純コーヒー
私たちの出会いは偶然だった。当時、インドネシアの富裕層の方々に日本人デザイナーがデザインする洋服を販売するプロジェクトがあり、公募するためにチームのデザイナーとして声がかかった。中川ワニ珈琲を支えると決めていたものの、アパレルデザインへの熱い気持ちが完全に無くなった訳ではなかったので心が揺らいだ。
物事の道理はリサーチからと考えている。一体、インドネシアの市場でどんなことが起きていて何が求められているか肌で感じたかった。インドネシアに当てもなくワニさんを連れて旅に出るのも一つかと考えていた。
そんなおり、京橋にある〝良いニュースを伝える〟という意味のある名前のお店に、(コーヒーの)納品のお遣いを頼まれた。フランスで修行をしたシェフのお店には小さな棚があって、そこにシェフのお気に入りのものが並べ売られている。中川ワニ珈琲もそこに並べて下さっていたのだが、自分のコーヒーの横に綺麗な瓶が並んでた。
初めて見るその商材は〝純胡椒〟と書かれている。手に取り、「これ何?」と聞くと「生の胡椒の塩漬けでとてもおいしいよ。」と教えられた。おいしいは美しいと直結していると私は以前から思っているのだが、なんとも言えないその胡椒の美しさに食べたいという気持ちと同時に、一体どんな人が、これを作っているのか興味が出た。ラベルの裏を見るとmade in Indonesia と書かれていて運命を感じた。インドネシアインドネシアと考えていると面白そうな人に出会えるもんだと思い思い切って連絡をした。
すると、棚のお隣さん同士ということで相手の方も中川ワニ珈琲に興味を持ってくださっていて、アトリエに来てもらうことになった。今から、かれこれ5.6年前の話である。大山駅で胡椒の仙人さんとの待ち合わせが新しい扉が開く準備の第一歩だった。まだ昨日のことのように鮮明な記憶の一つである。