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夢見る少女じゃいられない
君の手の中で、優しく燃える煙草を見ていた。
大好きな君。
車の中でこっそり見る横顔、スラリとした手、少し低い掠れた声。
君の全部が眩しくて、鮮やかだ。
君から連絡が来た、0時半。
本当に情けない、こんな時間に連絡してくる人にろくなヤツなんていないって、分かっている。
いつもいつも、返信は少し遅らせてしまおうと思う。君に振り回されるなんて、まっぴらごめんだ。でも、君に振り回されてしまいたい。好きだという気持ちに身を委ねてしまう。結局、連絡はすぐに返した。
香水を1プッシュ。いつものように、車を走らせた。
「ありがと、来てくれて」君が笑う。
こんな笑顔ひとつで、言葉ひとつで嬉しくなってしまう。
会いたいと少しでも思ってくれていることが、自分をたまらなく幸せにした。
この幸せを、自分のものにできたら。
そんな想いが込み上げる。でも、君に気づかれたくなくて、気づかれたら終わってしまいそうで怖くて、必死になって余裕なフリをした。
「いいよ、暇だったし。」
あぁ、ちゃんと、ちゃんと余裕のある自分でいれているだろうか。
君を、自分の世界の中で飼ってしまいたいとさえ思っている自分を、ちゃんと隠せているだろうか。こんなに余裕のない自分を見られるのは、君にだけは、耐えられない。
いつものように君を助手席に乗せて、いつものように車を走らせた。どこに行こうか、なんて言いながら。
「今日は、適当に遠くまで行こう」という君の言葉に頷いて、しばらく走った。
どうしたんだろう、遠くまで行こうなんて。一緒に居られる時間が長くなって少し浮き立つ心を感じながら、君の横顔を見た。
こんなに幸せなときに、友達に言われたことを、思い出してしまった。
「絶対その女やめといた方がいいって」
「お前もっと幸せになれるよ。」
「一緒に居たってどうにもならないじゃん」
「お前をもっと幸せにしてくれる人なんて他にたくさんいるよ。」
分かっている。分かっていた。分かっていながら、それを無視し続けた。気づきたくなかった。分かりたくなかった。気づいていたけど、それを認めたくなかった。分かっていたけど、君と一緒に居たかった。
君が俺を見てくれたこと、1度だってあったかな。
自分の眼に映る君の笑顔にやられてしまって、この笑顔が自分だけのものなような気がして。君の言葉、行動ひとつひとつに、少しでも好意が隠れていないか期待して。
なんてことない、普通の会話。このお菓子美味しい、とか、最近コレにハマってる、とか。全部、俺は覚えてしまった。君は、何かひとつでも、覚えているだろうか。
俺は、君のことをふとした瞬間に考えてしまう。君が吸う煙草、いつもつけている細い金のネックレス、好きだと言っていたグミ。一緒に飲んだ、缶のコーヒー。
きっと、君は何も思わない。いつも迎えに行く車と同じやつを見ても、会う前に必ずつけるようにしている、俺の香水の香りを感じても。
あぁ、やめてしまいたい。
君をつくる全部に一喜一憂してしまう自分も、君をどうしようもなく好きでいる自分も。
守れやしないと知っている、今も。
あぁ、やめたくない。
未来なんて、将来なんてないと分かっているこの関係、分かっていても君を好きなままの自分が、どんなに情けなくても。友達にどんなに声をかけられて、それが正しいと分かっていても、君を好きなままでいる。好きにさせられてしまう。
このまま、君の隣で淡い夢を見ていたい。
その夢が、悪夢だったとしても。
きっと俺は、くるしみながら、幸せでいられる。
君の隣で、くるしさに、君に縛り付けられる、幸せに浸っていられる。
それはきっと、他の人から見たらばからしいものだ。でも、好きだから。
今は、今だけは。このままでいたい。
夢見る少女じゃいられない、君が前に、カラオケで歌った歌。
夢見る少女じゃいられない。いつまでも、この夢を見ていることはできない。そんなことはわかっている。きっと、どこかのタイミングで君から終わらせられる。もしかしたら、自分から終わらせてしまう時が来るかもしれない。
でも、今だけは。夢見る自分でいたい。
友達に言われた、
「今その人と離れてどんなに苦しくても、いつか自分の中で思い出にできるよ」
という言葉。
そうかもしれない。離れるなら、早い方がいいかもしれない。
でも今は、やめたくない。やめられない。君への気持ちを、自分の中で初めて抱いた気持ちを、噛み締めていたい。
いつか、この夢から覚める時が来るまでは、どうか、君の隣で。