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第3回 染織祭調査2 国立国会図書館(デジタルコレクション)調査2
はじめに
前回、国立国会図書館デジタルコレクション(以下「デジタルコレクション」とする)の調査では、今までの調査で協会でも把握できていなかった当時の染織祭についての報道や関連した展示などについて一部判明しました。今回は、前回デジタルコレクション調査で新たに判明したことについて、また、さらに調査を行い判明したことについて一部ご紹介します。
前回の調査について
前回新たに判明した染織祭の情報です。
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染織祭は現在でこそ幻となってしまいましたが、上記表(1)にあるように雑誌や文献などで祇園祭、葵祭、時代祭と並んで取り上げられていたのを見ると、当時の祭の規模や染織祭への期待などが伝わってくるようです。染織祭が行われていたのは26年間のみ、うち行列が行われたのはたった7年ほどでしたが、染織祭が人々の心に残った祭りであったのだろうと感じました。
(1)京の四大祭の一つとして紹介
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染織祭は第1回記事でもご紹介した通り、昭和6年から昭和26年まで行われていたお祭りです。祇園祭、葵祭、時代祭と合わせて京都四大祭り、京の四大祭と呼ばれていたほど、当時は人気で絢爛豪華なお祭でした。
「京都名勝」では、祇園祭の説明に「加茂の葵祭と平安神宮の時代祭と染織祭とを合わせて京の四大祭と呼ぶ。」と記されており、染織祭が当時の人々にとって四大祭と呼ばれるほど大きな存在感のある祭りであったことを示しています。
(出典:京都市産業観光課編「京都名勝」(京都市産業部観光課,昭和12. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-04))、
日本旅行協会 編『旅程と費用概算』昭和13年版,日本旅行協会,昭和13. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-08)、
鉄道省 編『日本案内記』近畿篇 上,博文館,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-08))
(8)未確認の染織祭関連写真・報道について
更に調査を進めていたところ、染織祭は様々なメディアで取り上げられていたことがデジタルコレクション調査で明らかになりました。これまでの調査では、主に新聞記事で染織祭が取り上げられていたことが分かっていましたが、当時の新聞記事だけでなく観光・旅行向けの雑誌広告などで取り扱われた他、当時のニュース映画にも染織祭が取り上げられていたことが分かりました。
ニュース映画とは、短編映画・記録映画の一種で、主に時事問題などの情報を扱っていました。発声映画が発達してからは新聞社が主体となって制作していることが多く、1941年から1945年の終戦まで、国策宣伝のための情報統制、検閲などもありましたが、全国の映画館で上映が義務化されていました。戦後、再び新聞社主体でのニュース映画制作が行われましたが、テレビや同報発信できるニュースの発達により衰退していきました。
「大毎フイルム・ライブラリー目録」によると、昭和7年5月号にて第二回染織祭がニュース映画として取り上げられていたようです。
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(出典:大阪毎日新聞活動写真班 編『大毎フイルム・ライブラリー目録』昭和7・8年版,大阪毎日新聞活動写真班,昭和7. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-05)、ニュース映画 - Wikipedia)
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(9)染織祭から生まれた関連展示・経済効果
当時約30万人が祭りを見物したとされ、京都の観光業においても大きな影響を与えた染織祭にちなみ、関連する様々な展示が行われていました。
昭和8年4月、恩賜京都博物館(現:京都国立博物館)では染織祭にちなんで「外邦染織名品展覧会」が催され、トルコやペルシャ、インド、ジャワなどの様々な国の織物が500点以上展示されました。
(出典:岡田三郎助 監修『時代裂 : 解説』第16輯,座右寶刊行會,[1932-1933]. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-04))
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また、昭和9年5月には染匠の有力メンバーが集まった「絢染会」による展示会が行われ、染匠・小野村直太朗氏による「染織祭を象りて」が発表されました。染匠とは着物ができるまでの工程を総括するプロデューサーのような役割であり、この展覧会には、染織祭衣装を担当したとされる染匠・沢渡源兵衛氏も出品していました。当時の染匠たちによる衣装について伺い見ることができます。
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(出典:絢染会 編『絢染会展観作品集』第14回,芸艸堂,昭和9. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-12-05))
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引用:絢染会 編『絢染会展観作品集』第14回,芸艸堂,昭和9. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1188177 (参照 2023-12-05)より、印刷後スキャンして作成
沢渡源兵衛商店が制作したとされる染織祭衣装
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まとめ
今回は、調査で新たに分かった情報を実際の資料を引用して紹介しました。デジタルコレクション調査で染織祭について、今まで行ってきた文献や資料を基にした調査とはまた違う新しい視点での調査ができるようになったと感じています。これらの新しい手がかりから、染織祭が当時どのように行われ、当時京都に住んでいた人々が染織祭をどのように感じていたのかを探るきっかけとして、今後も調査を継続して行う予定です。次回は、前回新たに判明した染織祭の情報一覧表から(3)の情報についてお伝えします。
調査に利用したサービス
・国立国会図書館デジタルコレクション
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引用・出典
・京都市産業観光課編「京都名勝」(京都市産業部観光課,昭和12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1094314 (参照 2023-12-04)
・日本旅行協会 編『旅程と費用概算』昭和13年版,日本旅行協会,昭和13. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1120981 (参照 2023-12-08)
・鉄道省 編『日本案内記』近畿篇 上,博文館,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1172399 (参照 2023-12-08))
・岡田三郎助 監修『時代裂 : 解説』第16輯,座右寶刊行會,[1932-1933]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1261100 (参照 2023-12-04)
・絢染会 編『絢染会展観作品集』第14回,芸艸堂,昭和9. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1188177 (参照 2023-12-05)
・大阪毎日新聞活動写真班 編『大毎フイルム・ライブラリー目録』昭和7・8年版,大阪毎日新聞活動写真班,昭和7. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1212460 (参照 2023-12-05)
・ニュース映画 - Wikipedia