思い出になる前の話
初めてかもしれない。人のおうちでこうして文章を書くのは。
片恋中のあの子の家で、ぼんやりとiQOSを蒸しながら本を読んだりスマホをぺよぺよしたりしている。平和な日曜日だな、と思う。平和は大変尊い。
昨晩の待ち合わせは普段は降りない駅で。改札の中のベンチに座るあの子を見つけた。すでに2軒終えていた私はなんやかんやで酔っ払い。合流して近所のミニスーパーでおつまみとかチェイサーを買う。3度目のお邪魔しますは、感動も何もない。嘘、何度目でも緊張する。いつもより丹念に掃除したらしいので、確かに綺麗だなと言う感想を抱いた気も、する。
このあたりから、思い出の途中では無くなっていることを許してほしい。
次の日の予定を決めながら(最終地点はどこまで行ってもカラオケと飲酒なのだが)お酒を飲み、おしゃべりをした。映画を観ていたのだが、ミッドサマーはちゃんと観られなかった。私が寝たせいだと思っていたし実際その要素はあるんだろうが、彼女曰く「起承転結の起承が長過ぎて観ていられなかった」らしい。まぁカルト的なお話ではあるし、刺さる作品かと言われたらそんなことはないと思う。考察は楽しい。結局宝塚とか沖縄の舞踊を観て、朝も朝な時間になったので寝る。アラームは一応セットして。
次の日。私はなんだかんだ起きてしまうし、人の家だから気を遣ってしまうのかもしれない。そんなこんなで5時間くらいの睡眠ののち、スッキリと目が覚めた。あー、煙草吸いたい。セブンに行こう、そう思ったので隣で寝ている子にその旨を伝えると、ポカリと炒飯のおにぎりが欲しいらしかったので喫煙のついでにおつかいへ。帰ってきておにぎりを食べたその子はちゃーんと二度寝していて、その間暇を持て余す。
「たばこすってくるわ」
「帰んないでよ」
覚えてるか知らないワンカット。ほんの少しだけ、クソが、と思った。もちろんいい意味で。親が死んじゃったとかじゃないと帰んないんじゃね、馬鹿だから仕方ない。寒いしベッド入りたいんだけどなぁとか思いながら眠りを邪魔するのは悪いなぁの気持ちが勝ってしまったので、座椅子でぼんやりとする。携帯の充電を借りてもいいのかわからないし、物音を立てることも憚られた。何度も漫画を往復したり、イヤホンを使って映画を観た。1人で時間を潰すことに辟易することはない。
何やかんやで15時くらいに起きてきた彼女は準備を始める。私は化粧品だのの類を持っていなかったので、借りることに。久しぶりに使う赤みの強いシャドウは目尻に少し、いつもより濃い色のアイラインは二重の真ん中に落とす。薄いラメはアイホール全体に。いつものリップをつけてティッシュオフすれば、まぁ化粧した顔になる。次いであの子も顔を整えて、洗面所出てくるや否やこちらを見つめてこう言った。
「どうー?」
「あー、うん。いいと、おもう。」
いや、人の目を見るのが苦手な私にとって眼前に整った顔が居るのは非常に困るシチュエーション。可愛いに決まってるのにそんなこと聞かないで欲しい。どんな貴女も好きなのに、そんな、今更なこと聞かれても、困る。……とかいう童貞みたいな私の感想はちゃんと後で伝えたんだけど。
「貴女がコミュ障って言ってたの、ようやくわかったかも」
ようやく気づいたんかい、のおきもち。私はコミュ強なわけではない、基本的に喋らなくても生きていけるし、1人も好き。そして単に他人が好き。まぁなんやかんやでお話をしながらお酒を飲んでいたら私が先に出来上がった。あっちは素面らしい。ふむぅ。
まぁその日の目的はカラオケだった。カラオケに行ってお酒を飲む、歌う、食べる。楽しいね。3時間制だったのでサクッと出ると、今度はあの子が酔っ払ったらしい。私はもうほろ酔いとのお付き合いがちゃんとできていたのでほぼ素面。眠気も怠さもない。
「うちくる?」
「あー、明日仕事だけど7時くらいに起きればまにあうからいーよ」
「本気で言ってる?」
「え?うん…?そっちこそなんか無理してる?」
よくわからない押し問答をした。家に行った。お酒を飲み直して、赤いきつねを食べた。お湯を沸かしてお味噌汁飲んだのが先かな。身体を触られ、キスを強請った。
でも何もない。残念とかそういうアレではなく、健全なお友達だと思う。お互いにお互いがしたいことを満たす。その均衡はいつか崩れるのかもしれなくて、でもそんなこと。
今更。
楽しい2泊でしたとさ。おしまい。