テレビに映らない仕事
今年はようやく会場を借り切っての忘年会やパーティーができそうで、ほっとしています。ここ二年、人が集まることそのものがご法度だったこともあり、パーティーやイベントは軒並みキャンセル。キャスティング業者にとって年末年始は書き入れ時なので、これがなくなるのは死活問題なんですが、ウチは広告も扱っているので何とか生き延びました。
さて、ここ二年は例外として、最近は企業のパーティーやイベントに「タレントを呼ぶこと」の敷居がはっきりと低くなりました。私が扱ったことがある案件も、「ベンチャー企業の忘年会にお笑い芸人」「企業の周年行事に弦楽四重奏の生演奏」「業界団体のイベントに落語家」といった感じで、いずれのタレントも著名というほどではありませんが、プロの芸を目の前で見られて、お客さんの満足度は高かったように思います。
パーティーやイベントにどのようなタレントの需要が大きいかというと、やはり「場を盛り上げる」役割がはまり、コスト的に使いやすいということでお笑い芸人が人気です。単価がさほど高くない彼らですが、年末年始にはかなり稼ぎます。「一発屋」と呼ばれて消えていったかに見えた芸人が意外に「食えて」いるのは、こういった「テレビに映らない仕事」によるところも大きいのです。
大企業になると、社内イベントも大がかりです。私がかつて手伝わせていただいた某大手自動車メーカーの社内イベントは語り草です。
男性司会者は歌舞伎役者、女性アシスタントは某局を退社したばかりの人気女子アナ(この人たちを呼んだのは全体を仕切った大手広告代理店でした。私が関わったのは合い間の余興に出ていただいた方々)。ステージセットはそのままテレビ中継ができそうな本格的なもので、全体を仕切っているのはプロの演出家。大画面に映写される動画もアーティストのプロモビデオ級のクオリティと、まるでテレビ番組を貸し切りにしたような印象。なのに、そんなイベントがあったことは、その会社の関係者でなければほぼ誰も知らないのです。そんなイベントの全体でかかっている費用を想像するに、そこそこの会社の年間の広告費は賄えるのではないかと。某報道番組の出演者でなくても「これ、電通入ってますよね」と言いたくなります(実際は電通さんではありませんでした)。
宣伝目的でもないのに社内行事にこれだけのお金が使えるとは、一流企業のパワーをひしひしと感じたものでした。
最後にひとつ、事務所が企業イベントにタレントを派遣する際には若干警戒するという話をします。数年前の「闇営業」事件を覚えている方は多いでしょう。何人かの芸人が反社的な団体の宴会に呼ばれて行っていた件です。あれは芸人が事務所を通さずに勝手にやっていたことではありますが、キャスティング業者に依頼されるタレントの手配でも、たまに怪しい企業や団体の案件があるのです。
反社組織が堂々とタレントの手配を依頼することなどありません(あっても断られます)。ですが、一見「普通」の会社をおとりに使っていることがあります。普通の会社だと思ってタレントの事務所もOKを出したところ、当日タレントが指定された場所に行ったら強面のオヤジさんたちが座敷にずらり!といったことは現実にあるのです。こういうところに一度顔を出してしまったら、下手をすればそのタレントは「終わり」です。事務所にしても手塩にかけて育てたタレントを潰されては困りますので、「若干警戒する」わけです。
なんだかんだ言って「興行」の世界ですから、ちょっと普通の会社とは違った注意も必要なわけです。