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投資信託約款も安倍首相に提出?-投信法の権限委任条項
本稿では、投資信託約款の提出方法について説明します。
まずは条文の確認から。投信法4条1項が根拠規定です。
<投信法>
(投資信託契約の締結)
第4条 金融商品取引業者は、投資信託契約を締結しようとするときは、あらかじめ、・・・投資信託約款・・・の内容を内閣総理大臣に届け出なければならない。
ここでも「内閣総理大臣に届け出」となっています。
しかし、投資信託約款をプリントアウトして首相官邸に赴き、安倍首相に届け出ようとしても、ご想像のとおり、受け取ってくれません。
金商法と同様、投信法にも権限委任規定があるからです。
<投信法>
(権限の委任等)
第225条 内閣総理大臣は、この法律による権限・・・を金融庁長官に委任する。
6 金融庁長官は、政令で定めるところにより、第1項の規定により委任された権限・・・の一部を財務局長又は財務支局長に委任することができる。
<投信法施行令>
(財務局長等への権限の委任)
第135条 法第225条第1項の規定により金融庁長官に委任された権限・・・のうち、法第2編第1章の規定(※)による権限・・・は、金融商品取引業者の本店の所在地を管轄する財務局長・・・に委任する。
(※)法第2編第1章の規定・・・委託者指図型投資信託の規定
上記の規定により、委託者指図型投資信託の規定による権限は内閣総理大臣から金融庁長官に委任されており、さらに金融庁長官から財務局長に委任されていることが分かります。
しかし、ここでも話はこれで終わりません。
投資信託約款をプリントアウトして財務局に赴き、財務局長に提出しようとしても、やっぱり受け付けてくれません。
上記の投信法施行令135条には続きがあり、同条5項及び6項に以下のような規定があります。なお、このような規定は金商法にはありません。
<投信法施行令>
(財務局長等への権限の委任)
第135条
5 前各項の規定は、金融庁長官の指定する権限については、適用しない。
6 金融庁長官は、前項の指定をした場合には、その旨を告示するものとする。
<金融庁告示第90号>
(権限)
第4条 投資信託及び投資法人に関する法律施行令第135条第5項の金融庁長官の指定する権限は、次に掲げる者に係る権限とする。
一 投資信託及び投資法人に関する法律・・・第2条第11項に規定する金融商品取引業者(※)
(※)法律第2条第11項に規定する金融商品取引業者・・・投資信託委託会社
上記の告示で投資信託委託会社に係る権限が指定されているため、投資信託委託会社に係る権限については、結局のところ、金融庁長官から財務局長に委任されず、金融庁長官が行使することになります。
投資信託約款の届出の受理も投資信託委託会社に係る権限の一つと考えられます。
なお、投信法には金商法の電子開示手続のような、電子手続に関する規定はありません。
よって、投資信託約款をプリントアウトして金融庁に赴き、金融庁長官に提出する、これが正解になります。
(実際には、金融庁の中にある文書受付係に、金融庁長官宛の文書として提出することになります。)
厳密に言えば、届出の対象は、投資信託約款ではなく「投資信託約款の内容」であり(投信法4条1項)、投資信託約款の内容を記載した届出書を提出します(投信法施行規則6条1項)。
この届出書には以下の2つの添付書類があり、そのうちの1つが投資信託約款の案です(同条2項)。
一 投資信託約款の案
二 受託会社の承諾書
投資信託約款は、その案を、届出書に添付して提出することになります。