シェフの名前は高いか安いか
スーパーの食品売り場、あるいは食品の通販サイトに行けば、有名料理人や一流店の名前が付けられたレトルト食品がずらり。「予約の取れない店」が、カレーにシチューに釜飯にと大忙しです。私の守備範囲ではありませんが、これもひとつの「キャスティング」。そう思うと黙って通り過ぎることはできません 笑
まず思うのは、一流の料理人や人気店がレトルト食品なんかに名前を貸していいの?ということです。自分の名前、自分のお店が安っぽく見えやしないか心配しないのか?
タレントの場合、イメージキャラクター契約は大金が動くので事務所は喜びますが、そのことでタレントに好ましくないイメージがつかないか、ものすごく神経質になります。当り前ですよね。たとえば「お高い」イメージで売り出している女優が日用品のCMに出るわけにはいきません(ミスマッチを狙う起用もありますが、ここは一般論として)。なのに、有名料理人や一流店が「監修」したレトルト食品はあまりに多いし、何となくハードルが低そうに思えるのです。高級レストランで、厳選された材料を使い熟練の技術で料理を提供する料理人は、お手軽なレトルト食品から本来もっとも遠いところにいるはずなのに、これはどうしたことか。
料理業界に詳しい知人に私の疑問をぶつけ「どう思う?」と聞くと、答は実にあっさりしたものでした。
「別にこだわりはないと思うよ、料理人には」
「そう?レストランの味が500円でお釣りがくるレトルト食品で再現できるわけないし、ブランドイメージが傷つくと思わないのかな」
「レトルトがレストランで出す料理と同じと思ってる人はいないでしょ」
「それはそうだろうけど」
「だから問題ないんじゃない?もしレトルトがイマイチだったからって、レストランのブランドイメージは動かないよ。それより料理人にしてみれば、自分や店の宣伝になるメリットのほうが明らかに大きい」
「うーん、そういうもの?」
「もちろん、あまりに不味ければ逆効果だろうけど、そこまで激マズなレトルトもないだろ」
「最近のレトルトはレベル高いしね」
「名前貸しはいいよ。大したリスクはないうえに何もしなくてもお金が入るし、宣伝にもなる。料理人に『監修』の仕事をオファーしたら断わる人なんかいないと思うね」
「身も蓋もないけど、そういうことか」
そんな感じで私が納得させられる展開になったのですが、料理人にプライドがないと思われるのも良くないと思ったか、知人は最後にこう付け加えてくれました。
「人気店のオーナーシェフもけっこう経営は大変みたい。もしレストランの売上で十分なら、レトルトに顔や名前は出さないんじゃないかな」
ちなみに、レトルト食品の「監修」で料理人に支払われる報酬は「一個売れていくら」のロイヤリティ契約が多いそうです。したがって「Aシェフのカレーは月間〇〇個販売、Bシェフのは〇〇個販売」といった数字で客観的に評価されるわけで、成績が悪ければ容赦なくスーパーの棚から下げられてしまいます。名前貸しは楽なようで、自分の価値がはっきり世間に知られてしまう、厳しい現実と背中あわせでもあるということです。