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お蚕さんと糸取りの里――賤ケ岳のふもと、大音地区。

今春から滋賀銀行の季刊誌「かけはし」で、湖国の街道を巡るイラストコラムを連載しています。10月発行の秋号では、北国脇往還を取材しました。


なかでも興味深かったのが、賤ケ岳のふもとにある大音地区の糸取り工房です。

糸取りをする時期は、6月から7月まで。
私が取材したのは、今年最後の糸取りの日でした。
工房を訪ねると、カタカタと糸を紡ぐ音が心地よく響いていました。

ここ大音での糸取りの歴史は古く、平安時代より、養蚕業と製糸業が盛んだったとのこと。昭和初期に全盛期を迎えて、近年徐々に衰退し、後継者も減り続け、今ではこの工房一軒のみ。

蚕と言えば、地元の酒蔵、山路酒造さんの桑酒も有名です。

今では貴重となった糸取りの風景。
横一列に並んだ糸取り機に女性たちが座り、穏やかに作業されていました。

作業台には、お湯を沸かした鍋があり、お湯に浸した沢山の繭から糸を手繰り寄せ、一本に紡いでいきます。紡がれた糸が、作業台の後ろにある木枠に巻き取られていきます。

糸取りにかかせない清涼な水は、集落の湧き水を汲んだもの。
風通りの良い民家で、お母さんたちの作業する窓辺には、山からの涼しい風が吹き抜けていました。

女性たちが手を入れると、真っ白な繭からくるくると糸が幾つも伸びていって、一本の糸になっていく様子は、とても神秘的な作業に思えました。
代表の方が「この糸取りは昔から女性しかできん」と言う言葉が印象的でした。

出来上がった糸は、とても丈夫でしなやかな肌触り。

小さな木枠に巻き取った糸は、さらに大きな木枠へと巻き取り乾燥します。ここで紡がれた原糸は、地元の特殊撚糸製造会社で加工され、琴や三味線などの和楽器の弦となります。


この日は、文化庁から視察の人たちが来られていました。
今回取材でお世話になった、木之本町邦楽器原糸製造保存会の会長、佃三惠子さんは、昨年、永年にわたる功績が認められ、文化庁長官表彰に選ばれた方です。


佃さんはこれまで、後継者を育て、伝統を継承するための活動を地道に続けてこられました。
近年では、地元で桑の葉から養蚕までを行い、上質の繭が育ったとのこと。
まだまだやるべき事が沢山、課題も沢山あるとのこと。


大音の女性たちが育んできた、しなやかで丈夫な糸。
賤ケ岳のふもと、大音に紡がれてきた歴史に触れたひと時でした。




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