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【読書備忘録】「新制度まるわかり!家族法改正ガイドブック」日本加除出版株式会社

「新制度まるわかり!家族法改正ガイドブック」日本加除出版株式会社
安達敏男(著) 吉川樹土(著)

◯「子の意見等」の考慮(尊重)に関して

「以上のような議論を踏まえ、改正民法817条の12第1項では、子の意見等を考慮(尊重)することを明文化していませんが、これは、父母が子の意見等を考慮する必要がないことを意味するもんではなく、むしろ「人格の尊重」には子の意見・意思等が適切な形で尊重されるべきとの考え方を含むものと解釈されています」23頁

補足:上記に関する国会審議↓


◯「人格尊重・協力義務」違反が親権喪失・停止審判に関係することに関して

「イ 父母の一方が相互の人格尊重義務や協力義務に違反した場合の不利益
 父母の一方が同項(注釈:改正民法817条の12第2項)に規定する人格尊重義務や協力義務に違反した場合には、親権者の指定・変更の審判や、親権喪失・親権停止の審判等において、その違反の内容が当該父母の一方にとって不利益に考慮されることになるとの解釈があり得ます(部会資料34-2・7頁)」25頁

補足:国会審議で出た「人格尊重・協力義務」違反の具体例等↓

◯「親権」の用語の見直しの検討で見直しをしなかった理由に関して

「中間試案の前注1(中間試案1頁)では、「親権」という用語の見直しも含めて検討すべきであるとの考え方も提示されており、中間試案に対するパブリック・コメントの手続きにおいても、「親責任」や「親義務」のように、義務としての性質を前面に表現する用語を提案する意見も寄せられました。しかし、「責任」等の用語を用いることに対しては、それが帰属しない(又はその制限がされる)親が、子との関係で何らの責任をも負わないかのような誤解を与えかねず、そのような親による養育費の不払を助長しかねないのではないかとの懸念があります。また、例えば、単に「親権」という用語を機械的に「親責任」と置き換えるだけでは、親権喪失(民法834条)に相当する用語が「親責任喪失」と呼称されることとなりますが、この表現が不適切であれば、その概念や法的効果を改めて整理する必要があると考えられます。さらに、改正民法817条の12第1項は、父母(親権者に限らない)の子に対する養育・扶養責任を規定していますが、このような父母の責務こをが「親責任」や「親義務」に相当するものであるとの考え方もあります。(中略)以上のような検討を踏まえ、改正民法においては、「親権」という用語を維持することとしています」31頁


◯共同親権の場合に、単独親権行使可能である基準としての改正民法824条の2「日常の行為」、「急迫の事情」等の具体例

(令和6年4月13日付け朝日新聞朝刊参照)

改正民法824条の2 
1,監護・教育に関する日常行為(2項)→単独親権行使可
 ①食事・衣服等の身の回りの世話
 ②子の習い事の選択
 ③重大な影響のない治療や薬(風邪薬等)の服用、ワクチンの接種
 ④高校生の放課後のアルバイト
2,子の利益のための急迫の事情があるとき(1項3号)→単独親権行使可
 ①入学試験の結果発表後の入試手続のように一定の期限までに親権を行うことが必須であるような場合
 ②DVや虐待からの避難が必要である場合
 ③緊急に医療行為を受けるため医療機関との間で診療契約を締結する必要がある場合
3,特定の事項(3項 上記1及び2の行為を除く)→父母の協議で決定。協議が不調のときは裁判所が判断
 ①進学先の選択や、特別支援学校・学級への選択
 ②子が相続した不動産の処分
 ③住居の移転(引っ越し=居所の指定又は変更)
              -47頁-

◯共同親権が求められた経緯

「平成23年の民法改正の際の衆議院及び参議院の各法務委員会の附帯決議においても、「⋯⋯離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること」が求められているほか、国際的にも、例えば、児童の権利委員会による日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見(2019年)において、「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正し、また、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使できることを確保すること」が求められるに至っています。このような意見を踏まえ、本部会では、父母の離婚等の場面における親権に関する規律の見直しの要否や是非を検討してきたものです(中間試案の補足説明12頁参照)」60頁

◯過去の暴力等と親権者変更

「改正民法819条6項に基づく親権者変更の申立てがなされた場合において、過去に暴力等があった事案においては、暴力等を否定する具体的な事情がない限り、暴力等を受けるおそれがあるとして、他方親権者の合意がない場合には、親権者変更は認められないものと解されます(衆議院法務委員会における法務省担当者の答弁)」67頁

◯父母双方の合意がある場合にのみ共同親権とすべきだという意見に対しての部会議論(結果的に「父母双方の合意があること」は必須ではなくなった)

「(前略)この意見によると、父母の一方が①(注釈:自己のみを単独の親権者とすることを求める主張)の主張をした際には家庭裁判所が父母双方を親権者と定めることが禁止されることとなり、結果的に一種の「拒否権」を父母の一方に付与する結果となります。しかし、このような意見に対しては、父母の一方が①の主張をする理由には様々なものが考えられ、その主張を採用することが子の利益との関係で必ずしも適切であるとは限らないとの反論があります。
(中略)本部会における議論においては、家庭裁判所は、一方当事者が①の主張をしていることのみをもって特定の判断をするのではなく、その主張の理由や背景事情を含めた様々な事情を総合的に考慮して、「子の利益」の観点からの判断をすべきであるとの指摘がされました。
(中略)以上のような観点から、裁判所が父母双方を親権者と定めるための要件として「父母双方の合意があること」を必要とする意見は採用していません(部会資料34-1・11頁以下参照)」71-72頁

◯父母双方を親権者と定めるために「父母が平穏にコミュニケーションをとれること」を要求すべきとの意見に対しての部会議論(不採用となった)

「上記第32回会議では(中略)父母双方を親権者と定めるためには「子の養育に関して父母が平穏にコミュニケーションをとれること」を要求すべきであるとの意見も示されました。しかし、改正民法819条7項2号は、上記のとおり、「親権者の定めについて父母の協議が調わない理由その他の事情」を考慮要素として定めており、裁判所が「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる」かを判断する際には、子の養育に関して父母が平穏にコミュニケーションをとることができない事情の有無及び程度や、その事情に合理性が認められ得るかどうか等についても、当該考慮要素として考慮されると考えられます。以上の観点から、上記意見についても採用していません(部会資料34-1・12頁参照)」72頁


◯共同親権制度の導入等に伴う家裁業務負担への対処(家事調停官の増加等)

「最高裁判所の担当者は、衆議院及び参議院の各法務委員会において、従前から家事事件を担当する裁判官等を増員するなど、事件数増も見据えて、家事事件処理のために着実に家庭裁判所の体制を充実させてきているが、裁判官や調停委員、家庭裁判所調査官に対する本件改正法の各規定の趣旨、内容の的確な周知や研究の実施のほか、必要な人的、物的体制の整備及び予算の確保に努める民事訴訟事件の審理充実を図るほか、家事調停において、家事審判官(裁判官)と同等の権限を一部の弁護士に付与する「家事調停官」を増やす考えを示しています(令和6年4月17日付け朝日新聞朝刊参照)。なお、ここで「家事調停官」とは、5年以上の経験を持つ弁護士の中から任命され、家庭裁判所で担当する家事調停事件(離婚調停、親権者の指定・変更の調停、養育費調停、面会交流調停、婚姻費用分担調停等)において、家事審判官(裁判官)と同等な権限で家事調停手続を取り扱う非常勤職員のことをいいます。その任期は2年で、1回限り再任されることができる(合計4年)とされています」77頁

◯本件改正前離婚の共同親権への親権者変更に関して

「本件改正法施行日前に成立した離婚については、家庭裁判所への親権者変更の申立てにより共同親権を選択できることになります」77頁

◯離婚後の共同親権制度の導入に関する賛否の紹介(コラム2に記載)78~80頁より抜粋

【離婚後の共同親権制度導入の賛成意見(民間法制審案)】
 民間法制審案の骨子:
 子どもは父母や祖父母等に囲まれ、愛情を注がれて成長することが重要であり、この関係は父母の離婚後でも変わりがないという観点から、離婚後も「原則共同親権」であるべきと主張(G20参加国では日本、トルコ、インド以外の国は原則共同親権に意向している)

 民間法制審案の具体的内容:
 ①離婚後においても、親権(監護権を含む)は、父母が共同して行使すべきである
 ②父母は、離婚時にADR(裁判外紛争解決手続)を利用して「共同監護計画」書を作成し、その中で(a)監護(親子交流)の分担、(b)監護費用(養育費)の分担、(c)父母の意見不一致で親権行使できない場合の解決手続などを記載する
 ③法務省令で「共同監護計画」のガイドラインを作成する
 ④父母は「離婚後監護講座」を受講する
 ⑤児童虐待事案など、父母と子との交流により子の生命・身体に重大な危害が発生するおそれがある場合は、その父母の親権を剥奪・停止した上で、児童相談所が「監視付き面会交流」を実施する
 ⑥DV(配偶者暴力)を父母の一方が主張している場合は、婦人相談所等が子の監護に関する父母間の連絡調整・子の受け渡しを実施する 等

  【離婚後の共同親権制度導入の反対意見】
札幌弁護士会、NPO法人女のスペース・おん、しんぐるまざあず・ふぉーらむ北海道の反対共同声明
 反対共同声明の骨子:
 離婚後共同親権には、以下のような重大な問題があるため、たとえ選択的なものであってもこれを認めるべきではない。また、仮に認めるとしても、離婚後共同親権について父母双方の真摯な同意がある場合に限るべきである

 反対共同声明の具体的内容:
 上記重大な問題の要旨は以下のとおり
 ①夫婦間の信頼関係が損なわれたために離婚に至る場合が大多数であることからすると、離婚後に父母間で親権の行使について円滑な協議を行うことは、一般に困難である。
 ②単独思念行使を可能とする「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が不明確であるため、現実に子を監護している親が、事後的に他方の親から裁判を起こされ、応訴負担を強いられるなどの危険にさらされるこtになる(このような萎縮効果からDV・虐待事案の保護が後退しかねない)
 ③要綱案は、離婚後の父母の双方を親権者と定めるに当たって、父母の一方を子の監護者に指定することを必須とはしないが、それでは、養育費の請求権者や児童手当等の受給者が不明確になり、現実に子を監護している親が経済的に困窮し、子の生活基盤が脅かされることが懸念される。また、離婚後の関係が良好でない多くの父母は、子の利益にかなう形で共同監護の実施が不可能であり、その解消のための家庭裁判所の判断にも時間を要することが予想され、子の利益の観点から有害である
 ④なお、仮に離婚後共同親権が導入されるとしても、DV・虐待事案の保護が後退することのないよう、主に子の世話をしていた一方の親が単独で親権を行使できる例外事由を拡張すべきである

全国青年司法書士協議会の反対の会長声明
 反対の要旨:
 ①子どもの利益や権利保護の視点の欠落
 ②DV被害者等の保護の観点の欠落
 ③単独親権行使の要件である「急迫の事情」の不明確さ
 ④事実上、対等な立場による協議が不可能である

◯子の手続代理人に関して

「家事事件手続法(平成25年(2013年)1月1日施行)は、子の手続代理人制度を設けています(家事事件手続法23条)。子が調停・審判手続に参加する場合としては、①子が当事者となって事件を申し立てるか、継続中の事件に当事者として参加する場合(家事事件手続法41条。例えば、親権喪失申立事件(民法834条, 家事事件手続法168条))、又は②利害関係参加(家事事件手続法42条)をする場合があります。上記②の利害関係参加においては、「審判を受ける者となるべき者」は、当然手続に参加することができます(同法42条1項)が、「審判を受ける者となるべき者以外の者であって、審判の結果により直接の影響を受けるもの」(例えば、親子交流の調停・審判、親権者の指定・変更の調停・審判、監護者の指定・変更の調停・審判等の手続における子)においても、家庭裁判所の許可を得て、家事審判の手続に参加することができます(同条2項。なお、同条は、家事調停の手続においても準用されている(同法258条1項))」85頁

「子の手続代理人は、弁護士がなります(同法23条1項)が、その選任方法には、①家庭裁判所が選任する方法(国選)と、②子自らが専任する方法(私選)があります。子が自ら手続代理人を専任するには、意思能力(一般に10歳程度であれば同能力があると解されている)を要するとされています」85頁

「改正民法では、離婚後共同親権制度が導入され、家裁実務において、単独親権か共同親権かの選択や、監護者の指定、監護の分掌等に当たり、子の意思(意見・意向)を聴く必要があるケースが増加することは確実であると思われることから、子の手続代理人制度の積極的な活用が期待されるものと思われます」86頁

「この制度の実効性を確保するには(中略)弁護士報酬を国費で助成する制度等を検討すべきものと思われます。なお、衆議院法務委員会の附帯決議3項及び参議院法務委員会の附帯決議5項においても「子の利益の確保の観点から、本法による改正後の家族法制による子の養育に関する事項の決定の場面において子自身の意見が適切に反映されるよう、専門家による聞き取り等の必要な体制の整備、弁護士による子の手続代理人を積極的に活用するための環境整備のほか、子が自ら相談したサポートが受けられる相談支援の在り方について、関係府省庁を構成員とする検討会において検討を行うこと」を指摘し、子の手続代理人の積極的な活用をするための環境整備等の検討を行うべきであるとしています」86頁

◯監護の分掌の給付命令に関して

「改正民法766条1項は、離婚後の子の監護に関する事項に「子の監護の分掌」を付加してことから、改正家事事件手続法154条3項は、給付命令等に関し、「家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判において、子の監護をすべき者の指定又は変更、子の監護の分掌(中略)当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる」と規定し、子の監護の分掌の場合にも、家庭裁判所が子の引渡命令や給付命令を出すことができることを定めました」99頁

◯子の監護事件の平均審理期間の長期化に関して

「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第9回)(令和3年7月)によれば、子の監護事件(養育費請求事件等、子の監護者の指定事件、子の引渡し事件、面会交流事件が含まれる)の平均審理期間は、平成23年が5.2月でしたが、その後一貫して長期化傾向が続いており、令和元年は7.1月、令和2年は7.9月でした」210頁
「このような長期化傾向の要因については、「養育費請求事件等よりも相対的に審理が長期化する傾向がある面会交流、子の監護者の指定及び子の引渡しの各事件を合わせたその他の子の監護事件の新受件数が大幅な増加傾向にあることが挙げられています。なお、「その他の子の監護事件」の平均審理期間は、令和元年が8.8月、令和2年が9.5月でした(部会資料29・35頁)」210頁

(※共同親権や監護に関わる重要と思われる部分を抜粋)

◯雑感

 当書籍を読んで感じたことは、両親の片方が否定しているケースで離婚後の「共同親権」や「監護の分掌」を求めるにあたりカギになるのは「子の意見」であり、それを正しく聴取するには「子の手続代理人」の存在が重要になること。また、「両親の尊重・協力義務」に違反しないことも共同監護が認められやすいカギとなる(そもそも、「両親がお互いを尊重し、協力する」ことは共同養育において必須の考え方である)。
 片方の親の拒否がある場合に、仲良し親子が別居離婚後も「親子の日常」を過ごすための戦略としてはスモールステップではあるが、親子交流を重ねていき親子の信頼関係を強固のものとし、法施行後に「監護の分掌」調停等の中で「子の意見」を訴えかけていくことが王道となるのではないか(親子交流がないケースでは、試行的親子交流から始めざるを得ないかもしれない)。
 親の主張や提示した証拠のみで「子の意見」が適切に聴取されなかった場合は、「子の手続代理人」を依頼するという形になると思われる。本書籍には、「子の手続代理人」の依頼方法も記載されているので参考にされたい。

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