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蒸留酒への誘い② 〜おいしいお酒の見つけ方


 今回はおいしいお酒とは何か、考えてみたい。

 おいしさ、というのは本当に人それぞれである。ある程度の傾向はあるが、絶対ではない。研究所でたくさんのお客様と話すなかでも、日々実感する。100人が100人美味しいと思うものも、100人が100人まずく感じるものも、まず存在しない。

 若い頃にはそれが分からなかった。世の中すべてのものははっきりと白黒付けられるものだと思っていたし、味覚についてもおいしい、まずいですべて片付けていた。

 「このウイスキー、まずいね。誰が飲むんやろ。」みたいなことを平気で言って、マスターに「まずいもんはないで。」と窘められたりしたっけ。まったく小生意気だったな。猛反省。

 今ならこう言うだろう。「このウイスキー、ちょっと好みと違ったわ。」

 



 蒸留酒を初めて飲む人が、おいしいお酒にたどり着くにはどうしたらいいのだろうか。

 一番簡単で楽なのが、すでに蒸留酒を飲んだことがある友人と一緒に飲みに行くことだろう。友人が得意げに蘊蓄を語りながら勧めてくれる一杯には、きっと「おっ、いいぞ!」と思えるところがあるはずだ。

 周りが下戸だらけだよ、とか、飲みに行ってくれるリアル友達いないよ、とかいう人なら、自宅か職場から徒歩圏内のバーへ直接行っちゃおう。どのバーへ行ったらいいか分からないなら、同じ職場の人や同じマンションの人に聞いてみるといい。上司でも、話したことがない人でも結構。「初心者なので知らなくて。」とか言っとくと、意外と喜んで推しの店を教えてくれる。行ったことのある店を教えてくれるので、”できるだけ安めの店で”と付け加えるとお財布の心配もないし、顔の見える関係の責任感からか、SNSなんかでありがちな「行ってみるとなんか違う」感が少ないのがいいところだ。

 で、いざバーへ行ったらどうする?

 最初からマスターに、遠慮なく「アルコールに弱くて1杯くらいしか飲めないんですが、〇〇のおいしさを知りたくて。いろいろ教えてください。」なんて言ったらいい。良い店のマスターはそんなこと言っても怒らないし(むしろ喜んでくれる人の方が多い印象)、一杯しか飲まないお客さんもたくさんいるから気にする必要ない。で、出してくれるお酒をいただこう。その時の説明や、こちらからの質問に対する答え方、出してくれたお酒の味などを総合して、このお店・マスターが自分と合うか考えてみる。できれば何軒か同じことをしてまわってみるといいだろう。そうして自分に合う良いお店が見つかったら、いろんな蒸留酒を毎回1杯ずつでもいいから味わっていく。マスターと言葉を交わしているうちにマスターもあなたの好みが掴めてくるのでよりジャストミートするようになってくるだろう。それを続けているうちに、どういう蒸留酒の、どんなジャンルが自分に美味しいと思えるのかわかってくる。


バーネオン


 ここで、バーへ行くのを怖がって、もしくはコスパを考えて、皆やってしまいがちなことを1つ。いきなりボトル買い・自宅飲みはやめた方がいい。リカーショップのコメントやネットショップの評判を見て、ボトルの特徴や味わいを十分理解するのは初心者にはなかなか難しい。せっかく買ってもイマイチだった、となることの方が多いはずだ。それを繰り返すと、家の中が飲みかけのボトルだらけのボーリング場状態になってしまう。結局コスパも悪くなる。初心者のうちは説明付き・少量試飲OKの良いバーで飲む方が絶対お得だ。



 では立場逆転、蒸留酒を飲み始める人においしいと思ってもらえるのはどういうお酒なのだろう。初めて飲むのがウイスキーなのか、焼酎なのか、ブランデーなのか。はたまたテキーラなのか、ジンなのか、ウォッカなのか。それぞれの長所・短所もあるし、銘柄が何なのかによっても受ける印象がガラッと違うだろう。

 ここではスコッチウイスキーに絞って、もうちょっと突っ込んだ話をしよう。


 「ウイスキーにハマったきっかけはどの蒸溜所ですか。

お客様からよく聞かれる質問だ。

またはお客様自身が、「ハマったきっかけは・・・」と話しだされることもある。


 私の統計ではベスト3

1.  タリスカー
2.  ラフロイグ
3.  アードベッグ

だ。なんと、個性派揃いなことよ。ハイランドの、ファークラスやリベットあたりがトップに来ても良さそうなものだが。幼気な少女がちょい悪お兄さんに惹かれて、そのままどっぷりハマってしまうのと同じようなものなのか、と密かに思っている。

 そして、おいしいと思うウイスキーは常にずっと同じわけではない。以前にも書いたが、直前の食事やその時の気分によっても味覚は変わるし、好みそのものも年齢・生活状況・精神状態などによって変化する。また、飲酒歴が進むと好みも変わっていく。それがまた面白いことに、皆ほとんど同じ道筋を通っていくのだ。私だけでなく、私が今まで聞いたことがあるマスターやウイスキーラヴァーズさん、みな異口同音にそう仰る。まるでウイスキーという深い森の中の小道を歩いていくように。


 1.  まずシェリー
 2.  次にプレーンオーク樽(バーボン樽)
 3.  再びシェリー樽(1と2を何度か往復することもある)
 4.  儚げ系(これは私の命名によるもので、個性も味わいも非常に穏やかで、ピアニッシモの世界を楽しむものと考えていただくとよい)


 さらにその先はどこに続くのか。ここから先は自分のことしか分からないが、今は「みんな違ってみんな良い」という、神々の園にいるような異次元の感性になっている。

 

 そんな経験ができるよう、早く飲み方について書かねば!

 でも 少し長くなったので、続きは次回に。

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