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【藤房農園日記】姿なき侵入者


丑年生まれの私は、
このところ、ある事件に悩まされていた。


事件の内容はこうだ。
「ある現場において、特に何かを取られたわけでは無さそうだし、荒らされている感じもない。ただ何となく違和感というか嫌な感じがする。」


今回も朝起きて、デッキから見た現場の様子に、すぐに違和感を持った。荒らされている形跡もなく、そこにあったものが無くなっているわけではない。でも、物が少しだけ動いているような気がする。本当に小さな違和感だが、昨日とは何かが違う。


私は前日に、この現場を訪れていた。
この現場は、秋冬の準備をするために、
綺麗に整えておく必要があり、
私は数時間かけて現場を整えたのだ。




胸がざわざわした。
まさか、またあの事件が発生したのか。


この事件は以前にも何度かあった。
その時も、今回と全く同じシチュエーションで、前日に現場は綺麗に整えられていた。
季節は春だったり、夏だったり、秋だったりと、特に決まった時期があるわけではないが、
どの時期も、決まって前日に現場は綺麗に整えられていた。



この綺麗に整えられた現場が、ごちゃごちゃに荒らされているわけではないのだが、一瞬で感じるこの違和感は、何度も経験している私の勘によるものだと思う。


早速、現場に急行した。
現場や現場周辺の様子で、変わったところは無いか、入念に現場検証を行う。

いつもなら、入念にチェックするも証拠はなかなか出てこないが、今回はあった!


前日には綺麗に並べてあった、らっきょうの一部が散乱している。
そのそばに、私の拳ぐらいの大きな足跡。


間違いない犯人はアイツだ。


とりあえず、らっきょうは1つも取られていなかった。
やはりアイツが狙っているのは、ただ1つ。
ジャガイモか。



私は前日、ジャガイモを植えるか最後まで悩んだ。
植えなくて大正解だった事は、自分を褒めたい。段々とアイツとの付き合い方が分かってきたのかもしれない。
しかし、ここは周囲をぐるりと鉄の柵が包囲しているし、そう簡単に入れる場所ではない。
だが、アイツはいつも突然やってくるのだ。
一体どこから!?



アイツとは十二支の順番を決める時に、
1番、2番を争った仲である。
結局アイツは本当は1番に神様の所に着いていたのだが、まっすぐに突進するしか出来ず、神様の前を通り過ぎてしまい、最後になってしまう。


私はというと、マイペースに1番先頭を歩いていたが、ネズミにまんまとしてやられて、2番になってしまう。

私は自分が牛だと、つくづく痛感する。
いつも、物事が順調に進んでいる最中に、何かにしてやられて、結局、成果を出すのに、かなり時間がかかるのだ。


アイツが、らっきょうを食べない事は分かっていた。
だからあえて、らっきょうを先に植えたのだ。
まさか、植えてあるものが何か確認する前に、突進してきて掘り起こすとは。
猪突猛進とは、まさにこの事だ。


結局、植えた次の日という、猛スピードでやってきて、掘り起こすだけ掘り起こし、食べないで帰る。
十二支争いで、自分の愚かさを学んだのではなかったのか。


やれやれ。
すべてを放棄したいぐらい力が抜けてしまったが、種まきや植え付けは、待った無しだ。
遅れるわけにはいかない。


してやられても、牛歩で黙々と進むのが、我々牛の強みだ。
アイツが何も考えずに、猪突猛進してこようとも負けるわけにはいかない。
牛をなめてもらっては困る。


鉄の柵を強化して、今度こそ、
安心してジャガイモを植える準備をして、
迎え打つぞ。


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