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オールドボトルや長期熟成ボトルは本当に美味しいのか?



 バーでメニューをご覧になって、気づかれた方はいるだろうか。
 なんだかやたら高いウイスキーがあることに。


 マスターに「なんでこれ、こんなに高いの?」と聞いたかもしれない。

 そして、その答えはきっとこうだったに違いない。

「これ、現行ものじゃなくて、オールドボトルなんです。」
もしくは、
「これは36年の長期熟成ものですよ。」

 それを聞いて、あなたはきっと
「へー、オールドボトルって/長熟ものって美味しいんだろうなぁ。」
と思うだろう。

 それは半分当たっている。そして半分外れている。

「えーっ、一体どっちなんだよ!」

ちょっと待って。正解を見つけるために、1つ1つ疑問点をつぶしていこう。


1. ウイスキーは高い方が美味しいの?
 ウイスキーは一般に熟成期間が長くなるほど値段が高くなる。なぜならウイスキーは樽内熟成するうちに蒸発してしまい、年々量が減る(エンジェルズ・シェアーと呼ばれる)し、保管中はお金にならない上保管料金がかかっていく。ウイスキーの希少性と保管料金が値段の差に反映されるのだ。また、管理の行き届いたオールドボトルにも、もちろん毎年保管料が発生する。よって、ウイスキーは高いのが上等であるが、美味しいかどうかは個人の好みの差もあるので絶対ではない。
2. ウイスキーの今と昔の風味差って?
昔のウイスキーは美味かったねぇ」・・・先輩ウイスキーラヴァーズさんからよく聞く言葉だろう。美味さの真偽は別として、現行ものとオールドものには風味に差があるのは事実だ。
 1つ目は原料の大麦の差。主に品種改良によるものだ。アルコール発酵をより多く行うため大麦一粒当たりに含まれる糖分を増やすと、相対的に糖分以外の要素が減るので不純物が減り味の複雑さも失ってしまう。
 2つ目は製造工程の差。ウイスキーの原料となる大麦麦芽(モルト)の製造を専門業者に任すなど、製造工程が効率よく洗練されるとやはり不純物が減り味の複雑さも失われる。
 3つ目はの差。同じシェリー樽風味であっても、昔は上質なシェリーの空き樽が山ほどあって、その中に蒸留したてのウイスキーを実際に入れて熟成出来た。今はシェリー風味のついた木片をステンレスタンク内のウイスキーに放り込んでおしまい、だったりする。当然ながらその風味の差は歴然だ。
 4つ目はブレンドされる原酒の比率の差。長熟原酒は年々希少になるため、現行ものほどその割合が少なくなり味わいの複雑さも減ってしまう。
 最後に、管理のしっかりした状態で長期間保管すると多少なりとも瓶内熟成が進行するため、味わいへの影響が生じる。
 主にこの5点から現行ものにはない個性豊かな風味を生じているのだ。
3. ではオールドものや長熟ものの方が美味しいの?
 オールドもの・長熟ものの方が絶対に美味しいという考え方(オールド至上主義・長熟至上主義)の人もいるが、めったやたらにそう思っているのであれば非常に残念なことだ。オールドものや長熟ものには素晴らしい個性があるが、飲み方や受け手によっては美味しいと捉えられない可能性があるものなのだ。
 オールドものや長熟ものの特徴を簡単にまとめておこう。
✖︎デメリット値段が高い。蒸溜所特有の個性がマスクされてしまいがち。個性が柔らかくマイルドになっていることが多いので、飲み方を選ぶことがある。風味がはっきりして飲み頃のピークになるまで時間がかかる、または一手間かかる傾向がある。
○メリット:アルコールの刺激感が少なく、長期熟成により風味の豊かさ・複雑さが増していることがある。ストレートに近い状態で飲んでも比較的飲みやすく、味わいがわかりやすい。昔づくりの味わい(大麦や樽)を感じることができる。
 このような特性が分かっていないと、適さない飲み方や風味の捉え方をしてしまい、ウイスキー・人間双方にとって非常に残念な結果になってしまう。つまり、誤解を恐れずざっくり言えば、現行ものとは、比較的誰がどのような状態で飲んでも美味しく感じるわかりやすい飲み物で、オールドものや長熟ものは、飲みこなすのに難しく、訓練・努力が必要だが、一度そのコツをつかんでしまえば“神々の飲み物・ネクタール!”と思えるものなのだ。



ウイスキー グラス


 ではここで、オールドもの・長熟ものをより美味しく感じるための飲み方を挙げてみよう。

1. グラスに入れる量を多めにする 
 穏やかなウイスキーは比較的短時間で味が変化しピークを超えてしまう。多めに入れるとゆっくりと楽しめる。
2. スワリング(グラスをゆっくり回す)する・グラスごと手のひらで温める
 オールドものや長熟ものは風味が開くのに時間がかかる傾向がある。スワリングや温めで開くスピードを多少速くする効果がある。しかし穏やかな個性のものに対してやりすぎるとアルコールが飛びすぎたり、味わいのピークを超えてしまうこともあるので、慣れないうちは少しずつ変化を確認しながら行うこと。
3. グラスに注いでからしばらく置いておく 
 2.と同じ理由だが、実際にゆっくり時間をかけながら味わうのも贅沢な楽しみだ。1と同様少し多めに注ぎ30分ごとに4・5回に分けて味わうとよい。
4. 加水する
 オールドものや長熟ものは風味が開くのに時間がかかることが多い。こういう状態を私たちは「寝ている」と呼ぶが、水をかけるとびっくりして飛び起きるのは人間だけではないようだ。加水の水は1滴ずつ加えることをお勧めする。特に、ほんの1滴水を加えただけでびっくりするほど印象が変わる場合が多い。これを私たちは「寝覚の一滴」と呼んでいる。その後基本的に5・6滴加水、トゥワイスアップ、1:2加水を基準点としてテイスティングチェックを行なっている。以前にも書いたが、いきなり加水すると風味が悪くなってしまうウイスキーもあるのと、加水することで失われてしまう風味もあるので、できればまずストレートでテイスティングをしてみて欲しい。どうしてもアルコール感が強すぎて無理なら、トゥワイスアップでテイスティングすると良い。
5. 現行ものと比較・ボトラーズ縛りや熟成年数の違いで比較して飲む 
 比較することで共通する要素をしっかり理解したり、それぞれの個性をより多く汲み上げたりできる。


 個性豊かなオールドもの・長熟ものを飲みこなすには、やはり地道なテイスティングを繰り返すしかない。ただ、その先には“神々の飲み物・ネクタール!”と出会えるかもしれない日々が待っているのだ。ぜひ努力によって乗り越えて行ってほしい。




 でもさ、やっぱちょっとさ。 あるんでしょ、王道っての?  裏口でもいいんだけどさ♪



 ・・・仕方ないですね。 ちょっとだけ近道する方法、あるにはあるんですが・・・。



 やった!  待ってました!  せっかくここまで読んだんだから、そういうの教えてよ。

 


 ・・・お楽しみは、 次回におあずけ  ということで。

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