折々の絵はがき(68)
◆〈朝の月〉森田りえ子◆
平成4年 京都文化博物館蔵
まだ夜が明けきらない、朝のごく早い時間でしょうか。空には上弦の月が浮かんでいます。空が少しずつ色を変えるなか、金色の光を放つように咲く糸菊。その輝きは夜の間に浴びた月の光をそっと放っているのかと見まがう美しさです。明け方、誰に愛でられることもないまま静かに佇む姿のなんと贅沢なことでしょう。
糸菊は別名「管菊」とも呼ばれ、花びらがすべて管状になっているのだとか。くるくるとカールするように丸まる花弁の先はどれもが意思を持っているようにも見え、どんな手触りなのかふと手を伸ばすと、とたんに花びらたちが自由に動き出すような気もします。水しぶきを上げるようにも、終わらない花火のようにも見える姿に、さまざまな想像を掻き立てられました。
森田りえ子は四季を彩る花々や、京都の伝統文化を受け継ぐ舞妓などを描いており、とりわけ菊は彼女のもっとも代表的なモチーフです。一見繊細にも見える糸菊が、体内に「生命力」という静かな熱をふつふつとたぎらせている様こそを森田は描こうとしたのではないでしょうか。1枚だけではごくか細い花びらがこうして集まり、生の喜びをあふれさせるように咲く様子に、朽ちていく姿もまた美しいのだろうと思いました。
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