謎のコスメ・ブランド、Nekerから紐解く韓国エンタメのネクスト・ステージ
さて、2021年の韓国エンタメ・ラボの第1回目の記事は、恐らくいま日本のビジネス界隈のバズワードであるだろうD2Cとエンタメの関わりについてです。(韓国エンタメ・ラボって何?という方はこちらへ↓)
新生ブランドNeker
さる9月1日、とあるブランドのティザーサイトがオープンとなりました。
そう、-5kgなどをはじめ様々なラインナップを持っており、109でのポップアップストアなどを通じて日本でも大きな売上をあげた韓国アパレルのChuuが新たに立ち上げるコスメブランドの「Neker」、9月4日にサイトやInstagramのアカウントもオープンになり、Youtubeにもティザー動画がアップされていました。
新しいコスメブランドとはいえ、動画やウェブサイトのちからの入れようは並みのブランドのものではなく、Chuuが元々コスメをやっていたにも関わらず、ここまで推すかと言うほど推しています。
Netflixヒットドラマに潜む事務所、ANDMARQ
少し話は変わりますが、みなさんが韓国ドラマのファンであれば、以下のツイートを観たときに、なにかしらビビっと来たのではないでしょうか?(ツイート訳:”ANDMARQ、わかってる事務所だね”)
ビビっと来ませんでしたか?では以下の作品群を並べてとき、なにか気づきませんでしょうか。
ゾンビ×時代劇で衝撃を与えてた『キングダム』、『星から来たアナタ』のキム・スヒョンが5年ぶりの復帰作として話題を集め、ソ・イェジのサイコパスっぷりがぶっ飛んでいた『サイコだけど大丈夫』、そして日本で最近これまで韓国ドラマなんて観なかったオジサンたちが急にハマりだした『梨泰院クラス』。この3つの作品の中で主要なキャストとして抜擢されているのが『梨泰院クラス』のキム・ダミ(チョ・イソ役)、『キングダム』のキム・ヘジュン(王妃役)、『サイコだけど大丈夫』のジャン・ヨンナム(師長役)とパク・ジンジュ(ユ・スンジェ役)なのです。
そう、彼女たちの最新の出演作はすべてNetflix上で放映され、グローバルでその存在感を発揮しており、そんな彼女たちの所属する事務所が「ANDMARQ」という、主に俳優が所属する、日本ではほぼ知られていない芸能事務所となります。(みんな大好きJYPやビッグヒットエンターテインメントなどの音楽系事務所とはだいぶ毛色が異なります)
余談ですが、映画『新聞記者』のシム・ウンギョンさんが所属していた事務所でもあります(今は脱退済み)。
ANDMARQとChuuの意外な関係
ここまで読まれた方は疑問に思われるでしょう。”で、その2つになんの関係があるの?”と。
実はNekerのブランド・モデルは、メインが上述のキム・ヘジュン氏であり、サブがキム・ダミなのです。(基本オフライン店舗のプロモーションに使われるため、オンラインで目にすることは少ないと思います)
日本ではあまり話題になりませんでしたが、実はChuuを運営するPPB STUDIOSは2020年6月、とあるファンドに買収されています。
その会社は株式会社NUB。
オーナーのイ・サンロク氏は元祖韓国コスメのAHCを創業し、ユニリーバに売却、約1兆ウォン(1,000億円)とも言われるキャッシュを手にします。彼がその資産を管理するために立ち上げたファミリーオフィス、それが株式会社NUB(http://www.nub.co.kr/)”ナブ”になります。
NUBのポートフォリオを見ると、BTSなどを手掛けたブランド・コンサルティングの「+X」(プラスエックス)からマスク製造のCNTUS(シーエヌトゥス)など、幅広い投資活動をしています。(また、一部LP投資としてユニオン・インベストメント・パートナーズのようなエンタメ専門のファンドにも投資しています)
また、「悪人伝」(おれたちのマブリー!!!!)などを制作した映画配給会社のACEMAKER MOVIE WORKS(エースメーカー)やSARAM Entertainmentにも出資するなど、アクティブにコンテンツ領域への出資を行っています。
このように、NUBはイ・サンロク氏が財をなした化粧品ではなく、エンタメ領域での出資がメインだったように見えます。しかしなぜ突然、PPB STUDIOへの出資に踏み切ったのでしょう。
その理由を推測するヒントは、ビッグヒット・エンターテイメントのパン・シヒョク氏が何度かメディアでも口にし、2020年下半期の「Big Hit Corporate Briefing with the Community」というBig HitのIR説明会でも言われている「アーティスト間接参加型」のビジネスモデルにあります。
Big Hitの収益のメインはBTSであり、アーティスト依存型のビジネスモデルであることは間違いありません。エンタメ企業、特に芸能人を主軸にした企業は芸能人の稼働率が利益になります。Big Hitはこのリスクを低減するためウィバースというプラットフォームを作り、ファンとのコミュニケーションの窓口にするだけでなく、グッズの販売などを行う形を推し進めています。
IT企業がSaaSという形でRevenue ProspectionのVisibilityを高めるように、彼らはプラットフォームのアクティブ・ユーザー数を元にしたコンバージョン率の測定と、それによる収益を予測しているのでは?ということも考えられます。
D2Cをエンタメ企業にとっての安定した収益を生む装置として利用できる可能性がある、という考えに至ります。
今後の韓国企業ではエンタメとコマースの領域が溶け合うか
以上みてきたように、NUBはIP(芸能人)の上流を抑え、クリエイティブを自ら制作、最終的にはOEM/ODMを活用したコスメのコングロマリットへ展開してきています。
これまで韓国の化粧品会社はそれこそユニリーバのAHC買収やロレアルのSTYLE NANDA(≒3CE)買収など、メーカー同士のMAにフォーカスされがちだったのですが、これからは(もちろん買い手に知見を持っていることが前提ですが)非メーカー側、特にコンテンツホルダーによる買収が増えるのでは?という予想をしています。
特にChuuの買収はコスメの製造ではなく、コスメの売出しやブランディング、もう少し言うとChuuのチームが持っていたクリエイティブ能力≒撮影や動画・画像編集能力を高く評価したことも一因ということでした。
D2C企業は製造能力を持たず、コミュニケーションのデザインやマーケティング・ノウハウ、コンテンツ制作のノウハウなどがその武器となります。今後の日本のD2C企業やエンタメ企業にとっても一つ、参考にできる事例ではないでしょうか。
例えばAvexはライブスターのようなMCNを買収していますが、今後D2Cの化粧品会社を買収したりする事例が出るのではないかと見ています。(アミューズさん、謎にオリーブオイルとかやってる場合じゃないですよ)
少し余談にはなりますが、日本ではFood Nekoとして展開している韓国のフードデリバリー、WooWa Brothersは最近、フード領域のライブコマースを準備しているようです。
エンターテイメントという領域がどんどんコマースと融合する事例はこれからも出てくるでしょう。
韓国のエンタメ事情はこれからもっともっと、複雑になっていくのかなと、ワクワクしています。
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