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コーチのお仕事〜準備編〜

アルペンスキーコーチの仕事は他のコーチと比べて特殊です。とはいえ他のスポーツのコーチをしたことがないので、きっとどのスポーツも特殊なんだとは思いますがアルペンスキーコーチの一番特殊な点は、トレーニング場所の準備の仕方だと思います。実際の技術指導に至るまでが大変です。

では三年目の新米コーチですが、さっと我々コーチの仕事を紹介していきたいと思います。(注)下に書くことは私の現状の仕事ですので、全ての方に当てはまるわけではありません。

1.トレーニング場所の決定

まずはどこでトレーニングするかを決定します。時期によって選択肢が限られますが、天気、斜面、雪質を踏まえて判断します。ここで判断を間違えると痛い目に遭いますので情報収集が事前に必要になります。

まずは天気予報。雪が降るかどうか、水を撒く際は気温も重要になるので細かくチェックしていきます。春や秋などの気温が高い時期は夜中に雲があるかないかで翌日のバーン状況が大きく変わるので雲の動きも大事です。複数の天気予報サイトで確認しますが、本当に大事な時で判断できない時は日本でいう気象庁に電話して確認したりもします。

そしてコース状況の確認。スキー場の担当者に電話したり、そこで練習している他の国のコーチに電話したり、あるいは現地に視察にいきます。だれかに状況を聞いたとしても雪質に対する感じ方が違うと大変なので共通認識のあるチームスタッフでそれぞれ視察するのが一番無難ではあります。ですが、遠い場所は手間なので電話もフル活用します。

場所が決まったら、コースの予約をします。スキー場にも複数コースがあり、ナショナルチームレベルだと良いコースをもらえやすいですが、クラブチームなどは思っていた場所がとれなかったり他のチームと合同になったりなかなか思い通りにはいきません。ですがコネ文化ですので顔見知りになると強いです。

2.トレーニングに必要な用具の準備

これは当たり前のことなんですが、準備するものが色々あります。今回は雪上トレーニングに絞るので、コンディショニングのためのものは省きます。

まずはトレーニングに必要なゲートを各種目3-4束。そしてタイムを計る計測機器、ビデオカメラ、タブレット。

そしてコースにラインを引くための7L容量のスプレー、コース整備のためのスコップ、コース作りで水をホースで撒く際に使用するノズル(消防士が使ってるやつ)、インジェクションする際はインジェクションバー、パラレルレースの練習をする際はスタートボックス(自動開閉、ランプ、音付き)などなど。

つまり練習や準備に応じて準備するものが変わってきます。特にインジェクションバーやスタートボックスは重いので運ぶのが大変です。

3.トレーニングコースの雪質を調整する

さて、トレーニング場所を決定して、必要な用具を持ってきました。練習日の前の日に荷物を運搬してコースを見に行きます。事前に情報を得てトレーニング場所を決定していますが、当日の雪質、その日の天気と気温をチェックしてからコース作りを開始します。コース作りというのは簡単にいうとコースの雪に水をいれます。水をホースで撒いたり(消防車レベルの放水)、インジェクションしたり、ピステンの後ろにホースを繋いで撒いたりしてくれるスキー場もあったりします。

自然雪に撒く場合は大量の水が必要になりますし、人工雪のある程度コンパクトな状況ならそこまで必要ありません。撒きすぎると本当のスケートリンクみたいになってしまいますし、少なければ層が薄くなって割れやすくなってしまったりするので調整が難しいです。経験がものをいいます。

水を入れる作業はだいたい2-8時間くらいかかります。コーチの人数やコースの長さ、そして雪によって左右されますのでかかる時間はまちまちです。

トレーニングの目的に合わせてどのくらいの硬さにするか調整したり、レース前には次回のレースのコース状況を現地の情報や以前のレースの記録からある程度予想し、それに近いものを作っていきます。

スキー場の協力が必要不可欠なので、スキー場の都合によっては営業終了後から深夜まで作業することもあれば、人手も出してくれてすぐ終わることもあります。

大事な仕事の一つです。

4.安全を確保する

コースを硬くしてトレーニングする準備ができました。練習をする前にしなければいけないことがあります。選手の安全の確保です。

これはスキー場側がすでにやってくれている場合が多いですが、スキー場のオープン前に練習したり、一般のコースの一部を使ってやったりする場合にはネットを張ったり、マットを取り付けたりします。
転倒などのアクシデントでコース外に飛び出してしまったりリフトの支柱に激突してしまうと生死に関わる事故に繋がる可能性があります。
最悪を想定してレースと同程度の安全管理を目指し、できる範囲で対策を行います。
残念ながら悲しい事故が過去に何度も起こったことのあるスポーツです。当たり前ですがコーチとしては安全確保が最優先事項であり、1番忘れてはいけないところです。
もちろんコーチングのコースでもネットの張り方の講習がありますし、消防署でのファーストエイド講習の受講も必須です。私はこっちでも日本でも受講しましたが、日本のスキーコーチにはどれくらい受講した方がいるんでしょうか。
なにもアクシデントが起こらないように、そして起こってしまった時には適切な対応ができるように、今後も気を引き締め続けていたいです。


以上、準備編でした。次回は実際のトレーニング編を書きたいと思います。

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