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肥薩線山線鹿児島空港付け替え案―肥薩線再生策③―

前回、前々回と、山線の活性化案を出したが、今回は本丸の鹿児島空港経由に線路を付け替える案を提案する。極論を言うと、肥薩線を鹿児島空港経由に変えない限り、次の災害で肥薩線は廃止される可能性が高い。
現状隼人〜吉松間は、37.2km、約1時間で走っている。鹿児島中央〜吉松間は現在直通していないが、68.3km、1時間半ほどで結ぶ。これは鹿児島中央駅着の電車から国鉄型が淘汰され、JR九州が新造した車両に統一された時期と重なるので性能の低い国鉄型気動車しか走らない肥薩線からの直通列車を廃止して性能の良い新型車両で統一して日豊本線の輸送力を上げたいためではないかと考えられる。
鹿児島県内の輸送密度は、山線(人吉〜吉松)の直通があった2019年が605、山線が運休し始めた2020年が480、2021年が518、2022年が493である。
一方で各駅の乗車人員は少なく、200人以上の乗車は霧島温泉駅のみ。100人以上の乗車は、大隅横川、栗野、吉松のの3駅のみ。表木山、中福良、植村は一桁の利用者しかいない。2015年のデータなので、今は3駅ともほぼ乗車人員0だろう。JR北海道なら廃止するレベルの駅である。
駅の乗車人員が少ないのに輸送密度が高いのは、近距離利用者が少なく、鹿児島中央ヘ向かう長距離の利用者が多いためと考えられる。
鹿児島空港への最寄り駅は嘉例川駅だが、乗車人員は35人、歩くには遠く、道も狭くて歩きにくいので、空港利用者の乗降は皆無と考えられる。

なぜ鹿児島空港経由にするか


人吉市、球磨郡の最寄り空港は鹿児島空港である。九州新幹線開業当時、鹿児島市内と熊本市内を結ぶ高速バスが廃止された際も人吉から鹿児島空港間だけは運転された。
一方で鹿児島空港は、元々県外からの利用者を想定しておらず、90年代に空港の目の前にある九州自動車道の鹿児島空港バスストップで、熊本県在住の利用者が本線上を渡り死亡した事故からクローズアップされた。その後の調査で、熊本県南部、宮崎県南西部からも利用者が多いことが判明し、福岡、熊本、宮崎と鹿児島を結ぶ高速バスが一回インターを降りて鹿児島空港ターミナルビルに乗り入れるようになったほどである。
鹿児島空港は、コロナ禍明けの2023年度も約550万人の利用者があり、神戸や仙台、広島など政令指定都市の空港をも上回り、年によっては中部国際空港と近い年もある。
九州新幹線開業で航空機のシェアが低下が懸念されたが、今も鹿児島と関西の航空機のシェアは70%を超える。これは、運賃が新幹線が割高なのと、鹿児島中央始発の新大阪行が6時35分、新大阪10時21分で、ビジネスに使いにくいことが考えられる。航空機の場合、7時半頃の始発の伊丹行に乗れば、大阪駅周辺に9時台に着く。割引運賃も豊富でビジネスマンなら航空会社のマイレージに加入しているだろうから、わざわざ割引がほとんどない新幹線を使う理由が見当たらない。
対名古屋、東京なら新幹線を選ばないだろう。
鹿児島中央始発のみずほは広島に8:55到着する。鹿児島からビジネス利用できるのは、広島が限界だろう。鹿児島中央からの営業キロは、新大阪911.2km、広島569.6kmである。東京駅から東海道山陽新幹線の営業キロと比較すると、新大阪は新岩国、広島は西明石に相当するキロ数である。新岩国駅がある山口県は、対東京で航空機が圧倒的に優位なことからも、鹿児島から広島以東への移動で航空機の優位性は変わらない。仮に山陽新幹線が360キロ運転しても、鹿児島中央から新大阪までは3時間切るかどうかなのでビジネスに使えるダイヤにはならない。
つまり、鹿児島は需要の大きな三大都市圏からは、新幹線で行くには遠すぎる。だから航空機の需要は減ることがない。人吉市など球磨郡周辺も、新八代駅まで1時間程度かかるので、三大都市圏への鉄道アクセスは鹿児島とほぼ同じ所要時間になる。したがって航空機の優位性は変わることはない。鹿児島空港と鹿児島市、人吉市を結ぶ空港連絡鉄道は今後も底堅い需要が見込める。
現状の一日1万5000人程度の利用で、そのうち何割か肥薩線を使えば肥薩線の需要が増える。現在は空港利用者で肥薩線を使う人はほぼ0人なので最も安定した日常的利用が見込める。
どの程度の人が鹿児島空港連絡鉄道を使うか
空港連絡鉄道の需要を出すのは難しい。データを挙げるが、人口は国勢調査ごとなので5年ごと、空港駅の利用者数は、鉄道会社ごとに異なり、東日本各社は乗降人数、西日本各社は乗車人員で発表している。年度や計測方法がかなり異なる。また直近のデータを使うと、2019年から2022年のコロナ禍でほとんど長距離移動需要がない期間があった。正確な予測は長距離移動需要が戻ったデータが揃う2025年以降にならないと難しい。

参考資料

利用上位15空港の鉄道会社や空港会社、国勢調査のデータを集めてみた。これを見ると、空港利用者数、母都市との距離、都市人口や都市圏人口に占める航空利用者の割合が最も近く、鹿児島空港が参考にするのに最適なのは新千歳空港であることがわかる。どちらも三大都市圏から非常に遠く、航空機の利用が主流、人口に対する航空利用者の割合は、ビジネス利用者、観光利用者の割合が近いことを示す。
東九州新幹線のところで新千歳空港の空港アクセスにおける鉄道シェアが38%と出したが、この数値は1982年からの蓄積データを基に、新千歳空港への千歳線支線を建設するときにJR北海道が算出したものである。コロナ禍で落ち込んだ2019〜2022年のデータはあてにならず、関係する会社の統計方法も異なるため、正確な予測は2025年以降にならないと出ない。まして鹿児島は現在空港駅がないからデータの取り方を新千歳空港と全く同じにできない。単純に利用者数の比率を参考にする。新千歳空港駅の2020年乗車人員は6,546人、鹿児島空港の4.1倍の空港利用者数だから、4.1で割ると1,597、約1,600人である。これはコロナ禍で最も利用者が少ない年のデータなので特殊な数値である。コロナ前の新千歳空港駅の利用者数が18,000人ほどなので、これを4.1で割ると4,390人、だいたい4,400人くらいは乗ることになる。
両都市特有の事情として、新千歳空港駅は、単線、地下駅でホームも短いので増発や増結ができず、空港利用者を運びきれていない。JR北海道唯一のドル箱路線なのに既に本数も車両数も目一杯で、これ以上運べない。鹿児島空港は、バスの運転手不足でドル箱の鹿児島空港〜鹿児島中央駅の路線を減便運行している。
鹿児島空港と鹿児島中央駅を結ぶリムジンバスは、以前は10分間隔で運行していたのに混んていたので、減便により自家用車利用に相当流れたと見られる。こうなると、運びきれない新千歳空港駅利用者は、複線化やホーム延伸ができればもっと多くなると考えられるし、鹿児島空港も自家用車に転移した利用者が鉄道に移り、もっと多くなると考えられる。その辺を考えると、新千歳空港の利用者数は本来もっと多いはずであり、比率で計算すると、鹿児島空港の利用者予測も上がる。鉄道が鹿児島中央駅と直結していれば、5,000〜6,000人くらいの利用が見込めるだろう。
肥薩線を付け替えると特有の事情で利用者増加
もう一つ、肥薩線を付け替えた場合、空港連絡鉄道としては特殊な路線となる。通常空港連絡鉄道は、母都市に向かう盲腸線になっている。
空港駅は終着駅で、列車は母都市方向にしか走っていない。
しかし多くの赤字ローカル線は山間部などで行き止まりの盲腸線であるように、盲腸線は利用者が増えにくい。
肥薩線を鹿児島空港経由に付け替えると、鹿児島空港は、母都市の鹿児島市方向と、逆方向の人吉市、小林市方向へも鉄道でつながる。双方向の都市圏人口を基に、肥薩線への需要誘発を考える。
鹿児島都市圏の人口
総務省定義の鹿児島都市圏は、鹿児島市の他、枕崎市、指宿市、垂水市、薩摩川内市、日置市、霧島市、いちき串木野市、南さつま市、南九州市、姶良市で構成される。
都市圏人口は2020年国勢調査で1,098,487人である。およそ百万人と考えて良い。肥薩線で言うと、霧島市の一部、旧牧園町、横川町域が鹿児島空港の北側になる。ほぼ母都市の鹿児島市ヘ向かう南方向の移動は鹿児島都市圏への移動と考えて良い。
鹿児島空港の北側の都市圏人口
鹿児島空港の北側には、熊本県、宮崎県、鹿児島県の3県それぞれに小規模な都市圏がある。ただし規模が小さすぎて都市圏としては認識されないので、便宜上3つの都市圏を設定した。人口は2020年国勢調査人口である。
熊本県:人吉都市圏 人吉市、球磨郡全域(中心駅人吉駅、人口 81,480人)
宮崎県:小林都市圏 小林市、えびの市、高原町(中心駅小林駅、人口 69,947人)
鹿児島県:湧水都市圏 湧水町、伊佐市(中心駅栗野駅、人口 33,572人)
3県の都市圏を合計すると、184,999人。およそ20万人と考えて良い。肥薩線で鹿児島空港から北へ向かう利用者数は、鹿児島方面の利用予測を5で割ると予想できる。
両方向への空港連絡鉄道ができたら
新千歳空港駅の数値から予測した4,400人を5で割ると880人、コロナ前の最盛期の予想の5,000人〜6,000人を5で割ると、1,000〜1,200人。だいたい1,000人が利用すると見て良いだろう。
吉松〜鹿児島空港:鹿児島空港〜隼人の距離を3:1とすると、鹿児島空港以北の輸送密度は1,000増え、鹿児島空港以南は5,000増える。肥薩線吉松以南は均すと輸送密度2,000は上乗せされる。

鹿児島県内の肥薩線が比較的好調とはいえ、現在の輸送密度は500〜600、空港を経由すれば一気に2,500程度まで引き上がる。赤字ローカル線の存廃問題の基準になる2,000は上回ることができる。鹿児島空港以南は黒字計上可能な5,000を上回ることもできる。だから鹿児島空港経由に付け替える必要がある。現状ほぼ利用者が見込めない日当山〜霧島温泉間を廃止してもこれだけ利用者が増えるなら付け替える方が良い。
付け替えるネックは勾配
標高271mの鹿児島空港に対して、日当山駅は標高12m、霧島温泉駅は標高166m。霧島温泉駅から鹿児島方面へ2本目のトンネル、嘉例川トンネルを出たあたりの標高が175m、ここから空港まで3kmを25‰の勾配で上ると鹿児島空港駅は標高250mになる。

鹿児島空港駅からは、一旦肥薩線と反対方向の西側に進路を取り、九州自動車道を越えたあたりで大きくカーブして日当山駅の西側の山中にトンネル駅を作る。日当山まで8kmは迂回しないと鉄道車両が登れる勾配にならない。

大隅横川駅に貨物駅を
大隅横川駅は、乗車人員が2016年時点で108人、以降は乗車人員が公表されていないことから、利用者はごくわずかと考えられる。駅のある霧島市横川町は、合併前5,306人の人口があった。それなのにここまで利用者が少ないのは、駅のすぐ近くに横川インターがあるためと考えられる。
インターが近いことを活かし、ここに貨物駅を設置すれば良い。
山線に危険物車両搭載の貨物列車を走らせても、
現状貨物駅は鹿児島駅に隣接する鹿児島貨物ターミナル駅しかない。鹿児島貨物ターミナル駅は手狭なのと、鹿児島空港付近に貨物列車には走行が難しい急勾配を設定せざるを得ないこと、接続する日豊本線に貨物列車を走らせる余裕がないほど線路容量が逼迫していることを考えると、大隅横川に貨物駅を設置するのがベストである。
対抗交通機関は九州自動車道
吉松駅から鹿児島中央駅までは、ほぼ全線九州自動車道に並行している。カーナビを使うと九州自動車道経由を推奨される。九州自動車道話を1971年に植木〜熊本ICが開通し、1972年に南関〜植木IC間、1973年に鳥栖〜南関IC、加治木〜薩摩吉田IC間、1975年に熊本〜御船IC間、溝辺鹿児島空港IC間が開通し、1981年には九州自動車道は北九州市内、八代〜えびのIC間を除き開通。南側も鹿児島北〜宮崎自動車道の宮崎ICまで開通している。つまり1980年代初頭には吉松駅以南は完全に高速道路と並行している。
さらにこの付近は初期の高速道路でカーブや勾配がきつく、80キロ制限であるが当初から4車線で整備され、ほとんど渋滞もない。えびのJCT〜栗野ICまでは24時間10000台を割り込む交通量だが、他は10000台を超えている。鉄道で言うところの営業係数は、九州自動車道は41。鉄道なら東海道新幹線に匹敵する黒字路線である。
このことから、肥薩線は高速道路に客を取られていると言える。同様の例は芸備線や姫新線。中国自動車道に並行してほとんどの人はマイカー利用。だから鉄道が利用されていない。こちらは高速道路も利用状況が良くないので深刻だが、肥薩線も現状維持ではあと20年で芸備線同様になるだろう。

現在吉松駅から鹿児島中央駅までは、車で1時間5分ほどで着く。しかし鉄道では1時間半ほどかかる。肥薩線沿線で最大の利用者が見込める人吉駅から鹿児島中央駅も、車で1時間20分あれば着く。鉄道なら2時間半以上かかっていた。
鹿児島空港から鹿児島中央駅は、九州自動車道経由で35〜40分、1,090円、鹿児島空港から人吉駅は約50分、1,730円である。これを考えると、人吉駅、鹿児島中央駅から鹿児島空港までは30分程度で結ばないと利用されない。
実際に鹿児島空港周辺を中心に、マイマップで線を引いて気づいたのは、肥薩線はとにかくカーブが多いこと。並行して走る九州自動車道は古い設計でカーブがきつい方だが、それと比べても肥薩線はカーブが多くてきつい。1903年の開業以来ほぼ改良されていない。
鉄道の低迷は間違いなく国鉄時代の投資不足である。道路が高速道路や国道バイパス、拡幅で走りやすくなっているのに、鉄道はほとんど改良されていない。特にローカル線は開業当初のままである。

鉄道が利用されるための改良を考える


鹿児島空港付近

空港新線
空港経由に付け替える新線は、霧島温泉〜隼人間。そのうち日当山〜隼人間は既存路線を改良する。霧島温泉から複線化、電化して嘉例川トンネルを抜けた先から現行線と分かれて直進、鹿児島空港の国内線ターミナルの中間付近に駅を設置する。将来的には国際線ターミナルの下にも駅を設置、国内線、国際線間の乗り換え交通機関として使うことも考えられる。一般的には新交通システムを使うが、新交通システムはオーダーメイドの規格で建設費、維持費も高額になる。既存の鉄道の方が汎用性があり、JR在来線規格で作られた車両は多いし、メンテナンスも線路JR線と一緒にすればよいので維持費も有利である。
空港内に乗り換え用の地下鉄がある例は、シアトル・タコマ空港(アメリカ、ワシントン州、2017年の年間利用者数約4,700万人)、ダラス・フオトワース空港(アメリカ、テキサス州、2019年の年間利用者数約7,500万人)がある。
鹿児島空港駅からは、半径700mのカーブで西側の九州自動車道を超え、ここから半径1,200mのカーブ、半径1,500mのカーブで半円を描き東に進路を変え、半径1,500mのカーブで日当山駅に入る。路線長8km。約250mの標高差を稼ぐために大きく迂回する。日当山駅の標高が10m程度なので、25〜30‰の勾配になる。鹿児島側からは、空港に向かって急曲線になるクロソイド曲線を描くが、鹿児島空港駅通過は考えられないので高速運転に支障はない。半径700mでは90〜100キロ制限、1200mでは130キロ制限、1500mでは160キロ制限になるので、鹿児島方面からは160キロ運転で駅に停車するときの自然な減速になる。鹿児島方面へも、発車してから自然に160キロに加速できる。日当山〜隼人間は高架化で踏切解消と、高さを稼いで勾配を緩和する。
霧島温泉〜隼人を空港経由の新線に付け替えただけで、同区間の所要時間は、現行の25分から15分に10分短縮される。
大隅横川駅以南の改良
植村駅は、鹿児島県内の肥薩線で最も利用者が少ない。2016人の乗車人員が5人、周りに住宅地などもなく、コロナ禍を経て今はほぼ0に高いだろう。
植村駅を廃止して直線化すれば、現在9分かかっている霧島温泉〜大隅横川間は4分に短縮される。
大隅横川〜栗野間も、曲線緩和で現行の9分から5分に短縮される。

霧島温泉〜大隅横川
大隅横川〜栗野

前回述べた新加久藤トンネル建設で、人吉〜吉松は15〜20分になり、吉松〜鹿児島空港は24分、人吉〜鹿児島空港は39〜44分になる。人吉〜隼人は47〜52分、人吉〜鹿児島中央は1時間17〜22分になる。これは各駅停車を想定しているので、速達列車を設定すれば人吉〜鹿児島空港は30分、人吉〜鹿児島中央は60分程度までスピードアップできる。
これらの試算は、各駅停車が130キロ運転、速達列車が160キロ運転することを想定している。
人吉駅から鹿児島空港までは付け替えと既存路線の改良、近代化で可能で比較的障壁は少ないと考えられる。しかしより多くの需要を生み出すには、鹿児島中央までの高速化が必須である。ここは日豊本線の複線化、高速化と切り離せないので次回以降投稿する。

くま川鉄道との直通


鹿児島空港、鹿児島中央と直通するなら、人吉側も人吉駅止まりだけでなく、くま川鉄道乗り入れも考えられる。空港からくま川鉄道沿線へ直通できれば、より需要が広がる。くま川鉄道沿線の需要を取り込めば、人吉市だけでなく球磨郡全域を市場にして鹿児島空港や鹿児島市内への移動需要を掘り起こせる。車社会の農村部では、鉄道に乗り慣れた都会の人が考えられないほど乗り換えへの抵抗感が強い。乗り換えなしで空港は、かなり魅力的である。
また、鹿児島から見ると、行き先に「湯前」とあれば、どんなところか調べるだろう。鹿児島県内から湯前などくま川鉄道沿線に目を向ける機会を作り、くま川鉄道沿線を訪れてみたいと思わせることができる。そして新たな観光需要が生まれる。くま川鉄道乗り入れは十分検討に値する。



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