大阪のシンボル、通天閣の下には新世界という街が広がっている。 お好み焼きやタコが飛び出した大仰な看板の飲食店、射的にピンボール、パブといった店が街の中に立ち並ぶ。 今でこそ外国人観光客が笑って歩く街になったけど、ついこの前まで日雇い労働者や酔っ払いが昼間から転がっていて、トイレのようなにおいのする街だった。 平日の晩、仕事を終えた後に地下鉄御堂筋線に乗り込み、新世界の最寄駅で降りた。 スマホの地図を頼りに、店の看板が煌々と光る中を、観光客をすり抜けて歩いていく。
あそこは迷路だよね、と言われる駅をいくつか知ってるけど、私にとっては横浜駅もその一つだ。 思いつきで近くの改札から外に出たら、目的地のルミネに全く辿りつけなかった。 確かな足取りで目的地に向かって歩く人々の中、おろおろと行ったり来たりを繰り返した末に二十分ほどかけてようやく見つけることができた。 案外近くにあったんだなと思うと腹立たしかった。 平日の晩、仕事終わりの身体を引きずって、わざわざ新橋から横浜までやってきたのは、ルミネの8階で開かれる文芸創作の講座に出るた
今年6月に行ったSADSの復活ライブをWOWOWで見る。
2023年の深大寺恋物語賞に落選した作品ですが、せっかくなのでここに掲載させていただきます。 タイトルは「bitter young」です。 太陽の熱を受けたコンクリートの感触が、ランニングシューズのソールから一定のペースで下半身に響く。九月に入ってもまだ暑さは変わらなくて、二十分ほど軽く流して走っただけなのにもうあごの先から汗が滴っている。 四時をまわったばかりの調布駅周辺は、サラリーマンの帰宅ラッシュの時間よりは少し早く、パルコやテナントビルが並ぶ北口のロータリー
寺山修司の本がとても好きだけど、感性が全く違うからなのか、単純に私の読解力がないからなのか、読んだ後に内容を思い出せない。
一年程前、当時まだ東京に住んでいた私は、飲み会終わりにSL広場を新橋駅に向かって歩いていた。 テレビ局のクルーやカップル、赤ら顔の中年サラリーマンでごった返す中、ほろ酔いで思考の輪郭がぼやけた頭を引きずって歩く。 風はぬるかったけど、もう夏の盛りほどの暑さはなくて、少しずつ季節が変わっていることを実感していた。 改札にスマホをかざそうとした時に、見知らぬ番号から電話がかかってきた。 夜の十時なのにセールスの電話でもかかってきたのかと思い、少し尖った口調で電話に出た。
昼休みに会社を抜け出して、中之島美術館に行った。 納期だの、PDCAだのといったゴチャゴチした単語から離れて、薄暗い美術館にいるのは心地よかった。 観光客の外国人と老人だけの中を歩く。 数年前から私服での出社が認められるようになったから、パッと見は私も観光客のように見えたかもしれない。 中之島美術館は、大阪のオフィス街に突然現れる巨大な直方体の建物だ。 黒い顔料を混ぜ込んだ凹凸のある外壁なので、直線的なつくりなのにどこか柔らかな印象をしている。 目当ての展
今まで日記をつけたことがほとんどない。 意気揚々と始めて数日(ひどいときは一日)で終わったことが数回あるだけで、そんなのは日記とは言わない。 日記に限らず、今まで途中で放り出したものを上げたらキリがない。 衝動買いしたベース、ボイトレ、英会話、ボイパ、寝る前の精神統一etc. 飽き性な性格をついに直せないまま三十歳近くなった私が、なぜこのタイミングで日記を始めるのかというと、それは物語を書きたいからだ。 溢れんばかりの想像力と、一般人を遙かに凌駕する文章