対話 2
「記憶力いいほーの人?」
あーまぁ、割といい方なんじゃないかなぁ。好きになった人達の誕生日は絶対忘れないし、友達も月単位でなら大体わかる。楽しいことも楽しくなかったことも割と覚えてる気がする。前の恋人さんがとってもその辺りが得意ではなくて、毎回「なんで覚えてんのー?」って笑われてたわ。誕生日の日にしこたま詰められたのとか…ね。まぁそれはまた別の話。
記憶力がいいってよりは、忘れるのが苦手なんだと思う。単に記憶力にポイント振っちゃっただけ、っていう。頭の中にある記憶って、波にさらわれ損ねた貝殻みたいにきらきらしたものが残ってることもあれば、洗い忘れた鍋にこびり付いたカレーみたいなのが残ってることもあるから、良いのか悪いのか。洗い忘れたカレーの存在なんて知りたくもないじゃん?それを落とすのにどんだけ洗剤と水使うのよって話。
思い出すのは大抵1人の夜。過去の自分の無能さとか無知さに、息が詰まってしまう。後悔に首を絞められる。きらきらしたものは暗闇に消えてしまって、何かの腐った匂いだけがそこにある。忘れて仕舞えば楽なのになぁって、思うよ。過去は、なかったことにならないから。
「とか言って、過去をなかったことにしたくないんじゃないの?」
……。
そうねぇ。過去をどうにかこうにかくっつけて歩いてるのが、いまの私の肉体と精神だから。剥がれかけてしまっているのを何とかくっつけているのもきっと、わたしだね。何なら剥がれても3秒ルールとか何とか言ってくっつけちゃう。その辺にうまい接着剤が無ければ食べてしまう。一生外に出て行かないように。わたしの大切な欠片は、カレーだろうが貝殻だろうが等しく大切にしてあげたい、と思う。腐ったもの食べたら、お腹壊しちゃうのにね。お腹壊した過去さえも全部、後悔も痛みも知ってるけど、結局のところ許すしか赦される方法を知らないんだなぁって。感傷的な時は思ったりもする。
「ふーん。難儀なことだね」
難儀だよ〜。諸刃の鎧だし剣だから。攻撃力も防御力も普通より高いけど、絶対に自分もダメージくらうやつ。ドラクエ知ってる?それに出てくる武器防具なんだけど、強いんだアレ。
「ドラクエはわかんないけど言ってる意味はなんとなくわかる。でもまぁ生きる上での武器にはなりそうじゃん?要はくらうダメージよりも早く回復して敵殺せばいいんだから」
そそ。回復がおっつかない時と敵が思ったより強い時以外はなんとかなるしね。あ、でもドラクエと違うのがね、ゲームの中の諸刃の云々は取り外せるのに、現実世界だとなかなか脱げないところかな。呪われた武器ってのがあるのよ、教会で同じことしか言わない神父さん(たまにシスター)から解いてもらわないといけないやつ。だからね、諸刃の云々(呪)って感じはする。
「ほえー、聞けば聞くほどめんどくさそ。んじゃさ、記憶力良くて良かったことは?」
ある気がするけどいまはぱっと出てこないから、また後で続きでもいいー?流石に少し眠いし。夜を越えてしまったし。
「はぁい。そんじゃ、おやすみ」