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体育祭の徒競走と、ある作戦

私は、スポーツが苦手だ。運動神経がないと言ってよい。かろうじて、水泳で平泳ぎができるだけだ。

だから、昔から運動会及び体育祭は「苦痛・苦行・苦悩」の「3苦」だった。小学生の時は運動会の練習(とりわけ徒競走の練習)をしているだけで憂鬱だったし、運動会の前日は自分が走ることを考えただけで、おなかが痛くなった。(でも、クラスを応援したり、他の競技を見るのは好きだった。)

高校1年生の体育祭で。例によって100m徒競走に出場しなければならなくなった。生徒は必ず、200m、障害走、1000mトラック走などに出なければならないのだ。仕方なく私は、走った。でも案の定、一番最後だった。このときのやるかたない気持ちと言ったら・・・

また巡ってきた2年生の体育祭。私は一計を案じた。「替え玉」である。「替え玉受験」は聞くが、「替え玉走り」というのはあるのだろうか。

そこでカモシカのようなきれいな足を持ち、「走るの大好きっ子」のクラスメイトに依頼してみたところ、2つ返事でOK。

私は応援席から密かに見守っていたのだが、彼女は堂々の1着ゴール!

おお、素晴らしい!

あまりに綺麗な走りぶりで、心から感動した。

このクラスメイトに「替え玉」で走ってくれたことにお礼を言ったところ、反対に、走る機会をもらえたお礼を言われた。何回も1位のゴールテープをきれるのが楽しいし、嬉しいんだそうだ。やはり、俊足の人の発言は説得力がある。

自分が走らなくてもいいし、代わりに走ってくれるクラスメイトは楽しいしで、ウィンウィンの方法を見つけた私は、翌年の体育祭でもこの作戦を実行する予定だった。

しかし、そうは問屋が卸さなかった。翌年の体育祭では、先生たちが事前に入手したエントリー表を持って、スタートラインに立つことになったのだ。生徒のクラスと名前(体操シャツには名字が縫い取りしてある)を確認して、チェックを入れる。ここで、全く「替え玉」はできなくなってしまった。もし、やってバレたらクラスメイトに多大な迷惑をかけてしまう。これは非常にマズイ!

仕方ない。とにかく走ろう。高校生活最後の体育祭で、私は走った。・・・でも、やっぱり一番最後だった・・・

ないものねだりだが、スポーツは苦手でも、せめてせめて走るのだけは速かったらなあ・・・と、これまで何度思ったことか。そうしたら、私の人生もまた違ったものになっていたかも。


#エッセイ #日本語教師 #体育祭 #運動会 #徒競走 #ゴールテープ #1着 #高校生活

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