蒸留酒への誘い⑤ 〜テイスティングの表現方法


 以前一般に言われる「テイスティング」には2つの能力が必要であると書いた。

 1. 嗅覚と味覚風味をしっかり感じ取れる力。
 2. 表現力。感じた風味を他人にできるだけ正確に伝える力。

 今回は2. の表現力について深く掘り下げてみる。

 以前次のようにも書いた。

 風味を感じるだけでも本人は楽しいしそれでも十分なのだが、それを正しく他人に伝えることができたら、もっと世界は広がるだろう。音楽に例えると、譜面やコードに当たるのが表現力なのだ。
 この「表現力」も「味覚」「嗅覚」同様鍛えられるものだ。もちろん才能という生来の能力差もあるが、これもやはり才能と努力の複合体なのである。そしてまずは普遍的・標準的な表現方法が基礎能力として必要である。普遍的なルールがあるからこそ他人に速く正しく伝わるのである。


 ではウイスキー・テイスティングの表現方法とはどのようなものなのだろうか。


 最初は全く言い方すら思いつかないのが普通だろう。一般的な言い方を知るために、すでに用意されている表現方法をうまくまとめた「チャート」と呼ばれるものを利用すると良いだろう。

 色の場合は「カラーチャート」、ウイスキーの風味に関しては一般的に「フレーバーホイール」と呼ばれるチャートがある。製作者により様々なパターンと名前がある。例えば「ノージングサークル」(ウイスキー文化研究所代表 土屋守氏)、「マックリーン・ホイール」(ウイスキー・ライター チャールス・マックリーン氏)などがある。いくつか実際に使用して、自分に合うものを見つけたら、以降それを利用し続けると良いだろう。


 実際にアマゾンをみてみると、カラーチャートがわりのポスター(現在は販売されていないようだが)とか、アロマチャートつきアロマキットなんてのも販売されているようだ。(ちなみに私は両方持ってません。)


 色は「カラーチャート」と見比べれば、初心者でもそう大きく外すことはないだろう。しかし風味となると、多くの人にとって実際に経験したことのない言い方も多く、なんじゃこりゃ?と思われる表現もあるだろう。ここでは以下のバランタインのHPから「マックリーン・ホイール」を例としてお借りした。

図1


 フレーバー・ホイールの中では比較的シンプルな方だが、例えば「新材様」と「古材様」の違いとか、「砂っぽい」「プラスティック様」など経験を経ないと想像がつかないものもある。


 となると、ここから先は独学では難しいだろう。では具体的にどうすればいいのか。


 以前に「蒸留酒への誘い② 〜おいしいお酒の見つけ方」でも書いたことだが、一番簡単で楽なのが、すでにウイスキーに詳しい友人と一緒に飲みに行くことだろう。友人がそのウイスキーのどの風味をどのように表現するのかを実際に聞きながら、自分も飲んで体験するのが一番わかりやすい。そうしながら「この味はこう言い表すのか。」「この香りが〇〇と言われるものか。」と、まるで子供のようにそのまま一つずつ頭に覚え込んでいく。

 そういう便利な友人が居ない人は、バーのマスターを先生にしよう。「蒸留酒への誘い② 〜おいしいお酒の見つけ方」で見つけておいた、自分とウマが合うマスターに「この味ってどういう風に表現するんですか。」とか聞きながら飲むのだ。もしくはそういうバーには多くの”先輩”ウイスキーラヴァーズさんが通っているだろうから、その方々もいい先生になってくれるだろう。皆最初は初心者で、また同じ道を通ってきたのだから、色々優しく、わかりやすく教えてくれるだろう。

 そうしてだんだんウイスキーの風味をうまく捉えられるようになってきたら、今度は同じフレーバーに対して複数人の表現を比べてみる、ということが大変勉強になるだろう。ウイスキーに詳しいマスターがいるバーでは時々「テイステング 会」を催すことがある。そこに参加するとたくさんのウイスキーラヴァーズさんたちと知り合えるし、皆さんのいろいろな個性的な捉え方や表現法にも触れられる。人間にはそれぞれ捉えるのが上手い風味と不得手な風味があるので、できるだけたくさんの人のテイスティングコメントを聞くことが、より多くのウイスキーの風味を汲み上げる練習にもなるのだ。よっていろいろなバーや団体の「テイスティング 会」にたくさん参加することで、テイスティングの実力は飛躍的に伸びる。

 またそれとは別に、日頃からウイスキーに限らずできるだけ色々な香りや風味を体験しておくのも大切だ。様々な旅行先で、日本では出会えないような料理やお菓子を食べるのも、味覚の幅を広げさらなる表現力をつけてくれる。同様にお香の勉強をされる方もいる。常に記憶の引き出しにたくさんの風味とその表現力を詰め込んでおくと、何か新しい風味と出会った時、瞬時にその中から似た香り・同じ毛色の味を引っ張り出してくることができるのだ。

ウイスキーグラス


 さあ、これであなたも、ウイスキー・テイスティングのための準備体操は終了だ。あとはひたすら実践あるのみ。

 「チアーズ!!」

 楽しみながら、五感は研ぎ澄まして。

 新しいテイスティングの時間が、今始まるのだ!

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