下版って言葉を久々に聞いたので、制作物(印刷物)の段階を表す用語を整理してみた
先日、とある制作物の仕事で、印刷会社の方から「じゃあ、こちらで下版になります」って言われました。下版って言葉を聞いたのは、たぶん10年ぶりくらいです。最近は、ほとんど「校了」って言われます。あまりにも久々だったので「下版ってなんだっけ?」と思わず聞き返してしまいました。
ここ最近、印刷物のデータはほぼPDF入稿になっており、以前にあった制作の手順をだいぶ端折るようになってきました。またWeb媒体では、こういう印刷物系で使っていた用語も、ちょっとずつ意味合いや捉え方が違って使われているようにも感じています。なので、この辺の用語を自分なりに解釈してまとめてみることにしました。半分は、自分が忘れないためのメモなので、変なところがあっても暖かく見守ってください。あと、間違いや勘違いがあったら、ご遠慮なく指摘いただければと思っております。
脱稿
原稿が書き終わったことを言います。この段階では、編集の手が入っていない素の原稿です。著者さんがTwiterなどで「脱稿したからゆっくりするぞ!」とか呟いていますが、編集の仕事はここからが本番なのでゆっくりはできません。あと、修正があるので著者さんも(それほど)ゆっくりはできません。
校正・校閲
一般的に、校正は「誤字脱字」などの間違いを見つけることで、校閲は内容は事実確認について精査することと言われています。
校正の場合は基本的に「突き合わせ」が仕事となります。刷り上がった紙面に、著者からの原稿が正しく反映されているか、赤字が修正されているか、デザイン上のミスがないか、それに加えて誤字脱字や表記ルールの違反がないかをチェックするのが主な役割です。ベテランの編集者さんの中には、ゲラを重ねて上下に素早く動かし残像で間違いがないかをチェックするパタパタ(あおり検版」と呼ぶそうです)を経験した方もいるかもしれません。
一方、校閲の場合は、例えば広告などで法律に反した表現になっていないか、数値や年号などが正しいか、文章の辻褄が合っているか、などのチェックが役割とされるケースが多いようです。
ただ、あくまでも個人的な意見ですが、校正と校閲の役割を明確に分類するのは難しいと考えています。一般的に、誤字脱字のチェックは校正の役割とされていますが、例えば小説などの場合、著者が意図的に誤字脱字や間違った表現をしている可能性があります。「アルジャーノンに花束を」で誤字脱字を単純に修正してしまったら物語が成り立たなくなります。また、ミステリーなどの場合は、その誤字や脱字が「伏線」である可能性もあります。となると、内容にまで深く踏み込んでのチェックになるので「校正」というよりは「校閲」としての役割が求められるわけです。
まあ、現実問題として、校閲のレベルまで必要になるのは、かなり予算が潤沢な案件か、もしくは法律や専門的な解釈が必要な案件に限られると思います。個人的に、編集などの現場が行う作業は校正、専門家や校正・校閲者に依頼するのが校閲と、勝手に使い分けています。
入稿
もともとは「原稿(データ)を印刷所に渡すこと」を示します。つまり、校正・校閲も終わったレイアウトデータの段階が「入稿データ」となります。ただ、Webメディアの場合は印刷という工程がないので、Webにアップできる(素材を渡した)段階を入稿と呼ぶケースが多いようです。たまに、編集部に渡した段階を入稿と呼んでいる人がいますが、もともとの意味から考えると、入稿ではなく納品と呼ぶべきな気がします。
ちなみに、時間ギリギリに入稿して一切の校正作業を行わない「投げ込み入稿」なんてのもあります。何があっても文句言わないことが条件なのに、何かあった場合は高確率で文句を言われるので、やらない方が無難です。
初校
印刷所に入稿したデータの「最初の刷り上がり」が初校です。ちなみに、著者やライターが「最初に渡した原稿」を初稿と言います。一文字違うだけで全然意味が変わりますが、誤変換したメールを送ってしまうことがよくあります。
最近は印刷所からの刷り上がりではなく、(編集による)校正・校閲後の印刷データをオフィスのプリンターで出力(もしくはPDF化)したものを初校と呼ぶケースも多いようです。本当はデータのミスなんかも見つかるので、印刷所からの刷り上がりを初校とした方がいいんでしょうけど、この辺りはコスト削減と時短の影響によるものだと思います。Webメディアの場合は、CMSなどにアップした未公開状態のページ(もしくはそれをPDF化したもの)を呼んでいるようです。ただ、このあたりはメディアによってルールが異なるので、どの段階を初校と呼ぶかは、その都度すり合わせた方が無難な気がします。
再校
初校で発生した修正を反映した刷り上がり(もしくはその印刷データ)のことです。二校とも言います。これが繰り返されると、三校、四校となります。できれば四校以降は追加料金が欲しいです。
ゲラ(校正刷)
校正・校閲する用に印刷(もしくはPDF化)したものです。書籍を扱うとゲラの紙代もバカにならないので、今後は全部をPDFの電子校正で済ませたいんですが、なぜか紙のゲラでないと見つけられない誤字脱字があるんですよね。ほんと、不思議です。
色校正
想定通りの色に刷りあがっているかを確認する工程です。色の違いだけではなく、版のズレや版の汚れによって生じた不具合もチェックします。
印刷物の色というのは、印刷機や紙の種類(状態)によって発色が変わります。淡い色を想定していたが、印刷してみたら思っていたよりもくすんでいた、ということもあります。その場合、印刷会社とデザイナーが相談しながら色を調整することになります。
なお、「版のズレ」や「版の汚れ」という言葉からお分かりのように、この段階では製版(後述します)がされているので、修正が発生すると追加コストが発生します。なので、よっぽど色に拘りが必要な案件(写真集など)でない限り、色校が二度三度と繰り返されることは少ないようです。
色校を最終(文字)校正みたいに考え大量の修正を指示する人がいますが、その場合は修正したページ単位で製版用のコストが増えることを肝に命じておいて欲しいです。あと、そのコストを制作側に負わせるのは勘弁してください。
責了
責了というのは、制作者(印刷所やデザイン事務所など)の責任で修正して完了とすることです。例えば「ここを修正しておいてください。こちらでチェックする時間はないので責了でいいです」って感じです。本来なら上司の確認が必要だけど時間がないので現場担当者の責了で、という場合にも使われることがあります。
昔は、修正後のチェックでも「ゲラを郵送して確認してもらい、電話でOKをもらう」のように時間と手間がかかっていたのでよく使われていましたが、最近はPDFに出力してメールで送ればすぐにチェックできるので、あまり責了という言葉は使われていないようです。それと、責了は「言った言わない」のトラブルになりがちなので、よっぽどのことがない限り避けるべきです。
念校
校了した後に、念のためにチェックすることです。あくまでも「こうなります」という確認のためです。本来、念校の段階では基本的に修正できません。本当に致命的な間違いなら修正せざるをえないでしょうが、レイアウトの変更とか図版の差し替えとかは無理です。やめてください。
校了
修正もすべて反映して印刷所に渡した段階です。と同時に、「これにて全部完了」という意味でもあります。当然、これ以降の修正はできません!
ただ……現実は、どうしても直さなければならない間違いが見つかることもあります。その場合、印刷会社に相談して、修正が間に合うかを確認することになります。そして「下版前」であれば、まだギリギリ修正がききます。そしてこんな時には「じゃあ修正したら責了で」という言葉が交わされます。ただし、校了後の修正は、かなりイレギュラーであり、本来はNGです。
製版と刷版
色校の項目で出てきた「製版」は、印刷に馴染みがない人には聞き覚えのない言葉かもしれません。製版とは、印刷用のフィルム(フルカラーの場合は4色分)を作成して、刷版を作るための前段階のものを言います。刷版は、製版の工程で作成されたフィルムを版材に焼き付けた、印刷用の物理的な版のことを言います。
オフセット印刷には刷版が必要ですが、オンデマンド印刷は、データから直接紙に印刷するので刷版は不要です。ただし、印刷のコスト単価は圧倒的にオフセットの方が安いので、大量に印刷する場合はオフセットを選択するケースがほどんどです。また最近は、製版フィルムを用いず、データから直接刷版を作成するCTPという仕組みも広がっています。
下版
下版とは、「全部OKになったから、印刷用の刷版を作って」という印刷所内で交わされるGOサインです。最終的な版ができあがっているわけですから、この段階での修正要請は、事実上の印刷中止を意味します。そもそも下版は印刷所内での指示なので、外部からのやりとりでは校了で最終です。
ざっくりとこんな感じでまとめてみました。あくまでも、個人的な知識(と調査)によるものなので、勘違いしていたり、実情と合わない内容になっている可能性も十二分にあります。最近はWeb媒体の仕事が多くなってきており、使わない言葉も増えてきたので、記憶があいまいな部分もあります。なので、間違っている箇所がございましたら指摘してください。
ちなみに、先に出た印刷会社の方に後日伺ったところ「これ以降は修正はできません、という念押しのために、あえて下版という言葉を使っています」とのことでした。
参考書籍・サイト
DTP&印刷スーパーしくみ辞典(ボーンデジタル発行)
入稿データのつくりかた CMYK4色印刷・特色2色印刷・名刺・ハガキ・同人誌・グッズ類(エムディエヌコーポレーション)
知っておきたい印刷の知識
社内報担当者のための情報サイト「SHAHOO」
吉田印刷「DTP・印刷用語集」
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