蒸留酒への誘い④ 〜テイスティングの実際
さて、前回の重い、長い、堅い文章を読み終えた貴方、いよいよ佳境だ。お楽しみのテイスティングの時間がやってきた!
ではウイスキー・テイスティングの実際について話そう。その他の蒸留酒もほぼこれに準ずる方法でやっていただくといい。正しいテイスティングの方法を知ることは、ウイスキーの味や香りをできるだけたくさん汲み上げ、歪みなく分析し評価するために大切である。テイスティング方法についてはすでにたくさんの方がWEBに挙げたり本にまとめたりされているので、ここでは私たちが行う方法をあっさり書くだけにする。ただ、口に含む〜後味を楽しむまでの実際の動作について記載されたものがあまり見当たらないので、この部分だけはかなり詳しく述べておく。
用意するもの
1. ウイスキー 一回あたりの量は15ccぐらいが良い。
2. 透明なグラス テイスティンググラス、小さめのワイングラスなど口がややすぼまっているものの方が香りを蓄えやすいので良い。
3. 水 味覚が鈍くなりにくくしたり香りを広がらせたりするために加水することがある。またチェイサーとして口内をブラッシュアップする必要があるため、多めに用意する。軟水のミネラルウォーターのボトルがお手軽だろう。ただ、いきなり加水すると風味が悪くなってしまうウイスキーもあるのと、加水することで失われてしまう風味もあるので、できればまずストレートでテイスティングをしてみて欲しい。どうしてもアルコール感が強すぎて無理なら、ウイスキーと同量の常温の水を加えて(トゥワイスアップという)テイスティングすると良い。
テイスティングの順序
1. 視覚的特徴をとらえる
白い紙の上にグラスを置くと良く判る。
a. 色を見る
澄んでいるか、濁っているか。色の濃淡。色によりスタイルや熟成年数が類推できることがある。
b. レッグ(足)を見る
グラスを軽く回す(「スワリング」という)をする。ウイスキーを空気に触れさせることで、香りをしっかり立たせるのと、グラスの内側に残ったウイスキーの垂れ筋=レッグを見て粘度を知る目的で行う。レッグがゆっくり垂れるとか長くはっきり残る場合は粘度が高い=アルコール度数が高い。
2. 嗅覚的特徴をとらえる=香りを嗅ぐ「ノージング」
香りの種類とその強弱、経時的変化をとらえる。
まず鼻の下15センチぐらいのところを、すっと手に持ったグラスを通過させ香りを捉える。次に先ほどよりグラスをやや鼻に近づけるようにしてしっかりと香りを嗅ぐ。
3. 味覚的特徴をとらえる=味わう
味の種類とその強弱、ボディの重量感、刺激感と調和、経時的変化をとらえる。
いよいよウイスキーを味わう。一度に口に含む量、ここがとても大事。私は小匙1杯、主任研究員マリオは小匙半分とのことだ。多い方が甘みを強く感じられるが、アルコールの刺激感も当然強くなる。少なすぎたら味を捉えにくいし、含みすぎるとアルコール感が強くてつらくなる。
小匙半分から小匙1杯ぐらいを目安に、弱い人は少なめが良い。まずは水をティースプーンで口に入れる練習をして分量を覚えよう。ちょうどいい量が分かったら、グラスからその一定量を吸い取る練習だ。口のすぼまったグラスから少量を口に含むためには、人間側も多少すぼまった口になっていると思うので、ゆっくりと舌の上に適量を乗せとってみる。水がうまく口に含めるようになってから実際にウイスキーを含んでみよう。
まず息をしっかり吸い込み息を止める。次にウイスキーを適量、少しくぼませた舌の上に乗せとる。次にそっと口から息を吐き出す。空気の流れと体温で多少のアルコールは飛ぶうえ唾液と混じり合うので、アルコールに弱い方には必須の手順である。そのまま口を閉じて舌と上あごとの間にウイスキーを挟み込むようにして、じっくり味をかみしめる。緩やかに自然に喉の方に流れ出す分を飲み込んでいく。
4. 飲んだ後の余韻を感じる=後味・アフターアロマが一番重要!!
後味・アフターアロマの種類とその強弱、長さ、経時的変化をとらえる。
ここに一番違いが現れやすい。熟成の浅いものはシンプル、熟成が進むと複雑になる傾向がある。
先ほど飲み込んで閉じた口のまま、鼻から吸い込んだ息をまた鼻からゆっくりと吐く。舌の付け根から鼻の奥にかけてえもいわれぬ、奥ゆかしい風味が感じられるだろう。
テイスティングを行う際の注意点もいくつか述べておく。
1. スワリングについて
スワリングを最初にせず、2のノージングを行った後ですることもある。それはスワリングしない状態の最初の香りをしっかり捉えた後に、スワリングによる香りの変化を見るためである。またオールドボトルではしっかりスワリングする(他にも掌で温めるとか)ことが「寝ている」ウイスキーを起こす作業になる場合がある。
2. テイスティングをする順番
以下のようなウイスキーは後回しにしたほうが良い。
a. 香りが強いものやスモーキーなもの→最初にごく軽くノージングして決める
b. 樽の影響の強いものやアルコール度数の強いもの→色の濃さやレッグを見て決める
3. テイスティング時にしてはいけないこと
a. グラスに鼻を突っ込むようにして嗅ぐ→アルコールの香りばかりが強くて繊細な香りが分からなくなる。
b. 口から息を吸い込みながら飲み込む→絶対むせる。
c. 口に含んだらすぐに全部飲み込む→味わいや香りを感じ尽くせない。非常にもったいない。
うん、ウイスキーの味わい方は分かったよ。だけどその味をどう表現すればいいの?
少し長くなったので、続きは次回に。
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは京都市北大路に実在するバー「京都洋酒研究所」存続のために使わせていただきます。