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戦争は女の顔をしていないとローラの牛の話

先日「戦争は女の顔をしていない」の漫画版1,2巻を読みました。独ソ戦に志願したソ連側の女性たちに当時のことをインタビューしたノンフィクションが原作で、そちらを狼と香辛料漫画版も描いた小梅けいと先生が漫画として書き起こしてくれています。狼~は未読だったのですが、小梅先生過去にげんしけんの作中アニメ「くじびきアンバランス」の漫画も書かれていたらしく、当時連載していたアフタヌーンを購読していた僕としては懐かしい気持ちになりました。通りでなんか覚えのあるタッチでしたね。でもあの頃よりも、すごくうまくなっていて人物たちの心情もよく伝わってきました。

内容よくわからない…って方も、公式アカウントから各話本編がアップされているのでこちらを先に読んでから、漫画や原作を買ってみるのもいいかなと思います。自分も原作は読んでないので、またタイミングみて読んでみたいなって思います。(Kindleで買ってから本編あげられてるの知ったけど買って後悔はしてないぜ)
読んでみてもらうとわかりますが、男ですら嫌なのに若い女性達が志願して戦場へ赴き、血塗られた青春を怒りや涙しながら語っているのは辛いものがありますね。原作者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんはベラルーシ人の父とウクライナ人の母の元に生まれた女性ジャーナリストです。今のロシアとウクライナの情勢をどう見ているのでしょうか…。

本書のコミック版が出版されたときの帯コメントが、ガンダムで有名な富野由悠季監督だったらしく、小梅けいと氏と監修の速水螺旋人氏との対談が残っており、こちらも興味深い内容でした。

小梅さん達にこの作品を通してSNSでただブーブー言ってる連中を説得できるだけの力を持てとか、いつもの富野節が炸裂しているインタビューですが、一方でガンダムという作品を作っても今日の世界情勢しか作れなかったからガンダムは捨てたという監督、(これは監督度々いうけどGレコ最近したじゃんとかいう話じゃなくて、戦記物としてのガンダムは捨てた…みたいな話だったと思う。違ったらごめんなさい)
そして最後こんな言葉で締めくくられています。

富野 最後の小梅さんの発言で、世代のもっている目線の違いをあらためて感じました。難航しているという言い方をしていましたが、当然のことでしょう。右翼でも左翼でもない、資本主義でもなければ共産主義でもない、思想に左右されない、原作者のニュートラルな感じを出すのは難しいのです。でも、だからこそ戦場の体感を正確に伝えられることができるんじゃないかと思います。思想をもってしまうと、どうしても思想にとらわれてしまって、体感にならないんです。軍国主義が良い悪い、政治が良い悪いという言葉遣いで戦争を語るから、間違うんです。ますます期待をしています。

思想を持ってしまうと、思想にとらわれてしまって、体感にならない。軍国主義が悪い、政治が良い悪いという言葉遣いで戦争を語るから間違うんです。
思想(この場合教育や宗教でも良いかもしれない)は指針にもなり、自分が目指すべき道の手助けにもなるかもしれませんが、一方で視界が狭くなり、本当にそれは自分が目指しているものなのか、心から思っていることなのか、その判断を鈍らせるものになるかもしれません。

そういう思想の話がわかりやすく出てるのがターンエーガンダム第8話「ローラの牛」だと思います。あらすじがターンエーガンダム公式HPにあるので引用させていただきます。

ソシエは久しぶりにキエルと会った。彼女はまだ父親の仇をとりたいと考えており、ムーンレィスを地球から追い出したいことを姉に話すのだった。
 ロランのホワイトドール(∀ガンダム)に治安出動が命じられた。ムーンレィスの帰還地周辺で地球の地元農民とディアナ・カウンターが小競り合いを起こしているのだ。
 機械人形の操縦をマスターしたいソシエはロランに強引についていく。
 やがて現場に到着したロランは事態を仲裁するが、その時、帰還民の男が地球の農民達に対する月側の兵達の仕打ちを止めてくれたのを目撃した。
 ディアナ・カウンターの兵舎でパンの行商をしていたキースも、同じ男が帰還政策の不備を指摘して、兵達に殴られているのを目撃する。男はクーエンと名乗り、妻子を抱えて帰還地での今後の生活に不安を抱き、ミルクや家畜を手に入れられないかとキースに助けを求める。話を聞きロランとフランは手だてを考えた。帰還地近くの森で家畜を飼ったりすれば、冬の食料の糧になるかもしれないからだ。
 クーエンとソシエを加えたロラン達は、月の船が来てもぬけの空になった村で家畜や食料を探す。ソシエは幼なじみだというロランたち3人組を怪しいと睨んで、月側のスパイかと疑惑を持ったりするが、フランとキースにうまくごまかされ、作業に協力。
 そのロラン達の動きが月側には極秘作戦の訓練と映った。フィルはポゥを出撃させる。
 出撃したポゥのウァッド小隊は、ロランのホワイトドールに仕掛け、ソシエ達の乗るトラックを押さえて投降を呼びかける。困るロランだが、イングレッサ側との交渉に影響が出るのを懸念したハリー中尉が、ポゥの小隊に撤退を命じてくれた。安心したロラン達は無事帰還地へ牛や豚を届けることが出来た。
 しかし地球の農民達はその有様を目撃して、ミリシャの機械人形が月の味方か? とロラン達を罵り始めた。困ったロランはついに自分がムーンレィスだと素性を明かてしまう。
 裏切られたと感じたソシエはロランの頬に平手を打つ。が、フランはロランの行為をローラの行ったこととして、月と地球を結ぶ架け橋なのだと新聞記事にする。

http://www.turn-a-gundam.net/story/08.html

主人公のロランは月から来たムーンレイスであり、本来は仕えるキエルの父を殺した仲間の一人であります。然しながら、力で制圧するムーンレイスのやり方に賛同できず、素性を隠して地球側として戦っています。このローラの牛はそんなロランが、地球と月側の争いに耐えられなくなり自分はムーンレイスなんですよと多くの人々の前で告白する重要な回ですね。
ロランは明かす際こう言っています。

僕は二年前に月から来ました。
けど、月の人と戦います。
だけども、地球の人とも戦います。
人の命を大事にしない人とは、僕は誰とでも戦います。
僕は、僕はもう・・・我慢していられないんだ。
皆さん、僕はね、僕はムーンレィスなんです。ムーンレィスなんですよー!!

∀ガンダム第8話「ローラの牛」ロラン・セアック

この回、でてくる人たち、立場は違えどみんな生きていく為に必死なんです。ロランも、ソシエも、キース達も、家族のために牛を持ち帰りたいクーエンも、村の資産である雌牛をムーンレイスに盗られてたまるかと怒る村人たちも、軍の命令で作戦を遂行するDCも、みんな、みんな自分の考えの信じるもののために戦っているんです。けれどそれは、結局の所は人間同士で戦うという事で、地球と月、両方の立場で板挟みになっているロランが我慢できなくなって自分の意志を告白するシーンなんですよね。中性的な顔つきで、性格も優しいロランなのですが、人の命を大事にしない人とは誰とでも戦いますと宣言できる、実は歴代ガンダム主人公の中でも芯が通ってる人物なんですよね。友人のキースがロランの告白後、ポツリと「良いやつなんですよ」とつぶやくシーンがどこか心に来るものがあります。

この地球と月で板挟みになるロランの姿が、今のロシアとウクライナの状況にもダブって見えます。地つなぎの国同士でありますし、一度はソ連として同じ国として生きた同士。実際国をまたいでの親戚も多いらしく、東日本と西日本で別れて戦っているようなものでしょうか。個人的には今ある情報を見る限り、また核をちらつかせながら侵攻してくるロシア側(というかプーチン大統領)に大義はないと思っていますが、会社の会話で上司がエリツィンの頃はロシア側だったのに、今更反旗を翻してきたウクライナが攻められるのはそれはそうなんだよみたいな話をされました。そういう部分もあるのかもしれませんがだからといってこの戦争が正当化されるものではないと僕は思いました。
戦地で戦う人々、経済制裁を与えられ紙幣が紙くずになっていく国民、この戦争がどうなるかまだまだわかりませんが、行われている間も、終わったあとも大きな傷跡が互いに残る事でしょう。またその様子をうかがう他国が、新しい火種を落とさないとも限りません。流行り病も落ち着いてない状況で人類はまた大きな局面を迎えているのかもしれません。一方で、今なお進行形で紛争・戦争が続いている中東・アフリカ等の地域からはやっと目が覚めたのか、俺達のことは蚊帳の外にしていた癖に、なんて思われているかもしれません。
人という生き物の歴史は、争いの元にできているのかもしれません。性悪説ではないですが、そういう怒りや憎しみの感情が人間にはあるのは自分を含め間違い無いと思います。でも、だからこそ歴史から学んで、創作物から感じて自分の身に起きたらどうなるかと想像して、少なくとも今は平和を維持できるように有りたいですし、まずは少しでも早くロシアウクライナ情勢が落ち着いてほしいと願います。

なんでローラの牛の話をし始めたかというと、富野監督の帯の件もありますが、なんの因果かタイミングいいのか悪いのか「ローラの牛」本編がYou Tubeのガンダムチャンネルで配信されているからです。ターンエーガンダムを知らない人でも、一つの話として成立している回なので楽しめるかと思います。お時間あればぜひご視聴ください。(多分3月10日まで見れるかと思います)


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