夕焼け

噓の無い優しさはオレを殺す

昨日の続きになってしまうんだけど、娘達に会いに行くついでに、実家にも寄る事にした。

お盆にも帰って無かったので、親父の仏壇に線香でもあげていきたいという気持ちもあった。

母親はいわゆる毒親だった。何よりも自分が大切、自分の体裁を守るためには平気で子供を傷つけるような人だった。
「お前のせいで恥をかいた」という理由で、よく罵られたり暴力を振るわれていた。
「お前はバカだ」「人より劣っている」
子供の頃、そんなような事をよく言われたり、無言のメッセージで受け取っていた。

そんな事を子供の頃から言われ続けていたせいで、「オレはバカで人より劣っている」と心の奥の方に刷り込まれてしまった。
精神的な意味で、人間扱いされていなかったように思う。

これがオレの生きづらさの要因になっている。
この刷り込みはいまだに抜けきれていない。

ある程度大人になってから本などを読んで気がついたんだけど、オレはアダルトチルドレンだ。
アダルトチルドレンは病名ではないし、誰かに言われたわけでもないので正確には"自称アダルトチルドレン"だ。
話を聞く限り、母もアダルトチルドレンだったのだと思う。
この事を書き続けると本題に入れなくなるので、また別の機会にでも書こうと思う。


そんな理由から、オレは母親を避けるようになった。
法的に親子の縁を切ることができないと知った時は絶望したくらい母親が嫌いだった。
なので、今回も実家に顔を出す事を最後まで悩んでいた。が、結局行く事にした。
毎回なのだが、母親が家に居ない事を祈りながら実家に向かった。

結局母親は居たんだが、母親のオレに対する対応が、オレの記憶の中のそれと違っていた。

「久しぶりだね」と嬉しそうな顔で言われた。
オレの記憶の中の母親は、最初から最後まで自分の事しか話さない人だ。
「最近足腰が弱って困ってる」とか、こんな事があって嫌な思いをしたとか。
オレに対する態度も何故か上から目線の怒り口調だったのだが、今回は違った。
オレの体調の事、仕事の事を心配された。仕事の事は適当にごまかしたんだが、目の前に居たのは優しいおばあちゃんだった。

そのギャップに戸惑い、親父の仏壇の前に逃げていた。仏壇に向かい線香をあげ、いつもと同じく、「娘達を見守ってやってくれ、なるべく早く迎えにきてくれ」と親父に頼んでいると、家庭菜園で作っている野菜を片付けたいから、生っている実を全部持って行ってくれと母に頼まれた。
ミニトマト、ピーマン、シシトウ、青唐辛子が山盛り取れた。
母親は何故か裏の家の畑からブドウを採ってきていた。食べきれないから勝手に採って食べてくれと言われているらしかった。

野菜とブドウ、おまけに毎年本州の親戚から送られてくる栗と、食べきれないと言っていた仏壇に上がっていたお菓子を合わせると、大きなレジ袋2つと小さなダンボールひとつになった。
それこそ食べきれる訳が無いが黙って貰ってきた。

娘との約束の時間もあり、実家での自分の用事も済ませ、車に乗った。
見送ってくれた母に向かって「また来るから」と初めて言って手を振った。

泣きそうだった。

多分小学生の時以来の、母に対して優しい気持ちだった。
母を避け続けていた事に少しだけ罪悪感がわいた。

でも今更一緒に住んだとしても上手くやっていける訳では無いのかもしれないとも思った。


そのあと、昨日書いた通り娘と食事をして、兄の家に向かった。
娘との食事の前に少し顔を出す事を兄に伝えてあった。

兄の事も少し書いておく。

子供の頃は仲が良かったのか悪かったのか、その両方なのかもしれない。
よくケンカはしていたし、何かあればオレに当たり散らすような人だった。
兄弟なんてそんなものなのかもしれない。

後から本人に聞いた事なんだが、学校にも行かずバイトをしても長続きせず、バイクを乗り回し絵ばかり描いていたオレのことを、何も考えず悩みも無く、好き勝手に生きている奴だと思っていたようだ。
この頃のオレの事を兄は嫌っていただろうと思う。

オレの方から見ると、兄の方が気分屋で自分勝手な人間だと思っていた。

兄も母を嫌っているように思う。
オレとの扱いは違っていたが、兄も母からの被害者だったのかもしれない。

そんな兄が変わり始めたのは結婚をしてからだった。
少し余裕が出来たように思う。人の事も考えられるようになり優しくなっていった。

母と離れた事も大きかったのかもしれないが、一番の理由は、義姉と義母がすごく優しい人だったからだと思っている。

そう思えたエピソードが沢山あるんだけど、長くなるので、また次の機会にでも。

息子が生まれてからの兄は人が変わったかのように優しくなり、また一段と人の気持ちがわかるようになったように見えた。

キリがないので兄の話もこれぐらいにしておく。


兄の家にお邪魔して、軽く挨拶をして、いつも心配ばかりかけて申し訳ないと義姉に言うと「何言ってんのぉ」と逆に申し訳なさそうに言われた。義姉からは、表情と言葉にまったく嘘を感じない。そのせいで、こっちの申し訳なさが倍増してしまう。

甘い物好きなオレの為に、わざわざケーキまで用意してくれていた。
ここでもまた、申し訳なさ倍増だ。

甥っ子が転職した事、義母も元気でやってる事、義母は顔が広いから、何かあれば相談に乗ってくれると言っていた事。
そんな話などをして1時間くらい経ち、そろそろお暇しようかと思ってた時
「遠くに居たら困っても何もしてあげられないし、体の事も心配だし、近くに引っ越して来たらいいのに」
と義姉が言ってくれた。
兄も甥っ子も同意してるような顔をしていた。
普段からそんな会話をしているのかもしれないと思った。

ほんとに嘘を感じない言葉だった。
本気で有り難かった。
でもその時、

噓の無い本気の優しさは、オレのような人間を殺す。

捻くれてるわけでも無く、本当にそう感じてしまった。

オレは生きているだけで人に心配をかける存在。
そう感じてしまった。

ここでまた自分目線の思考になってるのがわかる。

娘達も兄も義姉も甥も、オレの存在が迷惑だなんて思っていない事もわかる。

「捻くれてるわけでも無く」と書いたけど、多分オレは根本の部分から捻くれてしまっているのかもしれない。
矯正するのが難しいくらい深い部分が捻くれてしまっているのかもしれない。

そんな事を思いながら、そろそろ帰る事を告げると、義姉がさっき食べたのとは別に用意してくれてたケーキを「これ持って行って」と言って手渡してくれた。

お礼を言って車に乗り込んだら泣きそうになった。
恩を感じて後ろめたくなっている訳でも無い。
他意のない本当の優しさを感じると、オレは多分自分を責めてしまう。


今、オレの周りには優しい人しか居ない。
あとはオレ次第なんだよな。


娘が作ってくれた肉じゃが、義姉が持たせてくれたケーキ、母の家庭菜園の野菜。
荷物の量が行くときの3倍くらいになっていた。

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