dを使用する予定のプロジェクトに合流するまで、
ひたすら練習しておくことを命じられた我々7人。
要するにやることも無く、怠惰に過ごそうと思えばいくらでも怠惰に過ごせました。
ただ僕たちは、謎のやる気に満ち溢れていました。

「自分たちだけがこの会社でLive2Dを扱える」
「ここにしかない価値がある」

人が働く理由には3種類しかなく、どのような言葉を使ったとしても
「生きがい」「誇り」「お金」のどれかには分類されるそうです。
なぜか僕たちは、会社から怠惰な生活を容認されているにもかかわらず
「誇り」のために働くことができていたのです。今考えてもめっちゃ謎。

会社の思惑とは裏腹に、僕たちは勝手にどんどん忙しくなりました。
会社の権利のイラストを各プロジェクトから強引に奪うと、
勝手に切り分け、レイヤー構造に文句をつけPJメンバーに修正をさせ、
実装予定もないのに8モーションつくり、
エンジニアに鞭打って実装させる。

どこかのプロジェクトがPVを作るといえば、
AfterEffectsのプロジェクトを共有ドライブからデータを内緒で入手し、
静止画素材を勝手にLive2Dの連番PNGに変えて戻しておく。

会社のクレジットカードを手に入れた僕は、FaceRigを購入し、
弊社代表のVtuberモデルを許可なく制作し、
なかなか人前に姿を現さない代表の部屋へ、アポなしで殴り込み
YouTubeで実際にVtuberデビューさせる。

文章に書くと本当に無茶苦茶ですね。

多分ですが、僕もとても楽しかったんだと思います。
新しい技術、世間で話題の技術に触れている。
セルに色を塗っていては感じることのできなかった世界が、そこにありました。

そして、プロジェクトに配属されたのは、
僕たちがLive2Dを触り始めて1年後。いや、充電期間なげえよ。

1年間、営業日換算すると240日、時間計算すると1920時間。
人間は1つのことを2000時間勉強すると、
100人に1人くらいのスキルになると言われています。
僕たちは1年でその2000時間を達成していました。
100人に1人のスキルを初期段階で持った状態でプロジェクトに参画する。
まさに強くてニューゲーム。まさにチートキャラ。まさにキリト。

こうして、ちょっと中二病、ちょっと体が大きい、
そして普通に不細工なキリトこと、キョウヘイが爆誕したのです。

※ ちなみにどのアイマスでもLive2Dは使われていませんでした

適者生存をつづけたLive2D

ここからは、2015年ころから今までのLive2D業界を振り返ってみます。

2018年から大きなVTuberの波が来たのに伴い、
Live2Dの技術者が多く登場してきたのは皆さんの知るところだと思います。

ただ、Live2Dが最初に注目され始めたのは、ゲームの分野でした。

他ゲームとの差別化を図るために
どんどん華美になっていくしかなかったキャラクターイラストに
「動き」という別ベクトルの発想を与え、
「動きがあるのが当たりまえ」という所まで浸透させた
Live2Dの「功績」と「罪」は非常に大きいと思います。

「功績」はユーザーが受け取れる価値の飛躍的な上昇で、
「罪」は開発予算の爆発的な上昇です。

Live2D alive 2017」で発表がありましたが、
Live2Dユーザーの過半数、55%ほどはゲームでの使用で
当時リリースされていたバージョンは、
機能的にもリアルタイム描画のための機能がふんだんに盛り込まれていました。

Live2Dはこれからもゲームで広く使われていくのだと、
そして現状は開発工数が高いが、
今後はその点にも注力して、気兼ねなく使用できる未来が来るのだと、
ゲーム会社に勤める身としては、非常に期待の持てる講演だったと記憶しています。

流れが変わったのは2018年はじめ、いちから株式会社から
8人のバーチャルアイドルが登場したことでした。

それまでにもVtuberという言葉自体は存在していましたし、
キズナアイも静かに話題にはなっていました。

ただ、3Dの高度なモデリングと、ある程度のスペースをもつスタジオ、
演者以外の、ディレクターをはじめとしたスタッフ、
Neuron+iPhoneといったモーションキャプチャーシステムなど、
個人のみならず企業としてもややハードルの高い構成となっていたので、
言い方は良くないかもしれませんが、
体力のある(=資金力がある)会社で使える、
特別なプロモーションプランとして限定的な使われ方をしていました。

しかし、いちから株式会社から生まれたアイドルたちは、
私たちにとってとても見慣れたものでした。

「これ、FaceRigとLive2Dじゃん」

実際にはFaceRigではなく自社開発のアプリだったと後で知ったのですが、
すでに弊社代表をVTuberとしてデビューさせていた私にとって、
この構成は「個人で」「簡単に」配信できるものだと
容易に想像ができたものです。

ここから、個人レベルでのLive2Dの需要が非常に高くなってきました。
それを後押しするように、Live2D社もFaceRigとの連携、
言ってしまえばVTuber関係に本腰を入れていきます。

TwitterのタイムラインはVTuberとパパママであふれ、
個人Live2D制作者の技術公開と営業ツイートが連日のように流れてきました。
技術的な質問をするビギナーに対して、やさしく指導する先駆者たち。

まさに涅槃。いやはや桃源郷。

まだまだ成熟したとは言い切れないLive2Dの技術者の業界で
さっそく「先生」と呼ばれる人まで出てきました。

そんなビッグウェーブに見事に乗り遅れた僕は、
とても冷ややかな目線でこの流れを見ていたことを覚えています。

実は会社を介さず、VTuber制作の話をいただいたことがありました。
具体的な金額は避けますが、1体で今の僕の給料の2.5カ月分の金額で

「絶対コイツ俺のことだまそうとしている!!!
残念でしたー、そういうのには引っかからないんですよ~。ほら、僕ちゃんって、とってもお利口で、リテラシーも高いからさ!
だまそうとしたのに失敗して、ねぇ! 今どんな気持ち!? ねぇ! ねぇ!」

と断固拒否をさせていただいたのですが、
後になって全然怪しくなかったことが分かって一人で酒を浴びました。
ちなみにそのあと、Amazonのフィッシング詐欺にもひっかかりました。

それほどまでに、当時はLive2Dの技術が高騰していた時期で、
いまもゴールドラッシュに夢見る若者たちが、
我先にと、さらなる夢の舞台を求めている……
そういったように僕の目には映っています。

話を戻します。
そんなVTuber黎明期、会社からはVTuber関係の新事業の話など一切なく、
ポリゴンを削って描画負荷がどれだけ減るのかの負荷テストや
Unityテクスチャフォーマットの検証、
モーションブレンドによるゲーム内挙動の調整など
究極的に地味な仕事を淡々とこなし、
Live2DよりもスプレッドシートとUnityを扱う時間の方が長くなってきました。

まさに陰とYo!!くらいの違いがある、世間との温度感。
企業勤めのLive2D担当者には、共感いただける部分はあると思います。

おそらくですが、それまで「個人」と「企業人」という違いはあれど
同じ方向を向いて走っていたはずなのに、
2018年を境に、それぞれが向かっていく方向が変わっていきました。
また、Live2D社は僕たちとは逆方向へ進んでいったのだろうと思っています。

先日のalive2019の基調講演でのデータを見ても、その方向性は一目瞭然で、
2017年に過半数を誇っていたゲームアプリの使用率は
リアルタイムに限定すると21%まで下がっていて、
Live2Dの主戦場はゲームではない、そう実感しています。

2年の間に、本当に業界は様変わりしました。
これが、企業勤めをしている僕の一視点から見た、
業界のこれまでと現状です。

君たちは、そして僕はどう生きるか

ここまで、僕がLive2Dに出会った経緯と、
業界が僕の視点だとどう変わっていったのかを綴ってきました。
共感いただける部分はありましたか?
少しでも共感いただける部分があるのでしたら嬉しい限りです。

それでは、まとめとして、
結局僕はこの先どうしようとしているのか、
というのを綴って締めたいと思います。

まず、現在会社員である僕がVTuber業界に殴り込みにいくことがあるのか、
と聞かれれば、99%そちらに手を伸ばすつもりはありません。

理由はいくつかあるのですが、一番大きいのは
今後VTuberはYouTubeといった
PC/SPといった平面画面で見るものではなく、
VR空間上で楽しむものへシフトしていくからだと考えているからです。

もちろん、個人利用として2.5DのVTuberもいくつかは残ると思うのですが、
現状が最盛期くらいで予測していますし、アバターシステムのような形で、
簡単にオリジナルモデルを生成してくれるシステムが
ここ数年で必ず出てくると思いますので、
今から参入してももう遅いと考えているからです。

VR空間でLive2Dを使用しても悪いとは言いませんが
Live2Dに限らず2.5D表現はVRとの親和性が良いとはとても言えず、
逆に没入感を損なうコンテンツとなってしまう可能性もあります。
ビルボード…といえば分かりやすいでしょうか。
回り込みができないのは立体視を意識したコンテンツでは厳しいですよね。

では、ゲームでずっとLive2D「だけ」を使っていくのか?
それも僕としては「否」だと思います。

そもそも僕はすでにLive2DとSpineの両刀使いですし、
プロジェクトによって何に忖度することなく、
ユーザーにとって最適な方を選びます。
また、使用したことは無いですが、
Unityに内蔵されたanima2Dを使用することもあるでしょう。
Mohoはさすがに畑違いですが、Dragon Bonesは可能性がありますね。

アニメーションツールは、時代時代によって流行り廃りがあり
1つのツールのみ、1つの技術のみで、これからもずっと仕事をし続けるのは難しいです。
これは会社員でも難しいし、会社員だからこそ難しい部分もあります。

新しいツールが生まれればそれについて勉強を行い、最適解を見つけ、
必要であれば採用するかどうかの判断を行わなければいけません。

僕が軽い気持ちで足を踏み入れてしまったクリエイティブ業界は
楽しいのと同じくらい、本当に本当に大変です。

僕たちは日常的にやっていることかもしれませんが、
24時間365日、薄くでもクリエイティブのことを考えていられないと
長く続けていくことは難しい業界です。
職業病と言っていいでしょう。
そして、先の見通しがとてもつきにくいことも特徴的です。

よく、この業界でも、先を見通した雰囲気を醸し出して
「君のキャリアプランは~」
と、偉そうに言ってくる人がいますが、皆さんお願いですから
そういう言葉には耳を傾けないでください。

ファミリーコンピュータが発売してから35年位になります。
当時新卒で任天堂に入社した人が、そろそろ60歳の定年を迎えます。
つまり、はじめから終わりまで、ビデオゲーム業界で生き続けた人は、
世界にまだ一人もいないんです。

偉そうにキャリアプランを説いてくる人は、
聞きかじった他人のエピソードを持ち込んで、
自分の原体験のように語る詐欺師です。

そもそもこれだけ異常な速度感の業界で、
10年前の理論ですら通用しないことが多いので、
経験を盾に諭そうとしてくること自体がナンセンスなのです。

自分で切り開くしかないんです。
自分で決めるしかないんです。

ただ、一つだけ確実に言えることは、武器は多い方が良い。
僕に搭載された武器は、Live2DとSpineのオペレーションと、
アニメーションそのものの専門的な知識、
あとは少しのマネジメント理論だけです。

これまで革新的なソフトウェアが開発され、
追いつくようにハードウェアが生産され、
その連続の末に、十数年前には想像もできなかったテクノロジーが
片手サイズに収まる時代です。

そして、その技術革新は今後も止まることなく続いていくでしょう。

僕はその流れを見るたびに、
自分自身のアップデートをし続けないといけない、
そう思わずにはいられません。(出来ているかどうかは別として)

いまこの記事を執筆しているPCの上には、
エフェクト関係の書籍が7冊詰まれています。
武器は増やしていかないと、
若い才能にあっという間に押しつぶされてしまいます。

この業界の一次定年は35歳と言われています。
普段は自分のことを「永遠の未熟児」言っていますが、
僕もその年齢に差し掛かってきました。

残念ながら、家庭もローンもあるので、
おいそれと他の業界に行くことはできません。
両手両足を使っても数えきれないほどの部下もいます。
軽い気持ちで彼らを路頭に迷わすわけにもいきません。

僕にはもう選択肢が無いんです。

そしてきっと、この記事を最後まで読んでくださった方の中には
選択肢が無く、この業界に骨を埋めるしかない人も、少なからずいるでしょう。

僕は基本的にはコミュ障で、フォロワーも23人しかいません。
きっとこの記事を読んでくださった方はフォローしてくれるはずなので、
明日には25人くらいにはなっていると思います。

そのわずかでもいい、自分だけじゃない誰かと
今後も切磋琢磨して、わざわざ厳しい業界に踏み入れた自分を呪いながら、
いつか、「昔はこうだったんだ」って
若い世代に説教でもできたらなって思います。

おわり。

明日は僕話ヒノトリ@作家Vtuberさんによる
「バトルアニメっぽいエフェクト作りたい!の巻」です。
お楽しみに。

最後になりますが、今はフリーだけど企業勤めに興味がある……
という方がいれば、ぜひお声がけください(ガチ宣伝)

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