今日も気づけば漁港釣り 9振り目
アジやイカ、キス、カサゴ、メバルー。魚種が豊富な丹後半島の日本海は、堤防からの釣りでもさまざまな獲物が狙えて面白い。一方、お目当ての魚が釣れず、やきもきすることも多々あります。2021年秋に宮津市へ赴任した直後に海釣りを始め、現在はルアーでアジを狙う「アジング」を極めるべく足しげく漁港に通う記者が、釣果や景色、釣った魚で作る料理を紹介します。さて、今日は何が釣れるのやら…。
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また、釣りの話からは始まりません
土、日曜の休みの過ごし方といえば、3、4パターンに限られている。ごろごろと本でも読むか釣りに行くか、そして超ごくまれに取材のため出かけるか。何より、特に楽しみにしているのはサッカーJ1の京都サンガの試合観戦だ。
5月27日はホームのサンガスタジアムでACL王者の浦和戦。家での観戦を盛り上げるため、酒を買い、おつまみにスーパーのアジをさばいて仕込む。あとは本を読み試合開始を待つのだが、正午を過ぎてもスターティングメンバーが発表されない。
スポーツ速報サイトを確認したところ、午後7時開始だった。完全に午後2時からと思い込んでしまっていた。どおりで、普段、ホーム戦の時は現地観戦を誘ってくれる生粋のサンガファンである会社の先輩(通称・きっすい先輩)からの連絡がなかったわけだ。先輩は新聞紙面の見だしやレイアウトを考えるニュース編集部に所属しており、勤務が夕方からになる。
きっすい先輩については「新米サポータースタジアムへゆく」で詳しく描かれています。
さて、何をしましょうか
準備万端が一変、6時間以上も手持ちぶさたになった。そんな折、会社用スマートフォンが鳴った。
「おう、今何しとんねん」
京都府福知山市の京都新聞北部総局に務める先輩からだ。仕事関係の連絡か。しかし、一緒にやっている企画記事は既に準備を終えている。何の用件かも皆目見当もつかず、曖昧に返事をしていたところ
「釣りに行こうや」
とのお誘いだった。思いも寄らぬ展開だが、ぽっかりと空いた予定が埋まる。ちょうど、先輩に貸す約束をしていた本を午前中に読み終えていたところだ。なんと間の良いこと。
だが、気がかりなこともあった。初夏の気候となって久しい昨今、水温も幾ばくか上昇していると見込まれ、日中から魚が活発に行動しているのだろうか。
前回、友人が来た時は魚の活性が高まる日没前後を狙った。それでも釣れなかったのだが、果たしてうまくいくものだろうか。
一方、日中は常に釣りにくい、とは必ずしも言えない。というのも、昨秋に先輩と宮津で午後2時ごろからさびき釣りをしたところ、宮津支局に赴任以降、釣りを始めて以来、最大級の釣果を得たのだ。この連載の1~3振り目までのサムネイルに使用していた写真は、その時の釣果だ。小アジ50匹は釣り上げた。
それはもう、えさかごにオキアミを詰めて海に垂らせばすぐに掛かるという入れ食いで、ヒットすれば銀色の魚体が水面から揺れるのが見えた。すぐに引き上げず、じっくり構えていると揺れる魚体の数が一つ、また一つと増え、さすが、本物のえさは別格だなぁ、と実感した。
不安を抱えつつも合流
今回、先輩とは午後2時前に宮津支局の駐車場で合流し、エサとなるオキアミを買いに行く道すがら、釣りスポットをどこにするかを話し合った。
ここで、互いの成功体験がぶつかり合う。先輩は小アジ爆釣の宮津港、私は先日20㌢級のアジが釣れた伊根漁港か、駐車料金が少し高いが広くてファミリー釣りにも向いている栗田漁港を推した。
栗田漁港は即却下。先輩が昨秋、2度目の釣りをした漁港だったが、釣果に乏しかった。えさでもだめなのか、と、思い知らされた。
「まずは、近くの宮津港でやってみて、だめだったら移動することにしようか」
二段構えの作戦となった。
さぁ、竿を振りましょう
好天にも恵まれ、漁港は釣り客で大にぎわい。大阪や神戸ナンバーなど市外からの車も多い。海目がけて勢いよく仕掛けを投げていた。
「いいねぇ、風が。海も」
先輩が目を細めてつぶやいた。
ただ、どうも釣り客たちの様子がおかしい。盛り上がりに欠けるのだ。すると、「あなた、何釣りにきたの」と声をかけられた。アジですと言うと苦笑いされた。どうですか、釣れていますか、と尋ねたら首を振った。どうやら、しぶい状況のようだ。
しかしながら、さおを振らねば始まらない。サビキ釣りの準備をし、代わる代わる糸を垂らした。
「いいねぇ、こうやってのんびりと過ごす時間は。たとえ釣れなくても」
このセリフ、前も言っていたな。昨秋3回目の釣りで、同市大島の養老漁港に行った時だ。あの時は本当に全く釣れず、しまいには土砂降りに見舞われた。
1時間が経過した。少しずつ魚は食いついてきてはいるが、針に掛からない。他の釣り客からも「釣れた!」の一言も聞こえてこない。文字通り、のんびりとした時間が過ぎていった。しびれを切らし、伊根への転戦を提案し、移動することとなった。
先輩は2カ所目の赴任地が宮津支局だった。ゆえに、思い入れも強い。
「お、柏ナンバーやったぞ」
「今の、習志野ナンバーや」
「府内でもここくらいやぞ。府外からいろんなナンバーの車が来ているのは。丹後はそれだけ魅力があるっちゅうことや」
と、いった会話を交わしつつ、伊根を目指した。
場所を変えて気分転換
快晴かつ休日の伊根は観光客で大いににぎわっていた。遊覧船も、人があふれんばかりに乗り込み、船上からウミネコにえさを与えている様子だった。
気を取り直して再チャレンジ。サビキとルアー、ともに用意し、たまに交換したりしてヒットを待った。
先客だったおじさんが「アジ狙い?先端の方、今、わいているよ」と笑顔で教えてくれた。確かに、くっきりとした魚影。小走りで先輩に報告し、入れ食いを期待した。
いかんせん自然が相手ですから
だが、やはり自然というものは厳しく、えさに魚が群れつつも、どうにも針にひっかからない。先輩と代わってサビキ釣りをしたものの、ただただ大量の魚がえさを食べるのみ。
「なあ、むなしい気持ちになってくるやろ」
心を見透かされているような一言を先輩がつぶやいた。ようやく、1匹釣り上げられたと思ったが、よく分からない、10㌢未満の個体。結局、午後6時過ぎまで粘ったが、お互いによく分からない魚を多少釣り上げたのみで、全てリリースした。
「しけた釣りやったな」
帰り際、先輩がぼやいた。行きの道中、かつての取材先を回顧しては思い出話で盛り上がったのがうそだったかのように、帰りは沈黙が続き、ただただBGMで流していた電子音楽のドラム音がドッドッドッド、ドンドコドコドコドンドコドコドコドッドッドッド、ドンドコドコドコドンドコドコドコドッドッドッド、ドンドコドコドコドンドコドコドコと響くのみであった。
「今日は急にすまんかったな。ありがとう」
別れ際、先輩は笑顔で帰っていた。
やまない雨はないよ
帰宅後、昼に仕込んだアジのたたきをつまみにサンガを観戦した。やはりアジア王者は強し。0対2で屈した。5連敗だ。翌日のスポーツ面には「もがきながらも、迷わず、突き進むしかない」との1文があった。釣りも同じかも知れない。
サンガはこの後、サンフレッチェ広島にも敗れ、6連敗を喫したが、次のアルビレックス新潟に3対1で快勝し、長いトンネルを抜けた。
能美 孝啓