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たとえばアーシュラ・K・ル=グウィンの「推し」って知りたくないですか?/著名な作家・批評家・研究者がひそかに愛読する知られざる名著

B-Side Books:
Essays on Forgotten Favorites

「B面の本:知られざるお気に入りについてのエッセイ」
Edited by John Plotz
June 2021 (Columbia University Press)

世界には、古典といわれる名著がある。数多くある。シェイクスピアの「ハムレット」、ヘミングウェイの「老人と海」、ユーゴーの「レ・ミゼラブル」、ドストエフスキーの「罪と罰」などなど。読んだことがあるかどうかはともかく、だれもが知っていて、決して絶版になることはなく、ロングセラーで売れていて、学校の授業でとりあげられたり、「おさえておきたい名作」リストに常連で載ったりしている。

いわゆる名作。傑作。大著。マスターピース。

一方で、そういう輝かしい文学史の道からこぼれ落ちてしまった作品もある。というか、そっちのほうが圧倒的に多い。忘れ去られ、後世に伝わることなく、歴史の闇に消えていく。世に出るのが早すぎたのか、遅すぎたのか、はたまた全く違った世であったら受け入れられたのか。

本書では、著名な作家、批評家、研究者が愛してやまない、しかし世間的にはすっかり忘れさられてしまった名著に、ふたたび光をあてようとするものである。

しかし、タイトルのB-side books 「B面の本」ってどうなのかな?
B面っていまの人に通じる? アナログレコードとかカセットテープを知ってる世代の言葉だよね? いま一部の若者には逆に新鮮、ってことで、アナログレコードやカセットテープが受け入れられてるらしいけど。あえてのレトロ感を出したネーミングなのか。

それはともかく、作家や批評家、研究者のひそかなお気に入りなんて、掘り出し物の匂いがプンプンするではないか。
なんかワクワクするなぁ~♪

気になる目次を見てみると・・・

う。全然知ってる人がいない。。知ってる作品もない。。。

まず、推薦してる人を知らない。そして、その人の「推し」の作品も、作家も知らない。。なんてことだ。ホントに埋もれちまってるやつじゃないか。いや、たんに私が無知ってことか。

一番最初に出てくるのが、Rebecca Zorachという人が「推し」てるA Girl of the Limberlostという作品で、作者はGene Stratton-Porter。
知ってる人、いる?

私は知らんかった。

推薦人のRebecca Zorach、レベッカ・ゾラックは、ノースウェスタン大学の美術史の教授だった。ゾラックの推しの作家、Gene Stratton-Porter、ジーン ストラトン・ポーターは、1863年生まれのアメリカ、インディアナ州出身の作家で、主に1900~1930年ぐらいまで活躍した。

A Girl of the Limberlostというのは、ポーターの出世作で、映画化もされたらしい。と、そこまで調べたところで、ありました。翻訳本。

リンバロストの乙女


河出文庫から上下二巻本で、2014年に刊行されている。翻訳は、あの村岡花子。「赤毛のアン」を訳し、NHKの朝ドラ「花子とアン」の主役のモデルとなった、あの村岡花子である。「花子とアン」の放送が2014年だから、「リンバロストの乙女」も、それに合わせて復刊したんだろうなー。

「名翻訳者・村岡花子が『赤毛のアン』と共に愛した永遠の名作。」と、河出文庫のこの本の紹介文に書いてある。

うわー、これは、そこそこ有名ってことじゃん!
知らないってはずかしい。。。

しかし、必死になって目次を見ていて、ようやく私も知ってる作品をみつけた。

それは、「ソラリス」。著者はスタニフワフ・レム。


推薦しているケイト・マーシャル(Kate Marshall)という人は、アメリカの弁護士で政治家、民主党党員。ネバダ州の副州知事を務めたこともある。

レムは、日本でもわりと人気のあるポーランドのSF作家で、「ソラリス」はハヤカワSF文庫から出ているが、国書刊行会が、スタニスワフ・レム・コレクションというのを出していて、大概の作品はそれで読める。

でも、私が「ソラリス」に出会ったのは、映画が先だ。アンドレイ・タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」。タルコフスキーの映画はなんでも好きだが、その中でも一番好きなのが、「惑星ソラリス」だ。3時間近い大作だが、何回見ただろう。

じつは「ソラリス」は、2002年にも映画化されている。監督は「エリン・ブロコヴィッチ」「セックスと嘘とビデオテープ」のスティーブン・ソダーバーグ。ジョージ・クルーニーが主演。公開当時は、それなりに話題になった。私は見てないけどね。

ソダーバーグは嫌いじゃないけど、タルコフスキーの「惑星ソラリス」に思い入れがありすぎて、ソダーバーグの「ソラリス」は見ることができないでいる。

しかし、原作は何の抵抗もなく読んだな、そういえば。そして、こちらも好きになった。レムのほかの作品、たとえば「星からの帰還」とか「砂漠の惑星」なんかもおもしろかった。SFって、もっと人気になってもいいジャンルだと思うけどなー。

「B面の本」に話を戻すと、推薦するほうで知ってる人も1人だけいた。

アーシュラ・K・ル=グウィンだ。

「ゲド戦記」「闇の左手」などで世界的に有名なル=グウィンが「推す」のは、ジョン・ゴールト(John Galt)の「教区の年報」(Annals of the Parish)というもの。1779年生まれのスコットランドの作家であるゴールトが1821年に出版したのが「教区の年報」で、これでゴールトはたちまち小説家としての地位を確立したらしい。

ゴールトは、父が貿易船の船長などをしていた影響からか、若いころにヨーロッパ各地を旅行しており、旅先でバイロンと友達になったりしている。その後、旅行記を書いたり、伝記を書いたりという執筆活動をしつつ、貿易商社をたちあげたりして、ビジネスにも首を突っこんでいる。

その豊富な経験をいかして書いたのが「教区の年報」で、Micah Balwhidderという魅力的な主人公が活躍する。どうやら「教区の年報」は、ゴールトのスコットランドを舞台にしたシリーズの一作のようだ。

こちらは、日本語の翻訳はない。そもそもJohn Galtで検索すると、ある小説の登場人物、ジョン・ガルトのほうが先に出てきてしまう。それだけ知られてないってことか。

まあしかし、ル=グウィンが「推す」小説だからなぁ。なんか一筋縄ではいかないかも。一般受けするかどうかもよくわからない。

もう一つ、気になったところでは、ヘレン・デウィット (Helen DeWitt)という作家の「ザ・ラスト・サムライ」The Last Samuraiというのがある。これは、トム・クルーズ主演の映画「ラスト サムライ」とはまったく違う作品らしい。

ヘレン・デウィット自身が数か国語を操る人で、この小説にも複数の言語が使われている。その数か国語の印刷の組版の問題や、最初に本の題名にしようと思っていた黒澤明の映画「七人の侍」の権利が取れずにもめた問題やらで、2000年に刊行され好評を博したにもかかわらず、10年以上絶版だったそうだ。かなりのいわくつき。

数か国語の言語が入り乱れているから、翻訳本が出ていないんだろうか。柳瀬尚紀みたいな、博覧強記の翻訳家が訳してくれないかなぁ。。

ちなみに、この本の編者、John Plotzは、以前紹介したPublic Booksのエディターで、Recall This Bookというポッドキャストの運営もしている。興味のある方は、リンクからどうぞ。









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